第75話 負けても誰も文句言わない相手に負けたが、負けは負け。
ビームの放出時間は体感5分ほど。熱さがヤバかった。
ビームが飛んだ地面は生えていた草花は綺麗に焼けて無くなり、土も湯気を出して炭化している。当たっていないのにこの熱さだ。
アイギスなけりゃ今頃私は骨すら残らずに死んでいた。やば過ぎてもう、笑うしかない。
「ウハハ!!
やっべー」
此方の攻撃全然効かねーのにあっちの攻撃は全て一撃死。ヒリ付くなぁ、この戦いは。
「どう殺したものか?」
ビーム回避の為に上に放り投げた月血斬血が戻って来たので、チアリーディングのバトンよろしくキャッチ。
両手でくるくる回しながら体の確認。顔とか手の甲とかがヒリヒリしている。多分、火傷。あんだけバカスカ高温を至近距離で浴びてればやけど見たくなるわな。
「抜かせ!!」
そこで初めてドラゴンがしゃべった。驚きだ。
「下等でひ弱な生物風情が、この俺を殺すだと!?」
ドラゴンは大笑いしている。うーん、この長命種の見下し様。
「でも、その下等でひ弱に足切られるわビーム防がれるわ、何ならまだこうやって軽口叩かれてるわで、貴方もだいぶ大したことないんじゃーねーんですかねぇ?」
こんだけ言えばブチギレると思う。
案の定すげー吠えてる。
「ウハハ!!
図星言われて吠えたら!」
最高にウケる。
最高にヤベェけどな。
「さて、どう殺すか」
直後、横合いから尻尾。すんでのところで伏せて回避。と思ったら一回転からの蹴り。アイギスでガード!私は吹き飛ぶ。空中を高く舞う。地上60メートル。空の旅。スゲー怖い。
「ウハハ!飛んでら!」
尚飛行ではない模様。それから枝やら細い木を盛大かつ大量にへし折りながら地面に落着。頭から。受け身?折れた腕や足でどうやって?多分肋骨とかも逝ってる。
「クソ」
そこからの記憶はない。
次に目が覚めたのはベッドの上だった。掛けられた布団、私の腹の上でクリスティーナが涎を垂らしながら寝ていた。
「あ、クリスティーナ!
起きなよ!サブーリン殿起きたよ!」
反対側に居たツェペシュ2世がクリスティーナを揺する。クリスティーナはうぅんと身じろぎし、ゆっくりと目を開ける。
そして、私を見ながら大きなあくびをして起き上がった。
「体は大丈夫でして?」
「あー、うん。
折れた腕も体の火傷も何にもないよ」
「それは良かったですわ」
クリスティーナはにっこり笑って立ち上がる。
「ご飯を持って来ますわ!」
そして、ルンルンで部屋から出ていく。
「丸一日寝てたよー
しかし、凄いねー」
「ドラゴンどーしたのさ。
ツェペシュが殺した?」
だとしたらドラゴンスレイヤーになり損ねたのか。
別に称号に関しては心底どうでも良いが、もう少し何かあったら倒せたと思うと惜しい気持ちになってくる。
称号とかじゃなくて、純粋に惜しい。
「まさか!
そもそも、あの人、お父様の知り合いだよ」
「はぁ?」
「エンシェントドラゴンのオイレンシュピーゲル」
ツェペシュ2世がおーいと窓を開けると見知らぬ翼が生えた少女が入って来た。外見はクリスティーナにそっくり。色違い2Pカラーみたい。
クリスティーナはプラチナシルバーな髪色だけどこっちはプラチナブランド。
部屋に入ると翼が消え去る。
「む、起きたか貴様」
少女は私を見ると爬虫類特有の縦に細長い瞳孔を、さらに細める。ニヤリと笑う口は大きく、その歯はナイフのように鋭かった。クリスティーナとは細部は違う様だ。
舌も細く長く蛇の様にチラリと出る。どうやら本当にあのドラゴン、オイレンシュビーゲルの様だ。
「ドラゴンは、人型にも成れるんですねー」
この大きさなら殺せるんちゃうか?
「当たり前だ。
俺は神祖の火龍だ。舐めるな下等種」
シャァーと威嚇して来るが、怖くない。
「だがしかし、貴様は下等種ながら俺を相手に善戦した。
2度のブレスを防ぎ、1発のファイアーボールも防いだ。さらには咆哮を聞いても怯むどころか笑って切り掛かって来る。
龍殺しの剣を持っていれば、俺も手こずったろう」
「次は弓矢とかあれば、私ももーちょっと善戦出来ましたねー」
空飛ばなきゃ勝てる。
「はっ!馬鹿が、俺を打倒出来ると?」
「その姿なら、多分勝てますねー」
答えると、オイレンシュビーゲルはシュルシュルと口の端々から炎を漏らし私を睨み付ける。
「死にたいか、貴様?
先ほどはツェペシュの娘が止めに入ったが骨すら残さず殺すぞ」
「ふむ。
ツェペシュの方が上なのか」
神祖と言ってもそこの階級差はあるのか。
「もー!止めてよー!?
オイレンシュビーゲル喧嘩っ早いのお父様にも注意されてたじゃん!
神祖なのだから下等種如きに熱くなるなって。みっともないよ!」
私ら人間で言うところのゴブリン相手にブチギレ出る様なものか。確かにみっともない。
「まーそれで何でそのエンシェントドラゴンのオイレンシュビーゲルさんが帝国まで来てるんですかねぇ?
オーガとかが人里近くまで来たのもあーたが来たせいでオーガ達の食料となるさらに弱い魔物とかが居なくなったせいじゃ有りませんことぉ?」
それしか考えられん。
こう言う、長命種かつ人間より強い存在は台風や地震と言った我々ではどうしようもない基準で気軽に災難を持って来るから困る。
まぁ、帝国だからどーでも良いがこの分だと王国にも来そう。そうなると、不味い。吸血鬼も、エンシェントドラゴンも。
吸血鬼ならまだしも、このドラゴンは本格的にヤバい。聞いた話では普通のワイバーンですら軍隊が出るし、こんなん来たら国無くなるな。
どうやら、神祖は死の刃で死ぬ様だし人型の形で勝負して殺せる様に算段しよう。こんなの連れて帰ったら陛下に在らぬ不安と疑念が生まれてしまう。
一応、報告しておこう。
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