第67話 異世界無双 一騎当千の近衛竜騎士団長

「まーね、まーね。

 こーなるかもなーとかは思ってたのよ。実際。でもさ、まーこーも思った通りに行くと笑っちゃよね」


 飛んでくる矢や魔術は鍛冶屋で見つけた丈夫な鉄の棒ではたき落とす。丈夫な棒は大事だ。

 武器において打撃が一番強い。斬撃は打撃より専門性が高い。刀は引かねば斬らない。でも、棍棒は叩けば良いだけだ。

 くるくる回しておけば格好も付くし、敵も勝手に間合いを取って警戒をする。


「で、後どんだけぶん殴っていれば良いんですかねぇ?」

「何で見えてんだよ!」

「見えてませーん。

 目隠ししてまーす。君達が雑魚だから攻撃も全部分かっちゃいまーす」


 周りにいる冒険者達の悲鳴がよく聞こえる。


「でーいつまで私はここに立っていればー?」

「挑む冒険者がいなくなったらに決まっとろーが!」


 このアホな遊びの発案者、皇帝陛下の声が聞こえる。


「あとどんくらい居ますかねー」

「結構居ますわよー頑張って下さいましー」


 クリスティーナの楽しそうな声。日傘さして紅茶しばいてるんだろうな。

 あきたなーつまらんなーみんなビビり過ぎだし連携なんてあっだんじゃ無い。

 そもそも、何でこんな事なってんのかと言えば皇帝が「サブーリンをボコボコに出来た者には金一封。サブーリンには伝説の盾をやる」と言い出したのだ。

 多分、昨日の腹いせ兼暇潰し。


「連携を取れ!」

「取らせませーん」


 声のした方に飛んで何人か殴ってやる。


「何でだよ!」

「その方が面白いからでーす」


 あっちこっちに飛んでボッコボコ。暫くすると狙い澄ました様な一撃が飛んでくる様になった。誰かが統率し始めたらしい。

 開始1時間にして漸くか。怠惰。


「そろそろ本気で掛かって来てくださーい」


 周りにいた4、5人をシバき、挑発。直後、魔術が飛んで来る。それを避けつつ魔術の裏に放たれた矢も弾く。


「よーやく、本気になりましたかー?」


 遅いわーそれから飛んで来る魔術や矢を弾きながら仕掛けてくるのを待つ。


「何で当たんねーんだよ……」

「勝てんのかよ、ほんとに……」


 士気が崩壊する音がするわー


「よーし、後は本気でボコボコにしよう」


 目隠しを取り、突喊。


「遠からん者は音に聞け!近くば寄って目にを見よ!今から貴様等全員の骨を砕く者こそ、王国最強の近衛騎士、サーシャスカ・サブーリン!」


 名乗ってる間だけで20人近い人間の膝とか膝とか顎とかを砕いておく。私が突っ込めば突っ込んだところが壊れていく。逃げ惑い穴が開く。その穴を埋めるべく次々と現れる冒険者達は戦意より恐れを浮かべている。

 面白くは無い。雑魚狩りだ。草刈りと一緒。棒を振れば消え去る。それが現状。

 何も面白く無い。昔、それこそ前世で無双ゲームがあった。滅茶苦茶強い武将を操り延々と名も無き、いろちがいでしか表されていないモブ敵を狩まくって時折出てくる敵の武将を倒し、総大将を追い詰めるゲーム。

 それやっている気分だ。

 小学生だったあの頃や幼いまだ騎士見習いの自分なら楽しめただろう。しかし、最早大人。成人を2度も迎え何なら2度目の人生では嫁さんまで貰っている。

 そんな私にこれをどう乗り切れと言うのか?

 演舞と思ってやるか?演舞やった事ないのに?では、型がどう通じるのかやってみるか?別に誰から師事してるわけでもないので流派すらないのに?

 突きを10回連続で出して全員倒す?既に15回連続で突きを繰り出して殲滅したのに?

 棒術を極めてる?既に1時間以上、多分100人以上棒で無傷でぶん殴っているのに?

