第84話 武功とショタとトンネルと

 2週間が経ち、周辺は聖王国の連中に囲まれ始めた。徴発の結果、1ヶ月は何とか持ち堪えれるだろう。

 そして、周囲を完全包囲されるとその旨を伝えに来た軍使がコルネットの身柄と交換で包囲を解くと言い出すので、ペンドラゴン団長が突っぱねる。

 私も団長の後ろでウロウロしていたらドラクロア団長に話がややこしくなるから引っ込んでろと教会に引っ張り込まれる。

 それから1週間ほどして教会の周囲を聖歌隊が囲み歌い出す。何の意味があるのか分からなかった。


「朝昼晩ずっとこの歌聞かされて嫌がらせですかねぇ?」

「まぁ、何かしてるんだろうね」

「攻城戦の武器組み立ててるのかね?」


 騎士団長3人が集まり首を捻ってるが、斥候を出して警戒をしているが何の情報も得られない。

 仕方ないので私も最前線を見て回る事にする。最前線に向かうと、子供達が並んで歌を歌っており見張りの騎士達と対峙している。見てくれが悪い。圧倒的に我々が悪者見たいな構図を周囲に与える。


「サブーリン団長!

 何かありましたか!?」


 私に気がついた近衛騎士がそう叫ぶと、一瞬歌が途切れて全視線が集まる。一斉に見られると普通に怖いので取り敢えず、剣を抜く。

 すると、近衛騎士達も剣を抜いて聖歌隊を殺意増し増しのマシで睨み付ける様に見始めた。


「特に何もないけどーコイツらの目的を探りに来ましたー

 私が帰るまでこの状態を維持して下さーい」


 小声で此処の持ち場を指揮している騎士に告げる。騎士は頷くと警戒体制と叫び、自身の立っていた位置に戻った。私は彼等よりさらに先に出て、聖歌隊の指揮者の隣に立つ。

 聖歌隊は先程から黙ってしまっている。


「……」


 私は被っている兜のフェイスガードを上げて指揮者の顔を見る。指揮者は顔真っ青。私と視線を合わせないように必死に視線を下げる。ビビられ過ぎて、私は悲しい。

 数分程見つめ合っているが視線を合わせては貰えない。空を見たと思ったら地面を見て。地面を見たと思ったら反対側を見たり。

 それだけ。


「……」


 指揮者から視線を外し、今度は聖歌隊のショタ共を見る。ユーリより若い一桁くらいの子供からユーリと同じ声変わり前のショタまで。

 一番小さい子供の前にしゃがんで視線を合わせる。


「……」


 子供は私に視線が合うと目を逸らせて私の胸元や剣、脇に抱えた兜を見る。

 それを全員にやる。幼い子供は皆一様に私の鎧や武器を見る。しかし、ある程度歳が上がると皆地面と指揮者しか見ない。地面率多くね?


「ふむ、成程」


 ユーリ位の少年の前に移動。耳元で囁く様に告げる。


「地面に何かあるんですかぁ?

 正直に答えれば、ドラゴンを殺した剣を触らせてあげますよぉ?」

「っ!

「穴掘ってるよ!

 聖騎士様達がね!下にトンネル作るって言ってたの!僕達それがラクバ?とか言うの防ぐために歌ってるよ!」


 隣にいた幼い子供が答えた。顔は嬉しそうだった。しかし、成程、そういう事か。


「成程、そう言う事でしたかぁー

 偉いですねぇ」


 にっこり笑って立ち上がる。そして、大き目な声で月血斬血を掲げる。


「毎日、良い歌を歌っている君達に、私がエンシェントドラゴンを殺した際の剣を特別に触らせてあげましょう」


 先ずは純真無垢故に平然と坑道戦をしてるとゲロってしまった勲功ショタに月血斬血を渡す。騎士の1人を呼びつけ、坑道戦の企図ありと伝令を出す。

 ショタ達全員に触らせてから、それではと教会に帰ると、ペンドラゴン団長とドラクロア団長がいつに無く渋い顔をしていた。


「テメェの街を穴だらけにするとはね」

「予想進路は道路上だ。

 そうじゃないと上下水道と家の重さに耐えられない。

 地下道はどう通るかを知るには地下図が無いと」


 侵攻はかなりやり易い、肩を竦めるしかない。この街に詳しい人……1人いる。

 1人いるし、その考えは既に2人もある。視線は私に集まっている。


「話してみまーす」

「よろしく頼むよ」


 ペンドラゴン団長が手を振っている。

 取り敢えず、部屋に向かう。部屋の前には2人が待機してる。

 部屋に入ると、コルネットが外を眺めていた。


「お話があります」


 コルネットは窓際から離れて、私の前にやって来た。


「どーぞ」

は坑道戦を仕掛けようとしています」

「団長達から?」

「いえ、聖騎士団の戦法です。四方を聖歌隊で囲み、工事の音を歌で消します。同時に連日連夜歌い、我々の集中を削ぎます。

 そして、坑道が掘れたら地下と地上から一気に攻撃するのです」


 攻撃の本に書いてあったな。

 成程、成程。


「先程、我々も同じ結論になりました。

 聖歌隊の1人に確認したら喋ってくれました」

「酷いことをしましたか?」

「いえ、ドラゴンを殺した剣を見せたら喋ってくれました」


 にっこり笑うとコルネットは安心した様な顔をした。


「分かりました。

 ありがとうございます。あの子達は私の教え子でもあるのです。

 あの子達は何も知らない。まだ、何も……」


 泣きそうな顔をしていた。

 宗教ってのは心の麻薬だと前世で聞いた事がある。宗教ってのは法律ができる前の法律だと聞いた事がある。

 宗教ってのは人を律する為の物だ。つまり、薬と一緒だ。心の薬。目に見えないが故に効き過ぎてるのか、効いていないのか分からない。


「宗教とは心の麻薬です。

 外には出ない様に。戦争は始まった」


 コルネットの手を取り、甲にキスをし、その細い手首にもキスをする。


「此処であと2週間ほど待機です。

 少し騒がしいでしょうが、ご安心を」


 名残惜しいが、行くしかない。


「現在、敵は坑道を掘っています。

 地下の地図がありません。貴女の知識を我々にお貸し頂けますか?」

「勿論です」


 二つ返事だった。

 それからコルネットの手をひいて部屋を出ると団長達の前に。


「フリザンテーマ枢機卿、我々にご協力をありがとう御座います」

「構いません。

 私はあなた方に死んで欲しくはありませんので……」


 嬉しい事言ってくれちゃって。


「早速ですが」


 ペンドラゴン団長がそう言いかけた所で伝令が駆け込んで来た。


「聖騎士団が歩兵列を敷き始めました!」

「私が行ってきます」


 手を挙げるとペンドラゴン団長は頷いた。


「ドラクロア団長は後詰、サブーリン団長は前衛で。対話が不可能なら仕方ない。2週間待たせて欲しい」

「我が命に変えても」

「後ろは任せな」


 コルネットを見ると目を見開いて、今にも泣きそうだった。


「15万相手に5000で勝てたのです。

 今回も勝てますよ」


 それでは、とコルネットの手首にキスをする。

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