第83話 悪魔の方がマシな近衛竜騎士団長

 翌朝起きれば、教会の周りを聖騎士団に囲われていた。


「こ、これは?」

「貴女を引き取りに来たそーですが、ご安心を。

 この下らない政争が終わるまで私が貴女を護ります。我が名に掛けて」


 一番奥にある小部屋にコルネットを移し、入り口を一箇所のみにする。

 コルネットの手を取ってキスをすると武装をして外に通じる唯一の扉、正面の入り口に向かう。

 外には聖騎士団の代表が何やら叫んでおり、ドラクロア団長の部下達が無言で侵入を拒んでいる。


「愈々戦争ですかー?

 いーですねぇ!何処の部隊ですかぁ?

 名乗りを上げましょう!我が名はサーシャスカ・サブーリン!

 王国近衛竜騎士団団長にして、ドラゴンスレイヤー!いざ!」


 一歩前に出ると、近衛騎士達がドラクロア団長の名前を叫びながら中に入っていく。


「ここは我が領土!

 我が命に変えてでも何人たりとも指一本入れさせん!」


 更に一歩出ると後ろに控えていた聖騎士達が代表を後ろに引っ張り込み剣や槍を構えて前に出る。


「我々に敵対の意思はない!」

「抜かせ!

 槍や剣を構えて何が話し合いか!」


 更に一歩前に出ると、聖騎士達も一歩下がる。皆、私にビビり散らしている。形、だったか?前世に読んだ教科書に書いてあった話。

 私と言う存在が最早一種の畏怖になり、それに立ち向かうには無知、蛮勇、そして、私以上の力の誰かが無ければ無理なのだ。


「きょ、今日のところは引きますが、明日もまた来ます!」


 偉そうな奴はそう負け犬の遠吠えを吠えて去って行った。


「明日こそは刃を交えよう!」


 腕を組み全員が去るまで眺めてやる。動きは王立軍の様にキビキビしていた。全軍が去ると入れ違うように王立軍がやってくる。


「猊下は御無事!?」

「あれは何処の所属!」


 猊下とは誰ぞ。所属なんぞ知るか。

 やって来た双子将軍は矢継ぎ早に私に質問を投げかける。


「五月蝿いでーす。

 げーかは知りませーん。所属は貴女達と一緒の聖王国でーす」

「猊下とは貴女が昨晩保護したフリザンテーマ様よぉ!」

「派閥は何処なの!」


 フリザンテーマ、コルネットは矢張りえらい奴だったか。取り敢えず、2人を連れて中に入る。


「双子将軍でーす」

「サーシャスカさん!」


 中に入るとコルネットが出迎えてくれる。そして、それを認めると同時に双子はその場に傅いて頭を下げて、コルネットは私の後ろに隠れるようにそれを受けた。


「お初にお目に掛かりますフリザンテーマ枢機卿猊下」


 双子の白い方がそう頭を下げたまま告げる。


「すーききょーってどんくらい偉いので?」

「教皇の次よ」

「へー」


 めちゃくちゃ偉いやんか。

 本人はひどく嫌そうだけど。


「取り敢えず、彼女は私が護ると誓ったのでご安心を」


 お引き取りどーぞと暗に示すと睨まれる。


「枢機卿猊下は我々聖騎士団所属の者が護ります」

「その聖騎士共が信用出来んと言っていているんだ。

 コルネットは昨晩、お前達に殺され掛けた。偶々私が行かなければ彼女は死んでいただろう。

 これこそ正に神の啓示だ」


 にっこり笑って尋ねる。


「力尽くで連れ戻しても良いぞ?」


 両の腰に下げた火かき棒に手を掛けると2人とも殺意増し増しで睨んでくるが、敵わないと知っているのだろう手にしたハルバードをきつく握り締めるだけだ。


「彼女を守りたくば、強くなるんですなぁ。

 近衛騎士より、聖騎士より、そして何より、私より」


 帰りなさいと、扉を示せば2人はコルネットに深々と頭を下げて去って行った。


「しかし、困った事になったね」


