第88話 偶には昔の話をしようか。

 陛下に赦されて3日後、私はペンドラゴン団長の前に立っていた。

 第一近衛騎士団。入ると、凄い皆んなにガン見された。その目は何か、宇宙人を見るような目だった。ヒソヒソ聞こえる言葉も「アレがサブーリン団長」とか「何者なのだ?あの人は」とかそう言う感じ。


「やぁ、謹慎はどうかな?」

「毎日2人からせがまれて大変です。

 男だったら赤玉出してます」


 答えるとペンドラゴン団長が大爆笑した。


「笑い事じゃないですってー

 最近あの2人、実はサキュバスか何かじゃないかと思い始めましたーはい」

「嫌なら嫌と言えば良いじゃないか」


 団長が奥で話そうかと会議室に。副団長の眼鏡の方がコーヒーを淹れてきてくれた。


「いやー2人にお願いされたら……ねぇ?」


 お嬢様みたいな副団長に言うと知りませんわとばっさり。


「それじゃあそろそろ本題に入るかな」

「どーぞ」


 仕事内容は簡単に言えば第一王子の教育係兼護衛だ。


「懐かしいですねー

 来たばっかの頃に第四皇子でやりましたねー」

「ああ、コニー殿下か。

 彼は勿論、王子達は皆君のファンだよ。多分、全員君の所に来るんじゃないかな?」


 想像したら死ぬほど面倒臭そうだった。


「そんな顔をしてくれるなよ。

 君、これも罰の一つだからね?」

「それはもー承知しておりますー

 このサブーリン、陛下が望めば例え山羊頭と1000体戦おうが、エンシェントドラゴンと決闘しようが、快く引き受け、見事勝利を御覧じる所存」

「じゃあ、よろしく頼むよ。

 この後、王子の剣術を見る時間だから」

「分かりましたー」


 いつかの再来だ。

 私の後に眼鏡の副団長。


「サブーリン様」

「はーい、サブーリン様」

「此方、団長が貴女に返すよう仰った物です」


 差し出されたのは死の刃。


「良いのでー?」

「これを持ってしても貴女を殺すには近衛騎士団全軍を上げねばならないとの事でして。

 貴女の言葉を信じるとの事でした」

「あらーそれはまた含みのあるお言葉ー」

「そう言う態度が信用されない所かと」


 厳しい一言。

 ハッハッハッと笑っておく。闘技場に着くと眼鏡副長はエドワード様と呼ぶ。エドワード様とやらが誰か分からん。その場にいる青年から子供まで全員がこちらを見てワッと駆け寄って来るのだから。


「サブーリン!」


 一際デカい声。見るとコニー殿下だ。


「おーお久しぶりでーございやす。

 コニー殿下も大きくなりましたねー前見た時はもっと小さかったのに」

「うん!

