第89話 すーぐイチャつくな、あの不死身夫婦

 殿下と殿下の話し合いは実に暇この上ない。内容は砲兵と銃兵の運用から周辺国との話になり、それからまた銃兵の運用に戻る。

 正直、途中から寝てた。


「サーシャ、起きて下さいまし」


 そして、肩を揺すられて目を覚ます。


「んぁ?

 あー終わったぁ?」


 大きく伸びをしてからいつの間にか隣に座っていたクリスティーナを見る。


「は、はい。

 人間は常に恐ろしい事ばかり考えていますね」


 私を挟む様に反対側にコルネット。手帳を開いて殿下達の話を纏めていたらしい。覗き込むと基本隊形は横隊と書かれており、銃に付いても聞き齧っただけの知識らしいが軽く音と光と書いてあった。


「まー人間の性だからー」


 ねー?とクリスティーナを見るとええと笑っていた。


「それで、この基本編成とは?」


 コルネットが書いていた基本編成は3個銃兵大隊と1個騎兵大隊、2個砲兵大隊、1個マイソール砲大隊。

 其処に魔術大隊と聖騎士中隊、軍団長以下の指揮幕僚及び各種支援部隊を作る、と書いてあった。


「新しい王立軍の編成さ。

 どうだい?」

「どーもこーも、これ作って兵站どーなりますので?」

「そ、それはこれになります!」


 何故かコルネットが手帳を捲って私の前におく。


「輸送専門の部隊を編成し、食糧や装備などを後方から次々に送り出すのど、同時に国内のあちこちに中継基地を作って戦争時に速やかに各種補給品を届け出れる様にするそうです!

 ま、またこの基地にも大隊を置いた迅速かつ効率的に部隊の集合が出来るそうです!」


 地図、と告げるとクリスティーナが直ぐに国内地図を広げた。コルネットは其処に魔術で何やら浮き上がらせる。此れにはその場にいたコルネット以外の全員が驚く。


「こ、ここが私達の居る場所です!

 補給基地はこの位置に作るそうで、補給路もこの様になるかと!」


 次々にコルネットが魔術を使って地図の上に人員移動経路やら馬車道を作っていく。

 成程、魔術ってすげーな。


「わ、私としてはですが、運河を開拓して、国内の動線確保と開墾地の増加を提案したい所です。

 現状では兵站面では食糧が足らないのと、そもそも、食糧が増えることで国内人口も増加が見込めます。

 軍事改革は編成装備は元よりも国力基盤の抜本的底上げが最も効率的です」


 富国強兵。

 なんか、コルネットこういうのも好きなんね。シムシティとかHoiやらせたら死ぬまでやってそう。


「その運河計画と領地開拓案は陛下にそのまま報告してー

 序でに殿下2人を連れて説明してー」

「は、はい!分かりました!」


 コルネットは大きく頷くと立ち上がる。


「じゃーお二人はコルネットに続いて説明よろー」


 面倒ごとは適任者に押し付けるのぢゃ。

 コルネットは殿下2人と共に部屋を意気揚々と去っていく。それを見送り、お江が後をついていく。ユーリとサルーンは首を捻りこちらを見上げる。


「ついていって勉強して来ると良い」


 2人もついて行かせることにした。

 部屋には私とクリスティーナが残った。クリスティーナは私を後ろから抱きしめる。


「最近、クリスは甘えん坊ですねー」

「ええ、私は甘えん坊ですわ。

 貴女が私よりも優秀な美人を連れて来て焦っていますもの」


 コルネットの事だ。


「優秀優秀じゃないでは見てないよ。

 クリスはクリス。コルネットはコルネットだ。確かにクリスは押し掛け女房みたいな形で結婚したけど、クリスへの愛はコルネットと変わらず同じくらいに大事だよ」


 振り返ってクリスティーナを抱き締める。


「そんな事は百も承知です。

 貴女はそう言う人ではない。だからこそ、だからこそ私は怖いの。貴女が何時か本当に私達にも興味を無くなってしまったら、そう考えるだけで私は心が張り裂けそうになるわ。

 始まりも一方的だったもの。私の片想いで貴女は優しいから同情しているだけでは無いのかしら?本当はコルネットさんみたいな方が良くて、だから、だから、命まで賭けて「クリス」


 クリスティーナがポロポロと涙を溢していた。


「クリス、不安にさせて済まない。君を泣かせてしまうのは全て私が悪い。其処に関しては最早挽回のしようがない。

 でも、でもね、一つだけ言わせて欲しい。

 あそこで私が死んだのは、結果的にはコルネットの為と言う風になったが、私は近衛騎士団長としてもコルネットを我が国に連れて来たいと思ったんだ」


 クリスの頬を伝う涙を掬い、キスをする。


「理解はしてるわ。

 でも、納得は出来ないの。わかる?」


 少し拗ねた様な顔で見上げる。可愛いし愛おしい。クリスティーナを抱き締めたまま、テーブルに腰掛け。


「ああ、言わんとする事はわかるさ。

 では、私はどうしたら良い?」

「嫉妬して下さい」

「嫉妬?」

「私も貴女を惚れさせますわ」

「はぁ……」


 よく分からん。私は今もクリスティーナの事は好きだぞ?


「ふふ、やはり理解してませんわね」


 クリスティーナは嬉しそうに笑うと私の膝に座る。


「あと、貴女の処女を貰いますわ」

「何の?」

「何のって、文字通り貴女の処女膜ですわ。

 月の騎士になったのだからもう処女膜破っても良いとコルネットさんから聞きましてよ」


 初耳でしてよ?

 つーか、君にナニないでしょうが。何を言うとるのかなこの娘さんは?日も高い内から。


「コルネットさんとツェペシュ2世ちゃんから何を生やす術を教えてもらいましたの。

 それで貴女の処女膜を貰いますわ。よろしくて?」

「よろしくは無い」

「お黙りなさい。

 貴女に拒否権があるとでも?」


 寧ろ何故無いと思っとるのかこの娘さんは?


「あー、クリスティーナさん?

 何かありまして?」

「ええ、ありましたわ。大いにありました。

 私、この体になり頭脳も少しばかり冴える様になりましたわ」

「はぁ」

「私は思いました。

 もう少しわがままに生きてみようと」

「ほう」

「で、手始めにサーシャの膜を破ることにしたんですわ」


 何故其処がそうなる。


「でもまぁ、それでクリスの為になるなら私の初めてをあげよう」


 そう言うとクリスティーナは満面の笑みに戻る。

 後日、私は前世の記憶と合わせても生まれて初めてナニを体の中に入れることになったのだった。

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