第92話 胡散臭い連中と使節団警備主任

 半年と言う大航海は大したイベントもなく終わった。いや、途中捕まえた海賊をクリスティーナが身の回りの世話係にしたくらいか。

 途中で2回港に止まったりしたが特筆すべき事項もない。

 で、やって来たのが大ウルク帝国。


「やって来ました大ウルク」

「大アンクル帝国です」


 アンクルらしい。


「何でも良いですわ。

 凄い人の数ですわね」


 クリスティーナが眉を顰めて港を見下ろす。現在、下船のために船が岸壁に横付けして何やらロープやら何やらを投げ渡している。

 岸壁にはものすごい数の人間が荷物を運んだり何やら怒鳴りあったりして仕事をしていた。


「降りる時は近衛が殿下の為に道を広げよう。

 盾でど突き回せ」


 近衛騎士達に告げると騎士達は頷いた。

 こっちは使節団だ。国際法に則って国旗まで掲げている。


「そんな乱暴な……」

「そう言うもんですよ。

 お、何やら騒ぎが」


 港の奥の方から人が吹き飛ばされて行くのが見える。見るとドラクロア団長みたいなデカい連中が人々を手にした棒で引っ叩いて道を作っているのだ。

 そして、その連中は真っ直ぐこちらに向かって来ていた。


「桟橋にタラップを下ろすな!

 全員戦闘準備!」


 梯子を下ろそうとしていた船員を怒鳴り付け、全員を船縁に立たせる。

 殺気全開で指示を出さないと、船員達は動かない。海の男は女を軽んじる。海賊にビビってた癖に。

 集団は船の前に来ると止まり、通路を作るように左右に分かれる。何事かと思って警戒していたら牛車がやって来て荷台から胡散臭い中国人みたいな奴と信用出来ないヤクザのにいちゃんみたいな奴が降りてくる。


「遥々ようこそ我が国へ!」


 胡散臭い中国人が酷い訛りでそう叫ぶ。牛車の後ろには凄まじい数の旗を持った兵士たち。あの旗はこの国のものらしい。周りの人間は一様に土下座をしていた。


「タラップを下せ」


 指示を出し、近衛騎士隊を先に降ろしてタラップ周りの警備に当たる。

 下まで降りてから、周囲を見回す。何も無い。合図を出して殿下とクリスティーナを来させる。


「はじめましテ!

 私通訳のヤクツゥーと申しましすヨ!」


 ヤクトゥーと名乗る胡散臭い中国人みたいな男は私に頭を下げた。


「どーも、護衛でーす。

 殿下はあっちでーす」

「ドーモドーモ!」


 ヤクトゥーは頭を下げて降りて来た殿下に信用出来ないヤクザのにいちゃんを紹介し始めた。

 ヤクザのにいちゃんは紹介の間、ずっと視線を私に向けている。

 話しかけられて居ないので黙ってやり取りを聞いていると脇に控えた旗持ちの兵士の1人が普通に殿下達目掛けて駆け出した。凄まじい速さで抜刀をしながら叫んでいた。誰も動かないので取り敢えず、斬り殺しておいた。


「殿下を船に運べ!

 序でにそこの偉そうな奴も避難させろ!」


 切り殺した兵士と同じ格好をした奴は敵認識。

 クリスティーナがまぁまぁと少し驚いた顔で他人事。ユーリとお江はそんなクリスティーナを船に急げと大慌てだ。

 出て来たばかりの船に担ぎ込まれ、私がタラップを最後に登る。


「殿下ぁー来たばっかですけど帰りますぅ?」

「アレは貴方の国、狙てナイです。

 アノ兵士、皇子の命狙ッタヨ」


 ヤクトゥーが汗を拭きながら私に告げる。

 皇子はこの胡散臭いヤクザみたいな奴のことらしい。糸目で薄いサングラス掛けてる中華服の男だ。

 胡散臭いヤクザを見ると、胡散臭いヤクザはマーマーミャーミャー何か言いながら私に抱きつこうとしたので、普通に避ける。


「何てぇ?」

「お礼言ってますヨ。

 序でニ、嫁にならないかテ」

「それが仕事なのでー

 それに守ったのは彼ではなくウチの王子なのでーそして、嫁にはなりませんねー」


 ヤクトゥーに告げるとヤクトゥーがマーマーミャーミャーと通訳し、何やら皇子がまたマーマーミャーミャー言い出す。

 ウルセェので取り敢えず殿下用の馬車とか降ろせと指示を出しておく。


「馬車降りて近衛の準備整うまでは殿下は船内で待機をー

 ユーリは殿下の護衛。クリスティーナも殿下のところにいるよーに。

 さっさと目的地行きたいので近衛騎士の隊長職集合!

 このマーマー五月蝿い奴等も殿下達と一緒にしとけ!」


 掛かれと指示を出し、殿下とクリスティーナがマーマー人共を船内に押して行った。皇子は何か叫んでいたが言葉が分からないので無視。

 ヤクトゥーとユーリに押されて行った。


「某は奥方殿の護衛でよろしいでしょうか?」

「いや、私と一緒に居なさい。

 此処の国の言葉は?」

「食事を頼む事くらいなら」

「なら此処にいる間、言語を完璧に習得しなさい。

 ユーリにも教えるように」

「お任せを!」


 もう目がルンルン。


「全員集合しました」

「はーい、じゃあ、地図開いて主要な街道と進行ルートを見積りましょー」

「船上で決めたルートのプランBで行かないのですか?」

「それで言うならデルタですねー

 最速の更に先でーす」

「帝国の増援を受けないと言う事ですか?」

「でーす。

 敵の狙いはウチではなく、あの胡散臭い皇子なのでー殿下が巻き込まれるとめんどくせぇ事になるのは確実。

 なので、その面倒くさい事項を減らしまーす。

 敵はどう出るか、ですねー」


 出て来るなら出てくる理由を消せば良い。

 簡単な事だ。帝国兵士が乗せろと言って来たので皇子とヤクトゥーだけを船から降ろす事にした。

 ヤクトゥー曰く我々の馬車もあるとか言って居たが、お前と居ると警備が大変な事になるから殿下の護送はこちらで受け持つと言っておいた。

 また、列も帝国が先頭でうちがその後に行き、各国間は馬50歩分開けて後に続くと言っておく。

 皇子がマーマー叫んでいたが、用があるからまた城でと話をぶった斬ってやった。厄介事を持ち込むな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る