第107話 そして、世界は動き出す。

 シャルマが目が覚めたら呼んで、と伝言を頼み私は押し掛けるこの国の将軍とか各国の強いらしい連中をボッコボコにすること早三時間。飽きてきた頃にクリスティーナが寄越した召使いがシャルマが起きたとやってくる。


「じゃー終わりでーす」


 目の前に立つ男にドロップキックを叩き込み宣言。

 それからタオルを差し出されたが、汗すら掻いてない。汗掻いてないからいらないと断り、シャルマの寝ている部屋に向かう。

 部屋に入るとクリスティーナが笑っていた。クリスティーナが楽しそうで何よりだ。


「どんなかんじー?」

「ダメですわ。

 頭がとてもとても固いですわ。さすがエルフといったところですわね」


 クリスティーナは明日から立ち上がり私に抱き付いてきた。何だ何だ?


「まーそーだろーね」


 ハッハッハッと笑っているとシャマルが私をじっと見てくる。何だ?惚れたか?


「それは無いですわ」


 心まで読むなよ。


「読めませんわ」

「えー?」

「顔に出てますわ。

 それよりそこのエルフに言うことがあるんでしょう?」


 早く言いなさいと急かされた。


「あーそうだった。

 君さーうちの国に来ないー?」

「何故?」


 シャマルが少し驚いた顔をしていた。


「まー野良の魔術の強いエルフってレアだからさー

 我が国の魔導の発展をコルネットの下でなんかーこーいー感じにやりなよーって感じでー」


 どーよ?と笑う。


「条件は?」

「冒険者を辞める事。

 我が国の軍に入るからね。で、怪しい事したら殺す」


 それだけ。


「冒険者を辞める理由は?」

「我が軍に入るのに、何故冒険者に縛られる必要がある?」

「貴女も冒険者」

「私は別にそんな物に何の感慨も無い。

 辞めても良い」


 私が言うとクリスティーナが入りなさいと告げる。この国にあるギルドの職員だ。


「私とサーシャの登録を消しなさいな」

「では、冒険者の証明たる証明証を」


 クリスティーナがはいと自分と私の分を差し出す。職員はそれを変な機械にセットすると正面に描かれた私達の名前を削った。


「これにて貴女方の冒険者登録を抹消いたしました。

 もし、冒険者として登録の際は此方をお持ちになってください。現階級に復帰出来ますので」


 職員は形式的な物言いで素早く証明証をクリスティーナに差し出した。

 どうするかね?とシャマルを見る。


「私の利点は?」


 シャマルが胸の前に下がる証明証を握りしめて問うて来た。

 葛藤があるのだろう。


「君の事をそれとなくだが調べさせて貰った。

 劣等感があるそうだね、シャマル」


 シャマルは今でこそS級冒険者であるが、その昔は魔術を上手く扱えなかったそうな。それ故に魔力を直接ぶつけると言う力技をする様になった。つまり、力押しに頼る様になった。

 単純な技でも極めれば何とやら。S級冒険者にまで登れるがそれでも馬鹿にされる。何処までやってもそれは魔術では無いのだから。

 グルグルパンチをマッハで回して岩をも砕く勢いにしても「グルグルパンチ」なのは変わらない。


「冒険者なんて肩書きよりも、ハイエルフの弟子と言う肩書きの方が、ねぇ?」


 私はクリスティーナを見るとクリスティーナもええと頷いた。


「コルネットさんの弟子の方がS級冒険者よりも凄いですわよ。

 なんせ彼女が正式に弟子を取ったのは後にも先にも私が最初ですもの」


 コルネット、教え子はいっぱいいるが弟子は取らなかった。理由は単純。弟子なんて物を取るとそいつが調子に乗るから。

 まぁ、教え子でも調子乗ったから弟子にしなかったのは賢明だったかもね。で、そんな訳で晴れて正式な弟子がクリスティーナになった。2番弟子はサルーンで3番弟子はユーリ。何故この順番かと言えば、ユーリはサルーンから魔術を教えて貰っていたし、サルーンはクリスティーナを奥方故にと遠慮したからだ。

 なので、三番手迄は私の身内で埋まってる。


「私は冒険者を辞める」


 シャマルはそう宣言して証明証を引き千切ると、職員に投げ渡した。職員はそれをキャッチし、除名。

 よしよし、良い人材が手に入ったぞ。後は殿下が頑張ってあの錬金術師を引き込めば陛下にそれとなくお土産が出来てマジで遊び惚けてただけでは無いと言い訳できる。

 なんて事を考えていたら外が騒がしい。何だ?と脇に立つ近衛騎士を見る。

 近衛騎士が頷いて扉を開けると同時に何やら衛兵に止められつつギルド職員が雪崩れ込んできた。


「S級冒険者のサブーリン殿!そして、同じくシャマル殿に至急の用件が!」


 帝国人だ。


「S級冒険者のサーシャスカ・サブーリン、シャマルの両名は現時刻を持ってギルドから除名されました」


 処理をした職員の言葉に帝国人のギルド職員は愕然とした。


「何だ?何の用だ」

「魔族と戦争ですよ!

 ギルドの緊急招集です!」

「話が分からん」


 何て言っていたら扉から吸血鬼が入ってきた。


「お久しぶりですわね、サブーリンさん」

「あー名前ー」


 なんつったっけ?


「ヘルシング、ですわ」

「そーそーヘルシングさん」


 お久しぶりでーすと挨拶。


「この国の皇帝にお会いする前にジュニアさんが我々の仲間に入れてしまった新人を見に来ましたわ」


 ヘルシングさんはそういうとクリスティーナを見た。クリスティーナはお初にお目にかかりますとスカートの裾を持ち上げて頭を下げた。


「まぁまぁ、何と……

 エルフとの混血と聞きましたがそれでもこの純度!今からでも我が国にいらっしゃらないかしら?貴女ならツェペシュ様も受け入れて下さりますわよ」


 何ゆーとんねんコイツ?


「謹んで遠慮しますわ。

 私、サーシャの為にこの体になったのですから。別に死なないなら吸血鬼じゃなくてもエルフでも良かったんですが偶々ツェペシ2世さんが神祖の吸血鬼にしてくれるとのことでなりましたの。

 私を貴女方の国に招待したいなら先ずはサーシャを移住させるのが先ですわ」


 オホホホとクリスティーナが笑うとヘルシングは信じられないものを見る顔をしていた。


「それで、あーたはこの国の皇帝に何の要で?」

「ええ、3年後に戦争をするのでその報告ですわ。

 しっかりと準備して抵抗なさって下さいましね。新陛下の即位式でしてよ」

「はー?ちょっと待てよ。

 殿下呼んでくるから」


 言うとヘルシングは呆れた顔をする。


「何故貴女如き存在の指図を受けなくてはいけなくって?」

「じゃあ、物理的に止めまーす。

 クリス、殿下呼んできて。殿下来たら私の勝ちで、それまでに流れたら貴女の勝ち。

 それとも、私と戦うの怖いから逃げても良いですよー?」

「上等ですわ」


 こめかみひくつかせたヘルシングが杖を手に取る。私は腰から抜くと、それが合図になりクリスティーナはシャマルを抱えて部屋を飛び出て行く。私はヘルシングのドしょっぱつの火炎弾を避けた。

 こうして、ヘルシングとの戦いは始まったのであった。

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