サムライガールの感想

 我が師匠、サーシャスカ・サブーリンが見事と言わんばかりに土下座をしていた。

 私と我が師匠の奥方が聖王国に着き、宿として通された部屋に入った瞬間の光景だった。


「あら、サーシャは何をなさってるので?」


 奥方は首を傾げて居られる。私も正直驚いた。2人とも師匠に謝られる見当が付いていないのである。


「浮気をしました」


 師匠の言葉に合わせて後ろにいた耳長族の女が師匠の少し後ろで土下座をする。慣れていないのか、モゾモゾしていた。


「わ、私が悪いのです!」

「どちら様でして?」

「こ、く、コルネット・フリザンテーマともっ、申します!」


 こく・こるねっと・ふりざんてぇまと言うらしい。


「……大図書館派の枢機卿ですわよね?」


 奥方は私を見る。


「存じ上げません。

 強い方なのですか?」

「強い、と言うかハイエルフなので神祖の吸血鬼と同じですわ」


 外に控えているつぺしと言う真っ白な吸血鬼を思い出す。


「つぺし様をお呼びしますか?」

「いえ、かまいませんわ。

 話がややこしくなるだけです」

「では、一試合申し込み「それもやめなさい」


 仕方ない。


「しかし、これはどうしますか?」


 土下座2人を見やる。


「取り敢えず、顔を上げて下さいまし。

 詳しく聞きましょう」


 部屋に移動する。

 机を挟んで向かいに師匠とふりざんてぇま殿。


「それで、浮気したと、いうのは?」

「えっとですねー

 話せば長くなるのですがー」


 師匠の話を要約すると襲われていたふりざんてぇま殿を助けて、お互いそこで一目惚れしあい、保護して我々が到着するすこし前に行われた決戦にて師匠が瀕死になり、ふりざんてぇま殿が師匠に月の騎士という妖術をかけて伽耶を共にしたとか。

 妖術には詳しく無いが、師匠は月が滅びない限り死なないそうな。


「サーシャ」


 一通りの話を聞いた後、奥方は静かにそう告げた。


「はい」

「私は、貴女に一目惚れをして無理矢理ついてきたので、貴女が別の誰かを好きになっても良いと思ってますし誰と夜を過ごそうと私は許しましょう。でも、報告なさって下さい」

「あ、はい」

「ですが、私は貴女に嫉妬します。

 命まで賭けて枢機卿を御守りになったのは立派ですし、歌にもしましょう。

 ですが、私はそこが愛した者と言う理由に嫉妬します。身勝手で、独りよがりな想いというのは知っています。ですが、嫁として嫉妬します」


 奥方は扇子で口元を隠して、2人を見ていた。2人ともじっとその言葉を聞いている。


「サーシャ、顔を出しなさい」

「はい」


 師匠が顔を出すと、奥方は立ち上がって腰の入った良いパンチが飛んで行った。力は大して無い。婦女子のパンチだ。

 少し赤く腫れるだけだ。

 奥方はそんな傷にキスをした。


「それで、貴女は本当に死なないのです?」

「えーまーはい」


 師匠が困った様に笑うと奥方は立ち上がって扉を開く。すると、聞き耳を立てていたのだろうつぺし殿が崩れる様に部屋に入って来た。


「私を神祖の吸血鬼になさい」

「あ、はい」


 奥方の気魄につぺし殿は頷き、指を切って血をカップに注ぐ。それからふりざんてぇま殿を呼び、血を入れろと言うとふりざんてぇま殿も頷き同じ様に混ぜた。

 血を飲むだけで不死身になれるのだろうか?

 私も師匠もそれを眺めている。つぺし殿はカップを奥方に差し出すと、奥方はそれを何の躊躇いもなく飲み干す。すると、グッと唸り床に倒れ掛かる。私が助け起こすよりも早く、テーブルを弾き飛ばして師匠が抱き抱えた。それと同時に腰の剣を引き抜いてつぺし殿の喉元目掛けて剣を放つ。つぺし殿はそれを慌てて躱した。私も師匠に続いて居合を放つが、それは受け止められる。


「待って待って!?

 今、クリスティーナちゃんの体は変化してるだけだから!

 早ければ明日の朝!遅くても明日の夜には目を覚ますから!」


 つぺし殿は私をガッツリと盾にしてそう叫ぶ。


「私の血よりツェペシュ2世様の血が濃いので、覚めたら吸血鬼になっている可能性が高いです。

 しかも、神祖の血を二つ混ぜたので、神祖の吸血鬼になるのは確実です」


 ふりざんてぇま殿がそう告げると、師匠は頷き、奥方を抱き上げた。


「私は起きるまでクリスと居る。

 ごーちゃんはコルネットと一緒にいる様に」


 師匠はそれだけ言うと部屋を出て行く。入れ違いに師匠の上司の方々が入って来た。


「どう言う状況かな?」


 腹黒そうな男の騎士、確かぺんどらごんとか言った騎士が尋ねてくる。

 私はふりざんてぇま殿を見た。ふりざんてぇま殿は今の流れを説明し、それを聞いた2人は頭を抱えた。


「オゴー、君は枢機卿と一緒に居て。

 ツェペシュ2世様は此方に。ドラクロア団長は2人と一緒に」

「分かりました」


 ぺんどらごん殿がつぺし殿と共に去っていった。


「アンタとこうやって話すはここがはじめてかね?」

「はい。

 どらくろあ殿の話は師匠から常々聞いております!

 基本基礎に忠実故に少しの油断もできぬ古兵!是非ともお手合わせ願いたい!」

「そりゃまた今度だね。

 それよか、アンタもサブーリンの弟子ならちゃんとあの子を止めな。私等じゃ手が負えない。

 私等よりあの子に近いのがアンタ達弟子なんだ。私等が居てもあの子はこんなことになっちまった」

「そもそも、ここで何があったのですか?

 某も奥方様も、事変が終わり師匠が負傷したと聞きやって来たのです」

「そうさね……」


 どらくろあ殿が語るには、お師匠は何でも心臓をくろすぼうとか言う武器で射抜かれた後、此処から5km程先にある仏閣まで10万の敵が塞ぐ道を切り開いて行ったそうだ。

 そして、目的地に着くと、ふりざんてぇま殿に頭を垂れて死亡、その後ふりざんてぇま殿によって復活したとか。

 その際の契約に用いたのが月の騎士とか言う契約でこれはふりざんてぇま殿独自の妖術らしい。

 詳しくはふりざんてぇま殿に聞けと言われた。


「月の騎士とは、簡潔に言って仕舞えば月が消えぬ限りはサーシャさんも死ぬことは無いという事です」

「つまり実質的に不老不死とも不死身とも言えるわけだな」


 殺しても死ななそうが、本当に死ななくなったとどらくろあ殿が首を振っていた。


「私の祝福より強力なものだよ。

 これで彼奴は我が国の末代まで語り継がれるべき英雄になった訳だな」

「私の独りよがりな願いで、こんな迷惑を……」


 ふりざんてぇま殿が申し訳ございませんと深々と頭を下げる。

 いやはや、驚いた。お師匠はどーなってんだろうか?

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