第82話 お持ち帰りする近衛騎士団長

 前世の片想いに良く似たエルフを保護と言う名目で連れて帰ってくる事に成功した。尚道案内はエルフに頼んだ模様。


「で、誰だこの女は?」


 私の目の前にはドラクロア団長。


「図書館みたいな所でー襲われてたので保護しましたー」

「何で腰に手を回してんだ」

「ダメですかぁ?」


 向こうも私の腕を離さないのだからしゃーない。可愛い。美しく可愛い。しかも、胸もデカい。かなりデカい。

 身長に関しては私より少し高いから同じくらいの身長で、猫背気味なのでぱっと見では私の方が高く見える。


「まぁ良い。

 アンタ、名前は?」

「こ、コルネット・フリザンテーマ、です」

「フリザンテーマ?

 まぁ、良い。サブーリン、確り守るんだぞ。お前の権限で保護してきたんだ」


 ドラクロア団長が捨て猫を拾って来た子供の母親の様な目で言ってくる。


「勿論です。プロですから」


 10万ドルポンとくれでも良いぞー

 そんな訳でコルネットを部屋に。


「ベッド広めだから2人で使おーねー」

「はい」


 鎧を脱いで脇に居た女騎士に渡す。


「えっ、あっえ?」


 鎧を脱いだらコルネットが変な顔をして固まった。


「どーしました?」

「えっと、あの、じょ、女性ですか?」


 鎧下のブラウスみたいな奴は汗で体に張り付いており、体の曲線は出ている。男とは違い肩は丸いし、腰も丸い。


「女ですよー?

 まー、男勝りとは違いますがー王国ではそこら辺の男騎士より強いですなー」

「そこら辺どころか大陸でサブーリン様に勝てる騎士は片手に収まる程度では?」


 手伝いの騎士がそんな事をのたまる。


「そんな事……なくないな」


 考えてみるに確かにそんな気がする。


「先程の魔族とのハーフの騎士様よりもお強いのですか?」


 コルネットはおずおずと言う感じに私達を見た。


「この人、あの騎士こと不死身のドラクロアを3回殺してますよ。

 連続だったら今頃ドラクロア団長はこの世に居ません」


 騎士は真顔で答える。

 コルネットは私をみる。


「山羊頭の悪魔までなら一対一は余裕でーす。

 死の刃あれば数手で勝てまーす」


 脇に置かれた死の刃を指差す。コルネットがヒィと剣置きから遠ざかった。


「あれ、そんなに怖い?」


 介助の騎士を見ると信じられんものを見る目で見られた。


「普通に怖いですが?

 あれで切られたら絶対死ぬんですよ?

 逆に聞きますけど貴女は平然とポイポイ投げてますが、それを敵に取られて自分に使われたらとか考えないのですか?」


 ふむ。


「私が使う時は絶対刺さる時と本気で殺す時なのでー

 それを取られてーとか考えた事ないですねー」


 そんなこと考えたこともなかったわ。


「負けること考えて戦う奴、居ますかぁ?」

「成程、我々とはやはり次元が違います」


 騎士は笑って失礼しますと去って行った。


「しつれーな」

「貴女は強いお方なのですね」


 コルネットはベッドに腰掛けて私を見上げている。


「まー戦うのは好きです。

 強い敵と戦うのは楽しい。貴女は何が好きですか?」


 取り敢えず、ご趣味は?から始めよう。


「私は本が好きです」


 まぁ、司書やってる奴が本嫌いな訳ねぇわな。


「おー文学少女な訳かー

 どんな本呼んでんの?」


 ベッドに腰掛けて間合いを詰めると、コルネットは少し顔を赤て顔を俯けた。うむ、女もいけそうなタイプだ。だが、今日はガッツかない。ジャブだ。甘めのジャブばかりを打とう。


「い、色々な本です。戦記や論文、恋愛小説や寓話集等、色んな、ほ、本を読んで、ます」

「そうなんですねー

 良いと思いますよー愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ。他人の知識とはそれ即ち知識。貴女は賢い。賢い故に狙われた。

 人間の嫉妬とは醜いものですねー」


 コルネットの髪を掻き上げて、その長い耳に掛ける。美しい黒髪だ。

 顔どころか耳まで真っ赤。愛おしい、その感情が先走る。理性でそんな感情を殴り付けて押し留めるのだ。


「今日は色々あって疲れたでしょう。

 さぁ、横になって。私が何があっても貴女を守り切ろう」


 掛け布団を捲り、コルネットをベッドに寝かせる。

 コルネットは顔を真っ赤にしてギュッと固まっていた。布団を掛けて灯りを消す。暫くすると寝息を立て始める。なので、そっと部屋を抜け出し、部屋の前に待機していたペンドラゴン団長を見る。


「寝ましたー」

「うん。

 彼女は誰か知ってるかい?」

「図書館で司書してるエルフでしょう?」

「違うヨォ?

 いや、そうなんだけど、彼女はこの聖王国では大図書館派と呼ばれる教皇に教養と知識を授けている派閥だよ」


 ふむ。


「彼女は何も知らないと」

「そりゃ、彼女自身はエルフ。ハイエルフだからね。僕等人間の政なんて興味ない。でも、ハイエルフの下に集うのは人間だ。彼女の思慮のお溢れを預かっているだけでそれが自身の力と勘違いし、そして、それを勝手に彼女をトップに誂え、自身の名誉と勘違いする。

 彼女は本当に何も知らないのだろう。知っていても僕が今語った程度の認識で誰が彼女を祭り上げようとしているのかも理解していないだろうね」


 成程なぁ……


「因みに、ここでの戦争では何処の派閥が一番強いんですかねぇ?」

「えーっとね。

 一番はやっぱり現教皇派だね。次に聖騎士団を率いているメイベル大司教派。後は少数だけど非常に強い発言権を持つ大図書館派や遠征聖騎士団派だね」


 なんだその変な聖騎士団。


「へーそーなんですねー

 まあ、さっさと爺さんが次の後継を指定すりゃ楽なんですけどねぇ」

「それは言わない約束だよ、サブーリン団長」

「まー次の教皇が決まるまで、彼女を保護しますけどー」

「んー……まぁ、良いか」


 よろしく頼んだよ、と去って行き入れ替わるように2人の騎士がやって来た。


「ペンドラゴン団長よりサブーリン団長の指揮下に入る様にと命令を受けました」

「はーい。

 じゃー今日は私も寝るからーなんかあったら起こしてねー

 指示出すまで待機でー」


 2人は頭を下げると扉の横に立つ。

 私は部屋の中に入ってベッドに入る。コルネットは寝たふりをしていてる。気が付かないふりをした方が良いだろう。

 顔を後ろに向けているのでその後ろ髪を掬い、キスをする。ドッペルゲンガーなのだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る