第76話 近衛竜騎士団長は諦めない。

 オーガ達の出現については現状証拠しかないし、神祖共はお前等の事情なんか知るかなのでどうしようもない。

 と、いうか私がエンシェントドラゴンに負けた事とエンシェントドラゴンことオイレンシュビーゲルが私の許にいる事はギルドも掌握しているらしい。

 なので、問題解決はしたと言う認識でエンシェントドラゴンの扱いは私に一任するから何とかしろと言うのがギルド側というか帝国側の考えなそうな。

 さっきその旨の言い訳を述べた皇帝の勅書が来た。大丈夫かこの国と思いつつも、ほんとどーすっかな。

 矢張り人形のまま戦い殺す方が楽か。

 そういえば剣達は何処だ?


「私の剣はー?」

「あー、そこにあります。

 全部揃ってるので確認もお願いします」


 ツェペシュ2世が壁を指差すと、私の剣達が掛かっている。アイギスなんかあんだけ灼熱通りすぎて最早白いビームになっていたブレスを受けたのに傷ひとつない。

 剣三本の内一本は折れていた。まぁ、そりゃそうか。エンシェントドラゴンの攻撃だし、折れない方が可笑しい。

 そう言う意味では月血斬血は頑丈だな。死の刃も欠けやヒビなどはない。


「おい、その禍々しいのを2度と俺の前で抜くな」


 死の刃を点検しているとオイレンシュビーゲルは親の仇を見る様な目で此方を睨んでくる。


「点検は大事ですのでー

 嫌なら自分の家に帰ってどうぞー」

「俺だって帰れれば帰りたい。

 ツェペシュの娘が帰らんと五月蝿いのだ」

「知りませぬー

 そもそも、ツェペシュも帰ってドウゾ」


 他人事の様に嫌から帰れとオイレンシュビーゲルを見ているツェペシュ2世を見ると、ツェペシュ2世は驚いた顔をして此方を見た。


「なんで?」

「はいぃ?

 そもそも、あーたがここに来たから今に至る一連のめんどくさい事になってるのですがー?」


 しばくぞ。


「ツェペシュの娘はそもそも何をしに来たのだ」

「サブーリン殿とクリスティーナを眷属にしに来たのさ!」

「なに?お前、そのクソ忌々しい下等種を眷属にするとか正気か?

 今も虎視眈々と俺の首を掻こうと殺気を飛ばして来るイカれを?」

「あー……やっぱりオイレンシュビーゲルくらいになると殺気って分かるんだ。

 私、今も言われないと分からないや」

 

ツェペシュ2世は苦笑して肩を竦める。


「此奴は俺よりも戦いに飢えたイカれよ。

 俺と戦い、逃げ延びた下等種でその直後からこうして命を狙って来る阿呆は未だ嘗てあと数人しか居らんかったわ」


 ほう、それは興味深い。


「エンシェントドラゴンが一目置くとは、中々の存在だな……

 クリス、入って来て良いよ」


 扉の前でずっと待ってるクリスティーナを呼ぶとすぐに扉が開く。


「朝ごはん持って来ましたわ!

 スープは温め直しに行ったので少しお待ちになって!」


 クリスティーナはそう言うとベッドでご飯を食べる専用の台(名前は知らない)をツェペシュ2世に置かせ、その上にトレーを置いた。


「色々と心配かけたけど、まぁ、あれだね。

 流石の私も竜体型のドラゴンには勝てないようだねー」

「その辺は既にツェペシュ様から聞いてますわ!

 今歌も作ってますわよ!」


 クリスティーナが朗々と歌い出す。オーガの調査依頼から始まりオイレンシュビーゲルが登場。

 いよいよのところで歌が止まった。


「まだ歌詞が出来てませんの」


 肩を竦めたので、一生歌詞が出来なくて良いと伝えておいた。その先は負け戦だ。私の醜態。

 最早昼飯と言っても差し支えない朝ごはんを食べ終え、報告書を書く事にした。内容は、まぁ、いつも通りにしよう。

 些細に書くと面倒くさい。

 報告書と近状を纏めてギルドに行ってくると告げ、外出。黄色い傘片手に出てこの前の通りに。

 そして、今度は正面からきた老婆がスルッと私の手から手紙を抜いた。私は老婆の腕を掴み、足をへし折ってから腕を捻り上げる。すると、黄色いハンチング帽子を被った男が慌てて近付いてきた。


「ちょっとアンタ!?何したんだ!」


 男は私の目をじっと見ている。コイツが本物だな。黄色いものを身につけているし。


「この婆さんが私のポケットからスリをしようとしたのでー

 ちょーど良いや。この婆さん突き出すから衛兵呼んで来てー」

「わ、分かった」


 男は私がさり気無く落とした手紙を拾い上げると駆けて行く。


「お前、何処の密偵だ?

 私と知って狙ったな?」


 正直、私より前を歩いていたアホヅラかました高そうな防具の冒険者なら簡単に行けるはずだ。しかも、狙いは手紙。

 これはもう密偵しかない。答えないし、多分詳しい情報は知らないだろう。そこ等へんの奴に金をつかまされた浮浪者だ。

 身なりもよく見たら汚いし。膝で首を拘束し、腕を捻り上げる。痛いとすら叫び声を出させない。


「お前を殺しても良いんだ。

 何故なら私が王国近衛竜騎士団団長のサーシャスカ・サブーリンだからだ」


 皇帝ではなかろう。

 彼奴はこんなまどろっこしいやり方はしないし、私如きの手紙なぞ興味無いはずだ。


「誰だろなー誰だろなー」


 暫くして衛兵が来たのでスリを捕まえたと突き出しておく。

 それからギルドに向かう。


「おい、来たぞ」

「エンシェントドラゴンに喧嘩を売ったらしい」

「何で生きてんだよ」


 ギルドに入るとそんな声がちらほら。


「何か文句ある人は前にどーぞ」


 そう言うと誰も前に出ない。代わりにやって来たのはドラニュートだ。


「この度は、何と申して良いやら。

 エンシェントドラゴンと対峙して五体満足で生きて帰ってきた方を初めて見ました」


 ドラニュートは頭を深々と下げる。


「えーまー飛び道具さえあればもうちょっと良い勝負出来たんですけどねー」

「あの神祖の龍相手に勝てる、と?」

「人形なら多分勝てますねー

 あそこまで大きいと攻撃効いてるのかどうかすら分からないのでーえー

 人型なら勝てるかとー」


 割りかしそう思う。あと、エンシェントドラゴンといえどもプライド高い割に煽り耐性低いので煽り捲れば勝てると思う。

 何かいい弓あったかなー?後で本見るか。


「おいおい、今の聞いたか?」

「信じられねぇ……」

「王国近衛騎士団ってのは化け物揃いじゃねーか……」


 何だよその人外筆頭みたいな言い草は。

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