第85話 所謂バーサーカー

「何人欲しい」


 外に出るとドラクロア団長がこちらを見ずに尋ねてくる。周りは俄かに騒がしい。


「何人くれます?」

「虎の子を一個中隊」

「なら2番目を一個中隊」

「2番目?」

「ええ」


 ドラクロア団長は頷くと一中隊と呼び付ける。


「お前等は今からサブーリンの下に付いて戦いな」

「サブーリン団長ですか?」


 中隊長らしい騎士が驚いた顔をしてこちらを見る。


「一中も、偶には活躍したいでしょう?

 私の後に続いて暴れましょーや」


 にっこり笑うと一中長もにやりと笑う。

 そして、ドラクロア団長の部下らしく聞いたなぁ!と叫ぶ。

 私は一個中隊ゲットして一本道になった正面を前進する。槍を構えてゆっくりと列を詰める聖騎士団が目に入り我々は止まった。


「隊長!

 敵の数はなんぼかね?」


 声を張り上げ、敢えて敵に聞こえるように尋ねる。


「見た所、千は居ますなぁ!」


 隊長も声を張り上げて答える。


「つまり、これは1人10人も殺せば終わってしまうのか?」

「ええ、そうですサブーリン団長。

 1時間も戦えないですな!」

「これは申し訳ないな!

 君等に勲章を渡してやろうと思ったが、たった10人では!」


 2人で煽ると進軍は止まり聖騎士の1人が前に出る。指揮官らしい、そこそこ立派な鎧だ。兵士達は槍を上げて槍衾を解除した。馬鹿が。


「見た所お前達は100名ほど!

 我々に勝てると思っているのか!」

「勝てる勝てないではない、勝つのだ。

 突撃よーーい!!」


 月血斬血を掲げると聖騎士は大きくその場で後ろに逃げようとして転けるので、そのまま突撃開始。


「蹴散らせ!」


 虚を突かれた聖王国軍は一瞬で槍衾を突破され、我々は後方の指揮官列を強襲。隊列を組んで道を塞いだ為に部隊は身動きが出来ない。

 砲撃の準備をしている砲兵隊を蹴散らし、弾薬と砲を2個小隊で奪い、残り1個小隊は私に続けと命令。

 2個小隊は中隊長に率いさせておく。


「3小隊が援護します!」

「よーし!

 このまま周囲を回って聖王国軍を狩るぞ!」


 それから日が暮れるで逐次やってくる聖王国軍を辻斬りしまくった。強襲は奇襲より面白い。

 最終的に布陣し直そうとしていた包囲隊を後方から襲撃して指揮官の首を刎ねてから教会に戻る。教会に戻ると奪った大砲が備えられており、ペンドラゴン団長とドラクロア団長が頭を抱えていた。


「やりすぎだよ、サブーリン団長」

「話し合いの道を模索しろ!!!」


 怒られた。


「えー?

 頭おかしー人達と会話は出来ませーん」

「いやいや、普通に君、話し合いしようとしなかったでしょ。

 此処からでも見えてたからね」


 可笑しいな。首を傾げると、ペンドラゴン団長がいつの間にか持って来ていた姿見を指差す。


「おー?」

「遠見の魔術を使って特定の人が見れるんだよ」

「はぁーそれは凄い」

「で、君、聖王国の指揮官煽って、出てきたところを突撃しかけたでしょ」

「上手くやりました」


 親指を立てたらドラクロア団長がサブーリンと怒鳴って来た。


「まーまーまー

 もう、こうなったら戦うしかないのでーええー」


 任せて下さいよ、とVサイン。


「取り敢えず、君はシャワーを浴びてきなさい。血だらけだ」

「りょーかい」


 ウキウキでシャワー室に向かう。鎧を脱ぎながら進む下の服まで血塗れだった。手伝いの騎士は慌てて手入れをしろと鎧を持っていく。

 そして、もはやゴミ箱行き確定な服を脱ぎながらシャワー室に入ると、コルネットが服を脱いでいる途中だった。


「ひぇ!?」


 そして、コルネットが私を見るなり変な声をあげ、それから目を見開くと同時に私に飛び掛かってきた。正確には飛び掛かるつもりは無く、脱ぎかけたスカートに足を引っ掛けて転けただけの様だ。


「大丈夫で?」

「わ、私よりもっ!

 騎士様の、ほっ方が大怪我をっ!!」

「これは返り血です」


 おっちょこちょいだなぁ、と笑いながらそのまま服を脱いで捨てるレベルの衣服で血を粗方拭き上げる。

 何の傷もない肌が出てきて、コルネットの前で一回りして見せた。


「ね?」

「は、はい」

「では、汚れたので風呂に入りましょう」


 初恋の人に良く似た顔のエルフと共に入浴。嬉し過ぎるわな。

 翌朝、起きると周囲からだいぶ距離を取って敵は陣を敷いていた。王立軍も聖騎士団に阻まれて近付かない様子で、鏡から見ても双子がジジイと言い争っていた。


「このジジイ殺したら楽しい事なりますかねぇ?」

「お前、目的忘れてないか?」

「イイエ?

 陛下の敵をすべからず根刮ぐのが仕事なので、寧ろ、私は出撃したいですねぇ〜」


 ドラクロア団長がペンドラゴン団長を見る。


「冗談として受け取っておくよ。

 この男は誰か分かりますか?」


 ペンドラゴン団長が私の後ろに隠れる様に着いてくるコルネットに尋ねる。


「ああ、彼は私の教え子のコルベール君です。

 騎士を目指していたので剣術の本をよく借りにきていました」

「コルベール……

 雷撃のコルベール、か」


 何それかっこいい。


「私もそーゆーの欲しいです」

「お前にもあるだろう。

 無慈悲のサブーリン」

「もっとカッコいいのが欲しい」

「ドラゴンスレイヤーは?」

「なんか、もっと、特別感欲しいっすねー」


 そんな会話をドラクロア団長としていたらペンドラゴン団長が咳払いをする。


「サブーリン団長の二つ名は追い追い考えるとして、今はこの包囲をどうするかだよ」

「また私が突っ込んで蹴散らしますかぁ?」

「じゃあ、偵察して来てくれるかい?

 一個小隊貸そう」


 偵察、ねぇ。


「お任せを」


 コルネットに振り返り、抱き寄せる。


「そう言うわけだから行って来ます。

 日が暮れる前には帰って来るのでお待ちを」

「は、はひっ!」


 コルネットから離れて外に出る。


「威力偵察に出る!

 一個小隊ついて来い!」


 第二回敵陣偵察隊の編成完結ぢゃ。

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