第90話 女王陛下のお気に入り

 コルネット達を送り出したその日の午後も後段。普通に陛下に呼び出された。

 謁見の間にていつも通りにへへーとしていると陛下が現れる。その後に続いてエウリュアーレ殿下とエドワード殿下にコルネット。


「何故呼ばれたか分かっているな?」

「エドワード殿下達ですかねぇ?」

「何故止めん」


 殿下の声は疲れ切っていた。


「戦争計画は置いておくとして、国力増産の基盤たる耕地拡大とそれに伴う公共事業での国民への安定した職への紹介は良いものかと。

 此処数年、我が国は外征をしたり外敵による侵略の脅威が増しており内政に対しても何か一つ手を打たねば国民が陛下に対して不信感を抱く事になります。

 両殿下の軍事面ばかり強調するのは些か問題があると思いますが、この2点に関しては私は良い物と思います」

「成程、お前の言を聞くに確かにそうかもしれんな。軍の整備は後で良い。宰相にお前達の軍事面以外の部分をそのまま伝えよ。コルネット殿も引き続き全般の指図を頼む」


 3人は下がってよしと陛下の言葉に両殿下は少し不満そうに頭を下げ、コルネットはお任せ下さいと恐縮しつつ去って行った。


「お前の嫁は優秀だな」

「自慢の嫁です」

「クリスティーナも歌が上手く、その才能は国でも1、2を争うだろう」

「2人とも私の自慢の嫁です」

「そうか。

 私はお前の様な忠臣を得て実に恵まれている」

「勿体なきお言葉」


 さてはて、本題がわからぬ。


「お前から見てエドワードはどうだ?」

「利発な人かと」

「他には?」

「コルネットの胸ばかり見てましたね」


 チラチラと。コルネットは気が付いていないが、私は気がついている。因みにエウリュアーレ殿下と私もチラチラ見てる。あの場にいる全員がコルネットの胸をチラチラしてた。

 チラチラパーティーだ。


「彼奴も良い歳だ。

 お前は良い女を知っているか?」

「私ですかぁ?

 身分の差があり過ぎて紹介もクソも有りませんよ」


 位の高い人脈もとてもじゃないが王子の嫁になぞは無理だ。


「知っている。

 お前の人脈は高い者だとドラゴンだの吸血鬼だのだ。

 極端なのだ、お前は」


 何故怒られる。


「お前は常識が無い」

「はぁ」

「それが良い所でもあるが、悪いところでもある」

「はぁ」

「お前の常識のなさは近衛騎士団長達の間でも度々報告に上がる。少なくともお前以外の全ての騎士団長達から一回は報告に来ている」

「はぁ」

「少しばかり常識を身に付けさせる為にお前をエドワードの護衛として使節団の一員に加わらせようと思う」

「はぁ?」


 何の使節団だよ。

 話を聞けば高々遠方の大草原にある巨大な国に行くらしい。私が聖王国にいた時期に遥々遠くから使者がやって来て遊びに来ないか?と言う物が届いたそうな。大量の貢物と共に。


「あれを」


 そして、その一つに陛下が持って来させた剣や服があった。なんか、青龍刀みたいや剣と中国の吹くみたいな服だった。鮮やかな赤と龍の刺繍が施された服だ。青龍刀はよく見たら螺鈿みたいなキラキラした彫刻が入っており、使うと言うより見るための物に近い。


「オゴーの祖国に近い国だそうだ」

「それは、滅茶苦茶遠いのでは?」

「陸路で一年位、海だと半年程だそうだ」


 堪まらねぇな。


「エドワード様を付ける理由は?」

「エウリュアーレの影響を遠ざけつつ、世界を学ばせる」


 エウリュアーレ殿下は良くも悪くも軍国主義だ。立憲君主制を将来的には取りたいのだろうが、その概念は絶対王政のこの世にはまだまだ速すぎる。

 周りの貴族も賛同しない。そして、そんな人に薫陶を受けてしまったエドワード殿下は多分王権を持った途端にやりかね無い。

 陛下からすれば良い迷惑だろうな。折角良い調子で統治してきたのに変わった途端にアホな事をやり始めるのだから。馬鹿息子と歴史書には残せまいな。親心って奴か。私には分からない。


「成程。

 エウリュアーレ殿下は聡明で有らせられるが些か配慮が出来ませんしな。

 このまま行くとエドワード様もエウリュアーレ殿下の様に過激な政策を取りかねませんね」

「そうなのだ。そうなのだ!

 故にお前の嫁とエウリュアーレを引き連れたエドワードを見て、私は頭が痛くなった!お前を呼び付けて怒鳴り付けたくなったよ。

 何を見ていたのか、と」


 実はかなり激おこだった模様。


「まー私としては軍優先以外は全て理に適っていたので、陛下なら大丈夫かなぁーと」

「その大丈夫を私に投げずにお前が処理してから私に寄越せ。

 何処の世界に客に下処理をしないまま食材と道具を投げて寄越す料理人がいる」


 殿下は呆れた様子で玉座に腰掛けた。背もたれに凭れ、肘置きに頬杖をつく。


「此処に居りますが?」


 なので、深々と頭を下げて手を開いて見せる。


「そう言うところだ!

 常識を身につけて来い!お前と言う奴は!」


 まったく、そう漏らす陛下の顔は少し笑っていた。


「お前だけだ、サーシャスカ。

 私を前にしても変に畏まらず、媚を売らず、さりとて傲慢にもならないのは」

「はぁ」

「私はお前の事が好きだ」

「あー、私には心に決めた者が2人居りますので……」


 答えると軽く睨まれた。


「そう言う意味では無い馬鹿者。

 お前は私より長く生き、名を残す。

 この国の行く末をお前には見て欲しい。出来ればこの国を護ってほしい。騎士が無くなろうと、王国が無くなろうと、私や私の子孫とこの国を見守って欲しい」

「陛下がそうあれかしと望むならば、私は斯くあるべしと行うだけです。

 幸い、嫁は2人とも私と同じ。クリスティーナに歌わせ、コルネットに本を書かせましょう。

 そして、私がその二つをして陛下とこの国を語り継ぎましょう。

 この世が滅ぶその時まで」


 傅いて深々と頭を下げる。


「ありがとう、サーシャスカ。

 エドワードをよろしく頼むぞ。くれぐれも」

「はい、陛下。

 我が身に変えても殿下の命は」

「ああ」


 まぁ使節団だから殺される事はなかろう。


「何時、出発を?」

「2週間後だ。

 船で行く。コルネットは置いて行け。ハイエルフ殿の知恵を借りる」

「分かりました」


 コルネットには申し訳ないが、こればかりはしょうがない。

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