第32話 不純
「わ、見て! 生徒会執行部の……ソウロ副会長よ」
「ほんとだ……カッコいい……」
「うん……成績優秀。Cランクの称号を持つ、ウヤロ伯爵家のエリート」
「3年生ってやっぱり歩いているだけで貫禄あるな~」
学園内を肩で風切って歩く男。
魔法学園生徒会副会長のソウロ。
家柄も良く、学業、魔法、模擬戦全てにおいて優秀な成績を出し、将来を有望視されているエリート。
また、その端正な顔立ちに憧れる学内の女子も多く、本人もまたそんな女子たちに微笑みながら手を振る。
「ふふふ、今年の一年生も可愛らしい娘が多いようだね」
「ええ。……ふふふ、味見でもしようと?」
「いやいや、そんな人聞きの悪いことを言わないでくれ。それに、私には既に一年生はただ一人を決めているからね」
隣を歩く同じ生徒会に所属する黒髪女子のスパイナの冗談交じりの言葉に笑みを浮かべるソウロ。
二人が目指すのは一年生の教室。
「でも、公爵家のクルセイナさんは、随分とお堅い人だと聞いてますけど、副会長に靡きますかねぇ?」
「だからいいんじゃないか。簡単に体を許さない、誇り高さ。だからこそ美しい」
無自覚なのか、ソウロが肉体関係のあるスパイナのことを「簡単に体を許す女」と言っているようなものだが、スパイナはニコニコしたまま。
だが、その目尻が僅かにピクピク動いているのだが、ソウロはまったく気づいていない。
「ふっ、でもそれだけじゃないですよぉ? あの、例の謎の新入生……シィーリアス・ソリッド……」
「むっ……」
「彼が何故かフォルト姫やクルセイナさんと初日から親しくしているという報告もありますし、案外もう既に――――」
「そんなことありえるはずがない。そんなこと私が許さない」
嫌味を込めたスパイナのからかいに、ソウロは本気で怒ったような表情でそう口にした。
「許さないと言われましても、副会長は学年トップクラスといえどもCランク。Aランクのカイ・パトナを倒したというシィーリアス・ソリッドと決闘しても勝ち目は―――」
「確かに私が自ら戦えばそうかもしれない……が、忘れていないかい? この私に刻まれた、我がウヤロ家に伝えられた『召喚魔術式』を」
「……ええ、もちろん。十分お強いのに、副会長の本職は自ら戦うのではなく、その身に刻まれた紋様と自らの魔力によって使い魔を呼び出す、召喚魔導士」
「その通り。僕個人はたとえCランクだとしても、いざとなれば……これを解禁しても構わない」
「……一人の女性を寝取られないようにするためだけにそんなことまでなされようとするとは、よほどお惚れになられているんですねぇ~」
腕をまくり、自信に満ちた笑みを浮かべて自身に刻まれている紋様を見せるソウロ。
すると、その時だった。
校舎の渡り廊下を横切って外へ出る四人組がソウロの目に入った。
「はっはっは、いや~、大勢で昼食を取るのは楽しみだ。これぞ、友達と言うものなのだろう。改めてよろしく、セブン!」
「せ、せぶん……(あ、あだ名のつもりか!? セブンなどと呼ばれたのは人生で初めてだぞ!?)」
「はぁ~、やれやれですわ(ほんとうなら、ぱぱっと昼休憩を終えてシィーさんとイチャイチャしたかったですが……セブンライトが邪魔ですわぁ~)」
「むぅ……(なぜこんなことに。昼飯を食べてシィー殿に本日のパンティーチェックをしてもらおうと思ったが……セブンライトがいると無理だな……)」
ご機嫌に笑う男子生徒が一人。
その男子生徒に肩を組まれながら、非常に戸惑った様子で連れられている男子生徒がもう一人。
そして、微妙な顔をしてそれについていく女生徒二人。
「ん……ん? ……!」
「あら?」
その四人こそ、シィーリアス、セブンライト、フォルト、そしてクルセイナの四人組。
ソウロだけでなく、その近くを通っていた他の生徒たちも驚いた様子で固まる。
他国の姫、公爵家の令嬢、子爵家の子息、そしてその三人を連れて歩く一人の男子生徒。
目立たないわけがなく、そのメンツに皆が戸惑っていた。
「クルセイナ!」
「え……あ……ソウロ殿。あ、いや、今はソウロ先輩? それとも副会長? こんにちは」
「あ、ああ、うむ……」
思わず声をかけてしまったソウロ。だが、それでも目の前の光景を改めて見て、反応に困っていた。
(な、なぜだ? この男は噂のシィーリアス……クルセイナやフォルト姫と親しいというのは聞いていたが……なぜ、例のセブンライトまで?)
