第86話 頭も使える近衛騎士団長

 我々は現在、陣地を敷いての防御作戦を展開中なのだとか。なので、至る所に警戒の騎士を置いている。

 私達は取り敢えず、最前線まで行く。道路を掘り建物を破壊して出来た穴、その手前に堆く積んで進軍を阻害しまくった結果は進攻路の限定に繋がる。道を一本守れば良い。


「んー、壮観ですねぇ」


 その道を辿って進めば重武装をして槍衾を敷いた聖王国の軍。

 私の登場に彼等の緊張は跳ね上がり、悲鳴にも似た声でサブーリン来襲と聞こえて来る。


「私は鬼か悪魔ですかねぇ?」

「彼等に取ってはそのどちらよりも怖いでしょうな」


 脇にいた騎士が可哀想にと首を振った。

 どうします?と聞かれるので、どうするかなーと考える。


「取り敢えず、だ」


 馬から降りて槍衾の最先端まで近付く。


「近寄るな!!」


 向こうからそんな声。


「ならば退け!」


 なので怒鳴り返すと正面にいた兵士が槍を繰り出して来たので、槍を跳ね上げて間合いを狭める。そのまま範囲内の穂先を切り落としてやり、兵士の首に月血斬血を突き立てる。


「引かぬなら、殺すしか無いですねぇー」


 刃先を引き抜いて、周囲の兵士を斬り殺す。

 サブーリン団長に続け!と小隊が突撃して来るのでまたもや正面突破。続々と後方から兵士や騎士達が隊列を形成するので、それが作り上がる前に私は列を割っていく。

 攻撃側が体勢を完了する前に最奥まで辿り着けば良い。衝突力は相手の混乱に乗じなければ維持されない。

 10分も切り進めば、其処には敵の本陣が見えて来る。


「コルベールくぅん!

 君の部下を、私はどぉんどぉんしていくゾォ?」


 本陣にいたジジイに叫ぶ。

 月血斬血を振って血払いをする。


「選べよ。

 決闘か、それとも皆殺しか」


 コルベールが難しい顔をしていた。


「いくゾォ私は?

 日が沈まない内に」


 切り掛かってくる騎士を切り伏せる。


「どーも、神父さぁん。

 知ってるでしょー?

 サブーリンでぇーございます!」


 脇で雷撃を溜めていた神父を斬り殺す。


「おい、殺し合いしねぇか?」


 槍を構えて震えている子供みたいな兵士達が居た。


「子供達もおいでぇー

 決闘しねぇか?」


 兵士達は泣きながら首を振っている。


「怖いかぁい?

 でも、私達も君達を率いている爺さんにもっと怖い目に遭わされているんだよぉ?

 だったら君達も味わえよぉ?

 そうじゃ無いと不公平だろぉ?」


 兵士達は泣きながら逃げ出す。


「誰も来ないのかぁーい?

 じゃあ、私から行こう」


 コルベールの周りにいる騎士達を斬り殺す。爺さんの取り巻きだろう神父やらなんやらも斬り殺す。

 周りの全員を斬り殺すと、漸くコルベールが剣を抜いて構えた。


「コルベールさーん。

 知ってるでしょぉー?

 サブーリンでー御座います。

 決闘しねぇか?」


 血払いをしてコルベールに向き直るとコルベールは漸く口を開いた。


「貴様はただの血に飢えた狼よ!

 我が剣を持って仕留めてくれる!」


 そして、切り掛かってくるが、攻撃速度も動きも単調。見切るとかそう言う問題では無い。呆れる程に弱い。

 左手で振り下ろされる剣をいなして、そのまま右の月血斬血でその首を刎ねてやる。何も楽しく無い。

 強い強いと聞いていたが、ただの雑魚だった。

 指揮幕僚全てを失ったコルベール軍はあっという間に烏合の衆となり、死体やら武器やら糧食やらを残して逃げてしまった。


「呆気なさすぎたな」


 全て回収を命じて私はさらに進む。


「どちらに!?」

「糧食を3日分分けてー

 明日にまた戻ってくるから後ろから奇襲するー」

「了解!」


 食料を貰い、聖騎士達を追って路地やら何やらを使い追撃。五百メートル程走ると武装した兵士達がちらほら見える。

 成程なー前哨基地を作ってるのか。適当な建物に入って2階に上がる。ここら辺の住民は全員逃げたのか無人だった。

 其処から眺めると、何やら色々な旗が立ててある天幕が見えた。

 あそこにお偉いさんが居るんだろう。

 よし、屋根伝いに更に近づこう。鎧は五月蝿いので胸当てと膝、肘だけ残して残りは残置。残されたローブを羽織る。

 屋上に上がり、屋根をぴょんぴょん飛んで移動。下では兵士達がウロウロしている。何してんか知らんが何やら話していた。


「さっきコルベール騎士団長もやられたらしい」

「マジかよ。

 あそこ、聖騎士団の中でもかなり強いって話だろ?」

「マジだよ。

 さっき泣きながら騎士どもが報告していた。

 サブーリンって言う王国の近衛騎士が一個小隊率いて全滅させたってさ」

「サブーリン!?

 またあの女騎士が!?」


 私の名前も中々有名になった。


「聞いた話では、あの女は大図書館でフリザンテーマ枢機卿猊下を攫ったそうだ」


 それは聞き捨てならない。


「それは聞いた。

 だから我々は枢機卿猊下の救出をするのだろう?」

「その話は本当ですかァ?」


 音もなく飛び降りて、2人の前に。


「何だお前!?」

「帝国の密偵です。

 詳しく話しなさい」


 金を見せると2人はニヤリと笑う。

 それから話を聞けば有る事無い事吹き込まれ、それを言ってるのが聖騎士団派のババアらしい。何で名前だっけな?

 何かスーパーマンの会社みたいな名前の……マーベルだっけ?


「成程、聖王国も中々も追い込まれているな」

「我々が追い込まれてる?」

「気にするな」


 更に奥に進もう。

 敵陣深く入ると意外にバレない。堂々としていても普通に通れる。


「サブーリンとか言う王国の近衛騎士の話を聞いたか?」

「吟遊詩人が歌っていたぞ。

 エンシェントドラゴンと決闘をして勝ったんだろ?」


 うむうむ、私の話で持ちきりだ。


「知ってるか?

 サブーリンが枢機卿猊下を攫ったのは、枢機卿猊下が庇護を求めたからだというのを」

「本当か?」

「ああ、帝国の兵士が言っていたんだ。間違いない」


 そんな話をすると、兵士達は訝しげに私を見る。


「誰だお前は?」

「旅の冒険者だよ。

 たまたま聖地巡礼に来たらこんな有様。

 金さえくれるなら加担してやるってんでフラフラしてるわけだ」


 肩を竦めると兵士達が納得した様に頷いた。


「金にガメツイ冒険者め」

「何とでも言うといい。

 だが、面白い話は知ってるぞ」


 ニヤリと笑い、酒場を指差した。兵士達はお互いに顔を見合わせ、それから頷いた。

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