第93話 面倒くさい事態とめんどくさがりの近衛騎士。

 準備をして帝国の帝都まで前進。

 マーマーと騒がしい街を抜けると長閑な風景と広大な畑が目に入る。奴隷と思しき粗末な服を着させられた農奴達が畑を耕し、監督の下男達が鞭を振るっている。


「奴隷制度があるのか」

「見たいですねぇー」


 隣を歩くのは殿下だ。馬車じゃなくて馬に乗って外を見たいと我儘を言うのでこうなった。

 クリスティーナには申し訳ないが馬車に乗ってもらった。


「奴隷制度の利点と欠点は?」

「家畜と違って言葉が分かるので管理が楽ですねぇー

 そして、家畜と違って意思があるので管理がとても難しいですねぇー」


 答えると殿下は驚いた顔をして私を見た。


「何か?」

「サブーリン殿は矢張り聡明であるな。

 伯母上が苦手とするのもやむを得ない」


 殿下は降参だと言わんばかりに首を振る。


「私は良い国王になれるだろうか?」


 知らんがな。


「良い国王とは?」

「国民から愛される王だ」

「なら、そうなるよう頑張れば良いのでは?」


 何をどうすれば良いか知らんが。


「伯母上は王とは君臨する物であって統治する物では無いと言っていた。

 意味はわかるか?」


 君臨すれども統治せず、イギリスやん。


「はぁ、まぁ、何となく」

「教えてくれ、どう言う事だ?」

「教えてはダメよ、サーシャ」


 馬車から顔だけ出したクリスティーナが告げた。驚いてそちらを見ると、クリスティーナは扉を開き、フワリと私の馬に飛び乗る。慌ててキャッチして、私の前に座らせた。馬は突然1人分の体重が増えて迷惑そうに此方を振り返ったので、首を撫でておく。


「クリスティーナさん、何故ですか」

「当たり前でしょう?

 それを探すのもこの留学の一つなんですもの」


 ねぇ?とクリスティーナが私に抱きついて来た。


「だ、そーでーす」


 そんな話をしながら2時間ほど歩いていると前方の隊列が右に逸れて止まる。なんだろ?

 停止の号令を出して円周陣を敷く。

 暫くすると道路の中央を騎馬兵の一団がやって来た。

 騎馬団は我々の前に来ると将軍の様な奴が馬から飛び降り、我々の前に傅いた。拳と掌を胸の前で合わせる中国の昔の挨拶みたいな奴。

 それをしながらマーマーミャーミャーと叫んだ。何を言ってるのか分からんから円周陣を維持させて銃兵に射ての直前まで号令を進めていく。


「出迎えですヨ!

 攻撃の意思は無いですヨ!」


 奥の方から走って来たヤクトゥーが叫んでいたので撃ち方止めを掛けてヤクトゥーを呼び寄せる。


「何だコイツ等は?

 無礼にも程がある。此処がお前の国で、皇子が居なけりゃ無礼打ちモノだぞ」


 伝えろと睨み付けるとヤクトゥーはマーマーミャーミャーと叫ぶ。すると傅いた将軍みたいな偉丈夫は高笑い。

 脇に置いた青龍偃月刀みたいな奴を片手に何やら御高説をマーマーミャーミャーと垂れ始める。

 此処の国の言葉にはうんざりする。


「3行で要約」

「我々は貴女の国の王子を出迎えに来タ。

 そして、我々は貴女方よりも強イ。

 安心して我々に任セロ」


 ヤクトゥーの言葉に全員が殺気立つので、部下達を睨み付けてやる。

 無礼にも程があるな、この国の軍人は。なっとらん。何故か平然と下に見てくる。腹立つ。

 根底が気に食わん。初めてサルーンを見る連中と全く一緒の目をしている。


「止めろ、みっともない。

 クリスティーナ、殿下を」

「お任せになって」

「んーで、ユーリも一緒に馬車に乗りなさい」

「任せろ」


 偉丈夫は私の横に来ると何やらマーマーミャーミャー言い出す。ヤクトゥーが通訳しようとしたが、お前は皇子の付き人だろうがと追い払う。

 通訳無しでは会話が出来ない。


「なーにをマーマーミャーミャー言っとるか知らねーけど、言葉通じませーん」


 マーマーミャーミャーと喧しい偉丈夫は言葉が通じてないと分かると誰かを呼ぶ。それは1人の女兵士だった。


「ワタシ、名前、ミャーナ。

 すこし、コトバ、分かる」

「おーそれは凄いですねー

 そこのマーマーミャーミャー五月蝿い男に黙れって言ってくださーい。

 そして、貴女はこの子にこっちの言葉を少し教えてあげてくださーい」


 ミャーナはムッとした顔で私を睨む。


「将軍、この国でとても強い。

 アナタより、強い」

「はー、そーなんですねー」


 至極どうでも良い。


「そんな強いショーグン様に、私は用が無いのでー

 真面目に、黙って、仕事を、しろ」


 どぅーゆーあんだすたん?とは言わなかった。代わりに殺気をぶち当ててやったら小便漏らして刻々頷いて逃げる様に将軍の奥に去って行く。

 そして、小声で何かを言うと将軍の目が戦士のそれになる。先ほどまでの小娘を見る様な馬鹿にした目から。


「口ほどにも無い」


 めんどくさくなって来た。

 馬の背中に寝転がり、ぼーっと脇を眺めていると何かの大道芸人が棒を一本だけ立ててそれを器用にするすると登る。そして、頂点付近で足を引っ掛けて静止した。


「ほぉ、ありゃ凄い」


 どう言う仕組みだ?

 目を凝らすと、どうやら地面に棒を深く刺して固定していた様だ。

 なるほどなぁ。種が分かれば後は単純だ。

 興味は失せる。昼寝でもするか。護衛はマーマーミャーミャー将軍に任せよう。

 お江はいざ行かんとミャーナに話しかけまくっている。

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