 あれから僕も色々と勉強したんだ!サブーリンには全然追いつかないけど、王立騎士の入隊試験くらいなら受かる位には強くなったよ!」


 そりゃー凄い。出会った頃のユーリと同じくらいの大きさだ。


サブーリン殿、お初にお目に掛かります」


 其処に割ってやって来るのが陛下に大分そっくりな美少年だ。


「エドワード様です」


 眼鏡副長が私に耳打ちする。


「お初にお目に掛かります、エドワード様。

 のサーシャスカ・サブーリンで御座います」

「こうして面と向かって話すのは初めてだな」

「はい、何時もは謁見の間にて御目通りするだけでして」

「早速だが、剣の修行よりも銃の話をしたい。ついて来て欲しい」

「はぁ、まぁ、ええ」


 眼鏡副長を見ると目を瞑って首を振った。やれやれと言う感じに。

 それからコニー殿下に頭を下げてエドワード殿下に続く。

 馬に乗り、そのまま王城を出ると要塞に。眼鏡副長も後に続く。因みに私の部屋はまだ此処だったりする。

 理由は簡単、近衛竜騎士団は完全編成されるまで休止状態だが、揃った段階で私を再びトップにして再開するから。

 因みに今年度には武器装備と人員が全員揃うらしい。


「あら、おかえりなさいませ」


 そして、要塞の練兵場に戻ると中ではコルネットがサルーンとクリスティーナに教えており、お江とユーリが剣を打ち合っていた。

 他にも士官候補生達が何やら走り回ったり王立軍の兵士達が何やら行進したりしている。


「ただいまー」

「待ってたよー」


 待ってたのは殿下だった。妹のほう。エウリュアーレ殿下。


「それはお待たせ致しました」

「おっと、サブーリン団長」


 殿下の顔が引き攣った。


「最近全く話していなかったですねー

 何か私に疾しい事でも考えていましたかなー?」


 にっこり笑うと殿下は首を横に振った。


「伯母上をあまりいじめないで貰えないだろうか?」


 そんな私達の間にエドワード殿下が割って入る。


「確かに伯母上は余り人心と言う物を理解していないが、その発想は我が国を強くする。私は伯母上の考えは正しいと思っている」

「それは殿下が国王になられてからなさって下さい。

 今は陛下の治世です故に」


 お前が何しようと勝手だが、陛下に反乱を起こすなよと言う意味を込めてにっこり笑っておく。


「そう言う所ですよサブーリン様」


 ついて来た眼鏡副長が背後から刺して来る。


「これが私の忠誠なのでーはい」


 眼鏡副長にもにっこり。


「別に謀反を起こそうなどと考えては無いよ。伯母上もさ」

「勿論!」


 エドワード殿下が冷や汗を垂らしながら何とか笑い、エウリュアーレ殿下もブンブン首を縦に振っている。


「謀反を起こせば鎮圧するだけですのでー

 やるならバレないよーお願いしまーす。私、無敵なので」


 後頭部を思いっきり叩かれた。眼鏡副長に。


「サブーリン様!

 そう言う所!!」

「おっほほほ!」


 クリスティーナが実に可笑しそうに笑い、それから朗々と歌い上げる。私の忠義に付いてだ。即興で歌詞を組み上げて歌い出すのやめて欲しい。しかもコルネットがそれに合わせて魔術で音まで付けてしまうんだから堪んない。

 コルネットがクリスティーナに歌を教え、クリスティーナがコルネットに音楽を教えてるそうな。

 最近、音楽と言うかBGMのバリエーションが増えて来て何かギターみたいな音まで再現し始めてその内ロックとかやりそうでならない。

 音楽史一気に飛ぶのやめてもろて。まだバッハとかショパンとかベートーベンぐらいの時代やろがい!


「君のお嫁さんは何時も楽しそうだね」

「えーもーそれはそれは。

 2人共やる気満々で、聖王国の話もモリモリに盛ってオペラまで作り始めてまして、それに付き合わされてるユーリやサルーンが毎日私に助けを求めに来てます故にー」


 エウリュアーレ殿下の言葉に頷いておく。


「それで、私は何をすれば?

 銃については私よりエウリュアーレ殿下の方がお詳しいかと」

「運用だよ。

 サブーリン殿には実際、部隊を率いてどうだったのか意見を聞きたい」


 部隊を率いてちゃんと戦ったの、実はあの包囲戦だけだ。

 しかも、言うほど指揮してない。ローズ達におんぶに抱っこして貰ってただけだ。


「クリスティーナ。

 ローサの歌」


 ローサの歌はクリスティーナに作らせた彼女の歌だ。思えば彼女は一番最初に出来た部下なのだ。彼女の遺族にはアホほど見舞金を送ったし、彼女の墓は滅茶苦茶立派なのを作った。全部私の金で出した。

 それほど彼女は私の中では特別な部下だった。この歌は彼女の故郷で吟遊詩人達に歌わせて広めさせた。彼女の故郷では彼女こそ立派な立志伝の体現者だとする。

 目の前でクリスティーナが歌い、コルネットが音楽を付ける。周りに居た騎士や兵士達もクリスティーナの歌に合わせて合唱を始める。


「騎士ローサの歌、兵達にも人気だよ」

「勿論。

 彼女こそ私の一番最初に出来た腹心の部下。彼女の様な騎士を目指し、彼女の様な騎士を部下に持つそれこそが強い部隊の第一歩ですよ、殿下」

 

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