とある皇太子の感想

 海戦ってのはなんでも、海上で砲撃し合い、いけると思ったら敵は何か乗り込んで戦うらしい。

 つまり、敵が勝てると見込んだ故に斬り込んでくるのだ。そして、そんな状況に陥ったそして、そんな状況でさも当たり前のように敵を全て切り殺し、海賊王と名高いフランソワーズ・ロロネーゼを捕らえて来たのだ。


「海賊って言っても、所詮は雑魚ですねー

 私が出る幕でもない」


 惨状と言うに相応しい甲板の上、フランソワーズを縛り上げてその上に座っているサブーリン殿はひどく退屈そうだった。彼女の本気は人間如きでは引き出せない、そう言ったのはドラクロアだったか?あのドラクロアをしても最高で8割程しか引き出せないと嘆息していた。

 彼女の弟子達もあと少し経験を積めば近衛騎士団長の候補に掛かるとは全近衛騎士団長達の言だ。ユーリ君は武力に置いてはどの弟子にも劣るがそれを超える知能と成長力があり、打てば響く存在だ。僕は彼を是非とも取り込みたい。

 そんな彼女の弟子達は肩で息して身体中を返り血で真っ赤にしており、生き残った船員達は近衛騎士達に介抱されている。

 近衛騎士達の方もそこそこな被害は出ているが、死者や重傷者は居ないようだ。練度は非常に高い。選抜はサブーリン殿、ペンドラゴン、ドラクロアだ。そして、サブーリン殿が取り敢えず一試合したとか。


「アタイの首には一億の賞金が掛けられてるわよ!」

「あーそーゆーのいらないでーす。

 君達海賊は今ここで全員首切って海に落としまーす」

「か、金が要らな「いりませーん」


 サブーリン殿は言うが早いか、珍しそうに眺めていたサーベル、カトラスを海賊の首に振り下ろそうとした。

 それを止めれるものは誰もいない、と思われた。


「お待ちになって」


 サブーリン殿の振り下ろしたカトラスを手にしていた日傘を打ち付けて、海賊の鼻先に刃筋を逸らせたのは他でもない彼女の嫁であるクリスティーナである。


「えー?」

「その方を確りと引き渡しましょう」

「なぜぇー?」

「その方が貴女の伝説になりますもの」


 クリスティーナさんは言うが早いか何かの魔術を行使する。


「おぉ?何したん?」

「チャームを掛けてみましたわ」

「えー?今私にも掛けなかった?」

「かけましたわよ?

 でも、私の事を元から好きな人には意味ないですわ」


 ウフフと笑う彼女はイタズラっぽい笑みを浮かべている。

 この2人のどちらかとでも信頼関係を勝ち取ってこいとは母上からの命令にも等しいものだった。次期国王として、何としても彼女達との交流は欠かせない。

 母上は自分でも何故あんなに忠誠を尽くされているのか分からないと言うほどに忠義を見せ付けられている。

 故にサブーリン殿のにも寛大に処置し、寧ろ信頼しているのだ。

 次期国王は彼女の忠誠を自身で獲得する事が必須だと、母上は仰った。この数週間彼女達と関わっているがはっきり言って芳しいとは思えない。

 僕の船酔いもそうだが、彼女は僕と会話しようとしないのだ。この船旅で最も多くの会話をしたのもこの海賊対処をどうするか?と言うやり取りだ。

 彼女との意思疎通が最も難しいのかもそれない。話を振ろうにもそれに対して殆ど興味を示さないので会話を成り立たせるのが難しいのだ。

 酒を飲んで打ち解けようとしても彼女が酒を飲むと必ずクリスティーナさんが止めに入る。

 なので専ら弟子のユーリ君やオゴーとの会話を楽しむのが精々なのだ。


「貴女は何処でも戦えるのですね」

「当たり前では?」


 サブーリン殿は何言ってんだお前と言う顔で僕を見る。周りの騎士達は苦笑しながら団長殿が特別なのですと答える。


「団長じゃありませーん」


 すかさず訂正を入れるが、それこそ笑われていた。


「貴女が再建した近衛竜騎士団団長になるのは皆んな知ってます。

 それに、今も使節団警備主任なので、似たような物ですよ」


 近衛騎士が告げると周りの近衛騎士や魔術師達は頷いた。


「でも、今は一介の近衛騎士でーす。

 陛下より任命されなければ私は近衛第一騎士団団員でーす。貴方達より強く、貴方達よりも有名で、貴方達と同じ平の近衛騎士でーす。

 まぁ、使節団警備主任なのでーちょっと偉いですけどーその程度でーす」


 サブーリン殿は決して威張らないし、驕らない。職務上必要な時にしかその肩書を誇示しない。そして、それを誇示する際は国や自身の立場を賭ける、つまりは母上の名誉の為に名乗り上げ、勝つのだ。

 故に忠義の騎士と呼ばれる。

 自身の為に力を振るわない。


「貴女は何故、母上に忠義を尽くすのですか?」

「何故?

 何故って、陛下が陛下だからですがー?」

「では、僕が王位を継承して国王になったら母上と同じ様に僕に仕えるのかい?」


 尋ねるとサブーリン殿が意味わからんと言う顔でクリスティーナさんを見る。


「当たり前では?

 貴方が王になり、私を近衛騎士からクビにしなければ私は近衛騎士として我が一命を賭しても戦いましょう」

「クビにしたらどうする?」

「冒険者でもやりますよ、ねぇ?」


 サブーリンは笑いながらクリスティーナさんを見るとクリスティーナさんも楽しそうに笑っていた。


「な、成程。

 まぁ、僕としては貴女のような騎士をクビにする事なんか無いでしょう」

「そう有れば私も嬉しいですねぇー」


 口元は笑っているが目は品定めをするような目付きだ。


「貴女が母や僕を裏切るとすれば、一体どの様な時かな?」

「ふむ……」


 サブーリン殿は顎に手を当てた。周りの騎士達はギョッとした顔をしている。当たり前だ。あまりにも無礼な質問なのだから。


「クリスティーナやコルネットを害したら、きっと私は陛下や貴方を殺しに行くでしょう」


 そう答えるサブーリン殿は今までの適当さは無く、オゴーの持っている剣のような鋭くただひたすらに冷たい真剣さを帯びていた。その鋭さは周りの近衛騎士達が思わず腰に手が伸びたほどだ。

 なるほど、此れが殺気と言うやつか。全くもって体が動かないし、息も詰まる。


「な、成程。

 つまり、母上も僕も貴女に裏切られる事は永遠に訪れない訳か」


 船旅は後数ヶ月続く。彼女とは積極的に関わっていこう。

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