第87話 王子様のキスと女王陛下の毒林檎

 さてはて、帝国での予言通りクリスティーナに土下座をしたのだが、まさか夫婦揃って不老不死の不死身となってしまうとは。

 クリスティーナの犬歯は伸びて牙みたいになり、ただでさえ白い肌はより一層白くなりアルビノを帯びた。

 瞳は美しいシルバーから赤色に。殆ど変化は終え、後は目を覚ますだけなのだ。

 ベッドで寝息を立てている彼女の横に座り、傾き始めた月夜を見上げる。うーむ、申し訳ない気持ちと自分に文字通り一生を添い遂げてくれると言う嬉しさが混同している。

 クリスティーナを見ていたら無性に愛らしく思え、キスをする。するとぱっちりとクリスティーナが目を覚ました。


「ふふ、王子様のキスですわね」

「うん、ごめんね。そして、ありがとう」


 クリスティーナが腕を首の後ろに回して私をベッドに引き摺り込む。


「もうそろそろ朝なんですがー?」

「だから?」


 それからベッドで仲直りをした。

 部屋を出たのは日が完全に登った午後もだいぶ過ぎてから。


「じゃあ、帰るよ」


 部屋から出たら開口一番ペンドラゴン団長に言われる。にっこり笑っているが、目が笑っていない。

 後ろにいるドラクロア団長なんか私を完全に睨み付けてオコ状態。


「今回は、君の独断専行が目立ち過ぎだよ。

 流石の陛下も呆れてるからね」

「はんせーしてまーす」


 申し訳ないと頭を下げると、ドラクロア団長が大きな溜息を吐く。


「もう少し反省してる様子を出しなね、全く」


 ベチンと下げた頭を引っ叩かれた。普通の人間なら首もげてるかもしれん。


「アンタに何言っても今に始まったことじゃないさね。

 今回は私達にも非がある。アンタを御しきれなかったんだ。

 でも、それはそれ、これはこれ!陛下にコッテリ怒られな!」


 ドラクロア団長は大笑いしながら去っていき、ペンドラゴン団長も目は楽しそうに笑っていた。


「今からどうやって謝るかを考えておかないとね」


 団長はそう楽しそうに笑いながら去って行く。

 それから、大急ぎで帰り支度をしてコルネットとクリスティーナは同じ馬車。私はお江と一緒に馬でぱからった。

 片町1ヶ月の大移動。ツェペシュ2世は本国にクリスティーナの報告に行くとして一足先に帰ったそうな。

 王国に帰り、陛下への報告。

 諸々の報告はペンドラゴン団長が行う。しかし、メインはそれではなく私の事になる。


「それでは続いて功労者の表彰」


 先ずはドラクロア団長配下の騎士達。次いでドラクロア団長、ペンドラゴン団長。最後に私。


「今次聖王国での事変において聖王国の枢機卿たるハイエルフ族のコルネット・フリザンテーマ様を救出、また争いを収める一助を為した功績により陛下より勲章の授与」

「はい」

「しかしながら、今次事変において、近衛騎士団長として王国の名誉を著しく堕としいれかねない自体を引き起こしたのもまた事実。よって、先程の勲章は剥奪とする」

「はい」


 陛下は立ち上がっており、傍にはただただ置いてあるだけの勲章。


「何か申し開きは」


 宰相の言葉に私は顔を上げる。


「ありません」

「ならば、私の問いに答えよ」


 陛下がそう言うと宰相は驚いた顔をした。この儀式中、陛下の言葉は最初と勲章授与のメダルを渡す際に一言づつ、そして、最後だけなのだから。


「何なりと」

「お前は不老不死であり不死身になったと聞く。

 お前はその体でどうする」


 周りから重武装した近衛騎士達が現れた。火縄を付けた銃もある。


「私は陛下にお借りしたこの剣を返します」


 死の刃を鞘ごと抜いてその場に置く。そして、刃から手の届かぬ位置まで下がる。ペンドラゴン団長がそれを拾い、陛下に献上。


「聞くところによるとその剣ならば流石の私でも死ぬとの事。

 私は既に陛下にこの身体と忠誠を捧げております。今回の事変についても私は陛下の為になるのならと言う考えを下にそもそも行動をしておりました。

 あわよくば、その褒美としてコルネット……フリザンテーマ卿との婚姻も許可していただければと言う考えもありましたが、原義は陛下への忠誠のみで御座います」

「ほう。

 私がお前を信用出来ないならばそれでお前を何時でも刺せ、と?」

「聡明なご理解、感服致します」


 陛下が剣を抜き、私に向ける。


「ならば今刺しても問題あるまい?」

「勿論」


 胸甲を取り、下に着ている服をナイフで切り裂いて、胸元を露出させる。


「私の死を待って、陛下の不安が除けるのであれば私は陛下からの信頼をなしえなかった不義の騎士としてのみ悔し涙を流しましょう」


 真っ直ぐと陛下の目だけを見る。陛下は頷き剣を私の胸元に突き立てようとしたところでコルネットが変な声を上げて飛び出ようとし、転ける。

 ペンドラゴン団長や他の団長達は陛下の周りを囲い、私はドラクロア団長に抑え込まれる。弟子達はあえて連れて来なかった。クリスティーナだけは何事も無く動じずに静観していた。その瞳は真っ直ぐに私だけを見ている。


「ふっ、お前の覚悟はよく分かった。

 お前の忠義はペンドラゴンに勝るとも劣らんな。ペンドラゴン。この大馬鹿者から近衛騎士団長の権限を一時解除する」

「はい。

 期間は?」

「そうだな……近衞竜騎士団が完全再建するまでだ」

「分かりました。

 それまではサブーリンの身柄は如何なさいますか?」

「お前が預かれ。

 バカ息子の剣術指導でも何でもしろ」

「分かりました」


 こうして、私は赦されたのだった。

 正直、本気で刺されるかと思った。しかし、思い返せば普通に色々とやり過ぎたかもしれん。安い挑発に乗るべきではない。が、その挑発を見過ごしてたら「お前、陛下の無礼を見逃すのか?」とか言う有らぬ誤解を生みそうだ。

 なので、これからも今まで通りにやるかな。

 謁見の間から陛下達が去っていき、他の貴族とかも去って行く。その場には私と、クリスティーナ、コルネットだけが残った。


「あ、あんな危ない事を!何故!?」


 そして、コルネットが私に抱き付きながら尋ねてきた。顔は泣きそうだ。


「それはサーシャが近衛騎士団長だからですわ。

 因みに、私、貴女があそこで殺されていたら貴女の後を追ってあの短剣で自害するので御承知を」


 クリスティーナがにっこり笑ってコルネットの背中を摩る。


「地獄の底まで着いて来る気でー?」

「ええ、勿論。

 それが惚れた者の矜持ですわ。そして、それが正妻としての在るべき姿です」


 おほほとお嬢様笑いをして、誰かから貰ったらしいマントを私の頭に被せた。


「それで前をお隠しになると良いですわ。

 貴女の素肌は私達の物なのですから」


 そして、コルネットとクリスティーナに両脇をガッチリと掴まれて連行される。どこへって?家にだよ。

 そっからはめぐるめく3Pの世界。なんか、もう、凄かった。ハイエルフと神祖の吸血鬼は凄い。

 何が凄いって色々。体力エグいし、クリスティーナは吸血してくるし、コルネットは魔術使って来るしで皆むっつり大スケベって感じだった。

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