第108話 開戦前夜
ヘルシングとの戦いは全くもってつまらない。一撃が即死だし筋力も私を凌駕する。しかし、その程度だ。
「お前の攻撃、つまらない」
ユーリの方がまだ楽しい。なんか、ほんと、ワクワクしない。
「セイっ!」
ガラ空きの腹を蹴ってソファーに座らせる。
「グッ……ッ!」
睨んでくるが、怖くも何も無い。
「はぁ、人間だった頃の方が脅威に感じた。
私の気持ちのが変わったのか、化けの皮が剥がれた……つまりは大した事ないと分かってしまったが為か……」
向かいに座るとヘルシングが杖を繰り出すのでそれを弾く。
「何だそのやる気の無い突きは。
真面目にやれ」
「私は!」
弾かれた剣を逆に薙いできたのでそれをかち上げる。
「ほら、脇腹がガラ空きだ」
左側に落ちていた木片を投げつけて、右脇に突き刺す。
「ギッ!?」
「まだ立つな」
立ちあがろうとしたのでテーブルを蹴ってヘルシングのスネをぶつけてやる。
ヘルシングは涙目でソファーに戻った。
「……成程」
今分かった。
「アンタ、武人でも何でも無いのか」
「当たり前です!
私はツェペシュ様の秘書です!」
「成程成程。
ならば仕方ない。あの時は、無駄に警戒し過ぎた。形、だな」
頬杖を突き、ヘルシングを改めて見る。
ヘルシングは私を睨み付けるが、その瞳の奥には恐怖がある。成程、ふむ。
「やはり、種族の壁はアレだな。
紛い物だ。発揮している内は絶大だが、そのハリボテがわかって仕舞えばなんて事はない。
武人ならば脅威になるが、凡人では」
つまらん。
大きくため息を吐いたところで殿下はもちろん、リョーラン妃と見知らぬ男がやって来る。
「はい、私の勝ちー
何で負けたか明日までに考えておいて下さい。ほな、頂きます」
手にしていた剣をヘルシングの胸に投げ付けてソファーに固定。
「何事だサブーリン殿。
この方は?」
「神祖の吸血鬼で、ツェペシュの秘書たるヘルシングさんでーす。
なんでも、3年後に魔王軍が侵攻してくるので準備しておく様にとの事でーす」
3年後だからわりかしガチで時間無いんじゃねーかな?
「つー訳でーシャマル連れてワープしたいので、クリスにワープの魔術を教えなさい」
ヘルシングを見る。
「嫌ですわ」
仕方ないので口に布巾を詰め込み、靴を脱がせる。
「君等吸血鬼は我々人間と同じ人体の作りをしている。実に良い事だ」
靴下も脱がせて、死体のように真っ白く細長い指を見る。
「君、少し足臭いな」
ヘルシングがモゴモゴと叫んでる。取り敢えず、小指目掛けて剣の柄を叩き付けてやった。シンシティで覚えた。
「まぁ、足の小指は無くとも歩くのに支障はなかろう?」
モガモガ。
「何を言ってるのか分からん。
私が君が教えると言うまでズッと拷問しよう。寝る間も惜しみ、君がイエスと言うまで。
指を全部潰したら次は針を爪の間に刺してやろう。これもまぁ、死ぬ程痛いらしいが、君は死なない。死ぬ程痛いだけだ」
モガーと吸血鬼が叫んでいた。
ハッハッハッ。モグラ叩きと言うか釘を打つ感じで足の指を全部潰してやった。ヘルシングは泣いていた。
見てるだけで痛そう。
「特使をそんな扱いしては国際問題になるのでわ!?」
「宣戦布告されたならば、最早敵です。
3年後との事ですが、敵は戦の準備をしています。攻撃を受けていないだけで、戦争は始まっています。
私は王国の近衛騎士。陛下の敵が目の前にいるなら殺すまで。死なななら心を殺せば良い。
なので、ヘルシング卿にはクリスにワープの魔術を教えたくなる程度に心を壊してやる事にしました」
早く言いなさい、と潰れた指にナイフを突き立ててやる。
呻いた。そりゃそうだ。
「おー痛そうだ」
「止めるんだ騎士サブーリン」
背後からそう言われて手にしていた剣を取られる。殿下だった。さぁ、殿下はどう出るかな?
「解放しろ」
「何故?
コイツは敵。我等の王国を滅ぼさんとする敵ですよ?私は近衛騎士だ。王国と陛下に仇名さんとする朝敵を滅ぼすのが仕事だ」
何故それを邪魔するのか?
言外の問いに殿下はゆっくりと口を開く。
「貴公の語る言葉は全て、一言一句正しい」
殿下は周りに詰めた近衛騎士達を見る。
「君達の仕事は僕や母上と国を守るのが仕事だ。それについては僕も母上も何も否定しないし、寧ろ当然と答えよう」
だが、しかし。殿下は断言した。
「我が王国はこの様に吸血鬼一人を捕まえて身動き出来ない相手を嬲るような卑怯では無い。
正面から戦い、そして堂々と、例えそれが負け戦であろうが必ず勝つと信じて戦う。
僕はそう思っているし、母上もそうだと思っている」
殿下の言葉に騎士達は頷き私を見る。
「合格とは言わないが、及第点と言うところだろうな。
良かろう殿下。未来の主君に命令に従おう」
胸に刺した剣を引き抜き、ヘルシングの顎を掴む。
「感謝しろ朝敵?
寛大にも殿下は貴様を許された。
戦場にて合間みよう。序でにクリスにあの瞬間移動を教えなさい。次は死の刃を突き立てる」
私の言葉に彼女は頷いた。
それから3日掛けて戦争についての重要な話と、クリスティーナに対してのワープ術を教えた。
曰く、3日で覚えれるのは驚きとか。自慢の嫁ですわ。
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