第91話 海賊王への道

 船旅とは、些かも気持ちよく無い物だ。

 風はベタベタで、暫くもすれば普通に髪がヤバばのばばって感じ。

 髪の毛短いからまだマシだけど、長いクリスティーナは普通にゲンナリしてる。


「船旅は地獄ですわ」

「諦めるしか無いですわ」


 帆船。しかも何隻も並べた艦隊だ。王立海軍は無いでは、どこの帆船かと言えば商業国のである。

 この前の事を言ったら二つ返事で乗せてくれたのだ。まぁ、商業国を牛耳っていたアホどもが殿下達の活躍で一気に地に落ちた事で王国派の商人どもが台頭したそうな。

 で、中国みたいな国に行く交易船を出してるので一緒に乗せてけと言ったら二つ返事で許可をもらったのだ。


「君達は、元気そうだな」


 顔が真っ青なエドワード殿下がこの数週間愛用しているバケツを抱えてやってきた。


「殿下も大分お加減がマシになった様で」

「そう、見えるか?」

「前はこうして会話も出来て居なかったでしょう」

「そうですわね。

 そのバケツにずぅっと顔を突っ込んで居ましたわ」


 おほほとクリスティーナが扇子で口元を隠して笑う。お嬢様してるわー


「殿下も、この程度で酔っている様では戦争に行ったら内臓を吐き出してるやもしれませんな」


 戦場はグロいぞー


「ぼ、僕が戦場に行く事で何故内臓まで吐き出す事になるんだ……」

「銃を使うのです。砲を使うのです。

 剣やら槍やら弓矢やらで殺すのとは訳が違う。

 覚悟なさい。貴方の命令一つで数百から数千、下手をしたら数万が簡単に死ぬ。

 軍の権限とはそう言う物です。貴方は貴方を慕い、貴方の為にと戦場に行く者に死ねと命ずる立場なのです。

 私達は勿論喜んで行きます。それが仕事です。それが我々の忠誠です。

 ですが、我々よりも先に死ぬのは王立軍の百姓の三男坊四男坊、底辺貴族の三女四女です。

 十把一絡げに名すら彫られずに大勢と一緒に墓穴に放り込まれて埋葬されるのです」


 貴方の命令一つで。

 言外にそう込めてにっこりしておく。


「それはそうと、その……ナンタラとか言う国に行って何をするので?」

「イェケ・アングル・ウルスですよ」

「そー、それ」


 何語だよ。


「そのイェイ・アンカー・クラスでは何をするんでー?」

「イェケ・アングル・ウルス。

 我々の言葉に直せば、大アングル帝国ですよ。母からは他国の文化や政治などを学んでこいと言われました」

「つまり、大した用は無いと」


 困ったもんだなぁと船首の方を見ればユーリとお江が木剣で打ち合っている。あの2人も船酔いはしてない。

 日がな一日ああやってお互いを相手に打ち合っているのだ。サルーンはコルネットの側で護衛兼お手伝いである。

 2人とも、確りと強くなっているが、私の方が倍の速さで強くなってるのでまた素手で対処出来る位の差が開いてユーリはブチギレていたし、お江は喜んでいた。

 なので、こうして2人は揺れる船の上で毎日修行してる。がんがえ〜


「アンゴル帝国は何があるんですかねー」

「アンゴル帝国は極東の果てにある大帝国で、遊牧騎馬民族がその平原一帯を統治したのが始まりですわ」


 クリスティーナが自信満々に解説してくれる。


「騎馬が強いのか」


 大規模な平原だと迂回攻撃されそう。


「そうですわ。

 良質な馬の産地でも知られてますし、騎馬弓兵による迅速かつ素早い制圧射撃と突撃で敵部隊をやっつけてしまうんですわ」

「へー詳しいね」


 意外。


「ええ、皇帝陛下が大遠征をして敗北してましたから」


 何してんだあの魔族。

 まぁ、あの皇帝だから然もありなんか。


「敗北した後どーなったの?」

「普通に交易してますわ。

 我々の軍がやられたと言ったも帝国南部の飢饉に際して出た難民とかを纏めて軍に入れてそれを処分する為に大遠征を企画したので、ぶっちゃけ飢えて死ぬか戦争で死ぬか、勝って肥よくな大地を手に入れるかの差ですわ」


 なるほどねぇ。

 考える事が人では無いな、やはり。そして、環境がその選択肢を人間に受け入れさせてしまう訳だ。飢餓は恐ろしいなぁ。


「帝国ってそんな感じなの?」

「ですわ。

 基本放任主義で目に余ったり皇帝の気分で政治が介入する感じですわね」


 ノリと勢いで国動いてんの笑う。絶対住みたく無い。てか、クリスティーナはよくそんな国で生きてこれたな。

 恐ろし過ぎる。


「あっ!」


 脇でそんな声が聞こえ、見ると水兵の1人が脇に吊るしてあった鐘に飛びついた。

 何じゃ?と思っていたら勢い良く叩き始める。


「カイゾクダァァ!!」

「かいぞーーく!!」

「セントーヨーイ!!」


 どうやら海賊らしい。手隙の連中達は大急ぎで武器を用意し始める。


「何かするのでー?」


 意気揚々と駆け戻って来た弟子2人を抑えつつ殿下を見る。


「何か、とは?」

「何か、です。

 あれをどうしますか?って話でも有りますが」


 手すりに腰掛け、強張った顔の船員達を見る。

 全員がコチラを見上げていた。


「まぁ、怖い」


 クリスティーナがきゃっと私に抱きついて来たので私も抱き付いてくる。


「きゃあ、怖い」


 そんな事をやりつつ殿下を見る。殿下は周囲を見回し船長と叫んだ。

 ま、私的には普通に海戦とかした事ないから知らねーよな話なんだけどな!

 殿下と船長が何かを話をしている間、弟子二人は我先にと戦いの準備をしているし、周りも大砲の準備をし始めた。

 各艦もコチラに合わせる様に一列の縦隊に隊形をとる。


「どーする?」

「私は見てますわ」

「りょーかい」


 ユーリが私の鎧と武器を持って来るので、鎧は要らんと言っておく。


「そんな重い物着てたら海に落ちたら溺れるぞー?」

「それは困る」


 本気で困った顔をするのだから笑う。

 この機会に泳ぎでも教えるかな。


「某は泳げますぞ!」


 お江ちゃんは侍装束のままなんか、あれみたいだ。討ち入りの。なんつったっけ?正月特番の。

 ま、いいや。


「でも戦ってる時に落ちたら引き上げてる暇無いし、船も止められないのでー

 戦闘終わるまではずっと泳いでついて来てもらいまーす」


 なので落ちないよーにといっておく。

 そんな話をしていたら殿下がやって来た。


「どうしますぅ?」

「ここは彼等の領域だ。

 君は船上ここで戦えるのか?」


 愚問。実に愚問。思わず笑ってしまった。


「誰に、何を、言ってるのか理解してますかぁ?

 殿下がそう望むのなら、私は陛下の為に斯あるべしと戦うまで。

 海だろうが、、山だろうが、川だろうが、私は戦えますよ?」


 深々とお辞儀する。

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