 2人が出て行ってから、ペンドラゴン団長が笑いながらやってくる。


「あ、あの、め、迷惑なら私、い、今からでもモガっ!?」


 出て行くと言おうとするので、口に指を突っ込む。


「貴女1人守る事に何の迷惑があろうか。

 それに、私は貴女を護ると剣に誓った。ここで貴女を見捨てれば私は騎士ではなく、卑怯者。

 それに、貴女を保護している事にも意味がある」


 そうでしょ?とペンドラゴン団長を見るとにっこり笑った。


「王国は今まで通り、聖王国との関係性を保ちたい。変に介入したり、介入されたり。

 なので教皇派か貴女の派閥がなってくれると有難いのですが、貴女の派閥は既に失脚したも同然。しかし、貴女の派閥が使えなくとも貴女の知識は我々の主人たる女王陛下の為になる。

 故に、サブーリン団長は引き続きフリザンテーマ枢機卿を命に代えても護るように」

「我が剣と陛下に誓って」


 剣を抜いて敬礼。

 剣を納めて部屋にコルネットを連れて行く。それから、部下2人に部屋の内外で見張りをしろと厳命してダイニングに。

 此処は指揮所になっている。


「増援が来るとして先発隊は約1ヶ月掛かる。

 我々の食糧は2週間。武器弾薬も無しに等しい」


 ダイニングに入るとペンドラゴン団長はそう告げる。


「徴発しましょう。

 近隣教会に。王立軍は独自に動いて貰って」

「だね。

 王立軍を率いてるのは教会の人間だ。敵にはならないが、味方と当てにするのも止めよう。

 ドラクロア団長、近隣教会から徴発と木材を」

「……了解。

 抵抗されたら?」

「サブーリンの名前を出せ。

 彼等も

「了解」


 ドラクロア団長は私を一瞥すると出て行った。


「私は悪魔か何かですかねぇ?」

「悪魔の方がまだ話し合いの余地があるからマシだよ」


 ペンドラゴン団長がにっこり笑って告げるので私もにっこり笑っておいた。


「周りを見て来まーす」

「うん、よろしく」


 教会の外に出ると、周囲は完全に戦場の雰囲気に移行している。修験者なのただのホームレスなのか分からん連中はとっくに消え去り、偽物は片っ端からペンドラゴン団長の部下に捕まって何処かに連れて行かれていた。

 また、ドラクロア団長の部下達は諸所の家やら何やらから木材の徴発を始めてバリケードを作り始めていた。


「おーい、此処は市街地だから教会の周りの背の高い建物も入らないようにするか、取り壊せー」


 ドアをバキバキやっている騎士達に告げると驚いた顔をしたが、私の顔を見るなり分かりましたと二つ返事で家に押し入って何か命じはじめた。

 それから一通り家の周りを見回ってから侵攻ルート絞るために道の封鎖をどうするか障害を置きまくるか。

 殿下の作った教科書でも読むかな。

 教会に戻り、ペンドラゴン団長が眺めている周辺の地図を脇から覗く。


「何か良い案あるかい?」

「まー周りの道を潰して侵攻経路一つに絞らせるしかないですねー」


 部屋に戻るとコルネットがソワソワしながら待っていた。


「安心して下さーい。

 貴女は絶対に守るので」


 殿下の教科書を入れた鞄を開いて防御関係を見る。コルネットが私のカバンをのぞいてチラチラと私を見る。


「読みたいので?」

「はい!」

「これは軍機なのでダメですねー

 これを見られたら、私は貴女を殺さなくてはいけなくなってしまう」


 手を取り、顔をこちらに向けさせる。


「それは……」

「なので、読まないように」


 防御関連の本を全て持ってペンドラゴン団長のもとに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る