第106話 不死身の騎士様、御機嫌取りに終始する。

 さてはてクリスティーナのビームを全部避けたらすっかりヘソを曲げられた。


「機嫌なおしてよー」

「怒ってませんわ」


 めっちゃ怒ってる。

 手を取ってスリスリしてもペイと払われた。


「今日は一緒に寝れるからー

 ねー?」


 膝の上にクリスティーナを乗せ、首筋にキスをする。


「あのー」


 ご機嫌取りをしていると大会関係者が話しかけて来た。


「なにー?」

「いえ、もし宜しければ併設されている宿泊所に案内致しましょうか?

 お連れ様の部屋も御座いますし」


 ユーリとカタリナ、お江ちゃん達は早く行こうと言う顔で私達を見る。

 何だよ。


「取り敢えず部屋行こうか」


 クリスティーナを抱き上げてお部屋にゴー!

 部屋に向かい、引き続きご機嫌取り。


「もー機嫌なおしてよー

 クリスティーナは戦士でも無いし、コルネットみたいに魔術を何百年もやってきた訳じゃないんだからさー

 寧ろ、あれだけ出来てたら凄いよー」


 戦車が歩兵に圧勝出来るように、私がクリスティーナを圧倒しても何もおかしくない。


「だから、怒ってませんわ」

「えぇー?

 うっそだぁー」

「私、貴女に勝てなかったから怒ってる訳でも貴女に猫耳を付けて次の試合に出せなかった事を拗ねてる訳でもありませんわ。

 寧ろ、そんな愛らしい姿を他の連中に見せるにはまだまだ早いですわ」


 連中て。


「それに、あの技以外も使っていいなら私、貴女に傷ぐらい付けれますもの」


 まー腹立つ。


「取り敢えず、この茶番が終わったら貴女は私の猫になってもらいます」

「はぁ?」


 何言ってんだこの娘は?


「まぁ、良いや。

 にゃーんにゃーん。クリスにゃーん」


 クリスティーナに頭を擦り付けるとクリスティーナは少し鼻の穴を広げると、私をベッドに押し倒した。

 翌日は普通に寝不足だったので、兜被って寝てたわ。


「サーシャ、貴女の偽物が戦いますわよ」


 クリスティーナが私を起こす。


「んぁ?」


 兜の中が涎まみれだった。きちゃない。

 兜を脱いで脇に。


「なーに?」

「貴女の偽物とあのエルフが戦いますわよ」


 あーアレ。


「多分、今のアレはあのエルフちゃんには勝てないよ」


 見るまでも無い。


「あら、何故わかるので?」


 クリスティーナが意外そうな顔をした。

 そんな意外かね?


「だって、人間じゃ無いから機微を感じ取れないでしょ?」


 開始と試合が始まりビームが出る。直後、偽物は横に飛ぼうとして2発目が首を突き抜けた。


「ほらーねー?」


 アッハッハと笑い、立ち上がる。


「どちらに?」

「トイレー」


 廊下に出てトイレを探す。トイレは普通に漏れる直前に見つかった。あぶねーセーフ。

 トイレを済ませて気が付いたのは、道に迷ったわけだ。


「何処だぁ、此処?」


 まぁ、あれだな。薄々分かってた。


「で、こう言う時に限ってマジで誰も居ないのよ」


 まぁ、落ち着け。彷徨いていたら絶対誰か来る。何ならクリスティーナが探してくれる。


「問題は、それまでに動くか、留まるか。

 それが問題だ」


 問題だ。


「止まれ」


 ウロウロしていたら怪しい奴が上から降りて来た。


「何だぁ、怪しい奴め」

「それはこっちのセリフだ馬鹿。

 お前は招待客の護衛だな?」


 背後にも音もなく上から飛び降りて来る。

 余程訓練を積んで無いと此処まで静音性を保って降りてこれないだろう。ナイフか何かの柄に手を置いている。抜いてたら迷わず斬り殺してたな。


「その通りだ。

 それとお前」


 振り返って後ろの奴に忠告する。


「不用意に私の後ろに音もなく飛び降りるな。抜いていたらお前達を斬り殺してたぞ」


 背後の者は驚いた様子だった。


「取り敢えず、今やってる武道会の貴賓席まで案内してくれ」

「貴賓席は、真逆です」


 真逆だった。

 それから、貴賓席に案内されると普通に怒られた。


「何処に行っていらしたの!

 サーシャの出番でしてよ!」


 クリスティーナが舞台を指差した。其処にはエルフが立っている。


「ごめんごめん。

 トイレ探して彷徨ってたら迷って、其処からまた彷徨ってた」


 答えると呆れた顔をされる。


「やっぱりあのエルフが勝ったか」

「ええ、あの後も色々と有りましたが、まぁ、サーシャにとっては大したことない勝負でしょうね」

「だろうねー

 どーせ、あのエルフがビーム打って終わりでしょー?」


 何で飛んでくるって分かってるのに避けられないんだろ?

 じゃあ行って来ると告げるとユーリが立ち上がる。


「俺が連れてくわ」

「お願いしますわ」


 ユーリに案内されて会場まで。

 入り口にはお江ちゃんが私の武器を一式持って待っていた。


「お師匠!

 御武運を!」

「はーい」


 月血斬血を受け取り入場。

 エルフは相変わらず無表情で感情がないかの様に立っている。


「私の名前はシャルマ。

 S級冒険者をしている。巷では龍殺しのシャルマと呼ばれている」

「私はサーシャスカ・サブーリン。

 王国第一近衛騎士団団員をして王国使節団警備主任。

 人は私を月の騎士と呼ぶ」


 月血斬血を右手に取ると、シャルマは杖をクルクル回して構えた。


「何それかっこいー」


 私も真似してクルクル回したあと腰溜めに構えてみせる。さて、やるか。少しは楽しませてくれよ?

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