とある大図書館枢機卿の感想
本が好きだった。
本は良い。あらゆる時代のあらゆる階級、性別、種族の考えをその場に居ながら理解出来るのだから。
そして、本を集め集め集め集め集めていたらいつの間にか人間達が集まり知識を独占し始めた。気が付けば宗教を起こし、私はそこで大図書館と言う派閥のトップと言う地位になっていた。
幼い頃から私に教えを乞いに来た人間やエルフがその宗教のトップとなり、そして、今回もその1人が死ぬそうだ。教え子の死は悲しいものだ。出会いがあれば別れもある。
宗教のトップは興味が無い。故に私はいつもあの無駄な話し合いが嫌いで図書館に篭っていた。
しかし、今回はそれが許されなかった。そう、勝手に祭り上げられていた派閥の配下が私をトップにしようとしたのだ。
故に命を狙われた。勿論、私が普通の武器では死なない。が、それを殺す為の能力や武器はある。
故に部下のシスターと神官が問答無用で殺された時点で私は逃げた。争い事は勿論、運動なんか点でダメだ。
3人の刺客は連携をとり私を追い立て、殺そうとして来た。私も精一杯逃げるが勿論追い付かれる。基礎体力の無さが招く最悪の状況だ。
斬りかかられて杖でなんとか防いだが、最早死を目前に何も出来ない。
周りは既に日が沈み、夜の帷が降り始めた時刻。この時間に図書館の周りは誰もいないのだ。千は超えぬがそれに近い日々を暮らしていた。死は恐ろしい。皆一様にそう書いている。
それを乗り越えるだけの心持ちを持つ者も居たが、私にはまだ無い。死にたく無いのだ。
そう思っていたら私を切ろうとした刺客が突然私に覆い被さる。力が抜けた人間は重い。鎧も合わさると最早私の筋力では退かせない。
耳からは何やら剣を切り結び柔らかいものが砕ける音がした。
呻き声が大図書館に響く中私はなんとかしてこの死体を退かそうと押し上げた所で、死体は私の上から退く。
「だいじょーぶですかー?」
そんな気の抜けた声と共に男とも女とも取れる整った顔立ちの騎士が立っていた。私と暫く見つめ合い、騎士は静かに涙を溢す。
「えっ!?」
「あぁ、気にしないで。
私は、サーシャスカ・サブーリン。どうか、抱きしめさせて欲しい」
騎士はそう言うと私を強く、そして、静かに抱きしめてくる。優しく、柔らかな抱擁。私も、さっきの今で、その安心感に心が救われた。
本気の殺意とは恐ろしい。人とはなんと温かいのか。
そのごちゃ混ぜの感情と共に私も涙を流す。
女が2人して死体を囲んで泣いているという見る人が見ればホッコリするだろうが、実情を知るものが見ると意味の分からない光景を30分程続けた。
「改めて、怪我は?」
私を助けた中性的な騎士はしっかりと私の手を優しく握り尋ねた。
「あ、ありません……」
「それは良かった。
貴女は何故襲われたのか、分かりますか?」
思い当たる節しか無いが、それを言うとこの正体不明の騎士に殺される可能性すらある。
そう、正体不明なのだ。
「成程、では私が貴女を守ろう」
騎士は私の手を確りと握り、立ち上がる。柔和な笑みは月夜の光に翳されて、非常に美しかった。
「綺麗な人」
それが私が彼女のイメージであり、事実なのだ。
月夜の騎士、古い伝承にあった騎士の物語。そんな話が思い浮かぶ。
そんな彼女の物語。
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