一体、どういう繋がりなのかが一目で分からず戸惑うソウロ。
一方で……
「あら、魔法学園生徒会執行部の副会長さんですわね。初めましてですわ~」
「ん? クルセイナの知り合いか? というか……セートカイシッコウブ? とは何だろうか?」
「副会長……」
自分たちの目の前に現れたソウロに、「ほ~ん」となるフォルトと、首を傾げるシィーリアスと戸惑うセブンライト。
ソウロとスパイナは単純に挨拶だけして通り過ぎるわけでもなく、ただ目の前で狼狽えていた。
「えっ、ええこんにちは、フォルト姫。そして、え~、セブンライトくんだね。あと、君は……シィーリアスくんだね? クルセイナ、君たちはどういう関係で?」
「え? えっと、関係……クラスメートで、ゆ……友人……です」
「友人? ……そちらのシィーリアスくんと君が親しいのではという話は聞いていたが、セブンライト君も? 君たち顔見知りではあったが、そこまで親しかったようには……」
「えっと、まあ、そう思われるでしょうが、その……一応今日から……」
「今日から?」
関係性を尋ねるソウロにどこか歯切れの悪い回答をするクルセイナ。
正直、彼女自身も「シィーリアス、フォルト、クルセイナ」の三人組の関係性を聞かれたら「友人です」と迷いなく回答できるのだが、このグループにセブンライトまで加わったことで、何となく戸惑ってしまっているのだ。
一方で驚いたソウロだが、すぐに鼻で笑ったように笑みを浮かべて……
「ふっ、あなたやフォルト姫様ほどの御方が……失礼ですが、友人は選んだ方がよいですよ?」
「むっ……」
その笑みに、クルセイナ、そしてフォルトの目尻が僅かに動く。
だが、そんな中で……
「うむ、僕とクルセイナとフォルトは一昨日から友で……そして今日、セブンとも友になったのだ!」
「ッ!?」
「ちょ、シィー殿……」
シィーリアスはニッコリと笑いながら、クルセイナとセブンライト、二人の肩に腕を回して自分に引き寄せた。
自分たちは友になったとアピールするように。
「ぬっ、むっ!?」
そして、その行為にソウロの眉が動く。
ソウロはセブンライトはどうでもよかったが、シィーリアスがクルセイナの肩に馴れ馴れしく手を回して引き寄せるという行為に我慢がならなかった。
「ちょ、君! ここは学園内だぞ! 学園内で女生徒の身体に無闇に触れるなど、どういうつもりだ! ましてや、相手を誰だと……友人に『してもらった』のかもしれないが、そのような行為は不純異性交遊と見なし、学園側に報告すれば君は停学か退学だぞ!」
「え?」
「いや、ソウロ殿! シィー殿は別に構わなくて……というか、この程度で不純異性交遊など言い過ぎである! 我らは本当に――――」
鼻息荒くするソウロの隣で、スパイナは笑いを堪えている。「どの口が?」と。
だがいずれにせよ、もともと周囲からも目立つ状況下で、副会長ソウロが興奮して声を荒げたことで、一気に生徒たちが足を止め、さらに騒ぎを聞きつけて他の生徒たちも集まってきた。
そんな中……
「……え? ふじゅんいせいこうゆう? というのは、分からないが……学園内で女生徒に触れる……え!? そ、それはダメなことなのだろうか!?」
シィーリアスはソウロの言葉を真に受け……そして……
「で、でも、フクカイチョーさんと、そこの女性の君! 君たち二人、さっきまでくっついたり、キスをしたり、もっとその先のイチャイチャなことをしていたのではないのか!? そういう匂いがプンプンするぞ!」
「「ぶっぼ!?」」
「え?! ちょ、シィー殿……え?」
「ほ~ん♪」
「は、え、は?」
公衆の面前でシィーリアスはとんでもないことをソウロとスパイナに向かって言った。
「は、ははは、き、ききき、君はいきなり何を言い出すのだ? わわ、わ、私たちに向かって何を……」
シィーリアスの衝撃発言にソウロは笑みを浮かべながらも、全身に激しい汗、そして震えを起こしながらとぼけようとする。
だが……
「え? でも……くんくん……うん! 間違いない! 独特の汗や生臭い匂いが君とそこの女性から匂うぞ!」
「ば、ばかな、私たちは香水でちゃんと念入りに消臭……あ!?」
「ッ……? ……このバカ……」
「「「「「え…………え!?」」」」」
シィーリアスの目も鼻も誤魔化せない。
ソウロの墓穴により、スパイナは舌打ち。
そして、クルセイナやセブンをはじめ、その場にいた全ての生徒たちが口を開けて固まり……
「「「「「えええぇええええええええええええ!!??」」」」」
次の瞬間、学園中に絶叫が響き渡った。
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