 キレを求める?切り傷すら作ることが可能な鋭さで引っ叩いてるのに?棒術を深め様にも私は棒術の流派を知らない。

 叩く払う突く。これに避ける動作や動きを合わせて武術となる。


「ふぁあーあ」


 余りにも退屈。余りにも緩慢。あくびが出る。そこからは無心で無双をしていた。日が暮れ始めると観客は増え、挑戦者は減る。


「おー?終わりが見えて来たかー?」

「新規挑戦者は居ませんよー!」


 頑張ってくださいましーとクリスティーナは案の定紅茶を優雅に皇帝とパパティーナの3人で捌いていた。


「じゃーどんどん行こう」


 日が完全に暮れる前に帰りたい。


「よっしゃ!間に合った!!」

「救国の騎士様は何処かしら?」

「おや!あそこにいらっしゃるぞ!」

「さっさっと倒して賞金いただきましょう」


 そこに漸く強い奴等が現れた。動きを止め、新規挑戦者4名を見る。両手剣を抱えた軽装の冒険者、杖を持った魔術師に和弓と槍を持った鎧武者、そして、メイスを持った聖騎士だ。


「陛下ぁーあの4人倒したら終わりでいーっすかねぇ?」

「んー……まぁ、仕方あるまい。

 良いとしよう!貴様等!サブーリンのクソ生意気をボコボコにしてしまえ!」


 ほら私怨!


「そーゆーわけで、よろしくー」


 本命4人に手を振る。


「くーっ!

 2時間近く戦ったとは思えない余裕!」

「噂に違わない御仁!」

「どう攻めます?」

「正々堂々、1人づつ?」


 4人がそんな相談をし始めるが、問答無用。


「そーゆーのはー

 入る前にやってくださーい。ここ、お遊びとは言え戦場故に」


 速攻で間合いを詰めて魔術師の喉目掛けて突きを放つ。それは冒険者に弾かれるので、その勢いを利用して傍にいる聖騎士を狙う。

 聖騎士は咄嗟に腕を翳して防護。勿論ただのクソ硬い鉄の棒なのでどんなに酷くとも骨が折れるくらい。

 感触は普通に骨折った。


「ぐっ!?」

「ピエール!?」

「よそ見とは余裕ですねー」


 侍の持っている弓を壊すのだが、それを狙うとバレるので少し避けやすい頭目掛けて横凪。案の定かわしに掛かるので勢いそのままに弓をへし折ってやる。

 この三名に攻撃を仕掛けた所で約6秒両手剣の冒険者が此方に対しての攻撃が整い、剣を振り上げるので冒険者の攻撃に合わせてその一撃を逸らせる。

 そのまま冒険者は、地面を切り付けて体勢を崩させた後に当て身。冒険者くん、完全に尻もちをついたので、そのまま顎を蹴って気絶。

 サムライがもう槍を構えているがこの距離でその得物はダメだ。穂先を掴み叩き折る。和槍は穂先からある程度は切り落とされない様に工夫があるらしいが、中央とかまでを鉄のガードみたいなのを付けたり皮で守ったり。

 勿論全部は覆わない。第一重くなる。そして、しなやかさが無くなる。

 やりは叩いたり薙いだりする。そう言えば槍が活躍するのは戦国時代前後らしい。元寇の時分では元軍の鉾を見て変な武器持ってるとか言ってたらしい。

 細部は不明だし、この世界関係ないけど。

 槍を折り、腰に刺したダガーを鞘ごと喉に投げる。サムライはそれを弾くが、上半身に意識が行き過ぎ。股間を思いっきり棒で殴る。

 サムライくん、言葉すら出ずに倒れる。因みに金的は男も女も有効だ。


「あはー、子供できなくなったらごめんねー」


 残すは魔術師と聖騎士。優先度は聖騎士だ。


「腕は治さないのでー?」

「治しても?」

「どーぞー?

 万全で挑んでもろて」


 棒を地面に立て、待機。その瞬間、魔術師が何やら杖を向けてくるので棒を思いっきり投げ付ける。鳩尾に直撃し、気絶した。


「ジッとしてれば良いものを。

 あ、どーぞゆっくり治してもろて」


 気絶しているサムライくんから刀を回収。

 日本刀は紋様が美しい。切れ味も良いのかしら?宮本武蔵、小指と中指で握ってたな。まぁ、握力の要はそこだからな。


「なおったー?」


 腕を確かめ、手をグッパーしてるから治ったろ。


「ええ、お待たせしました」


 刀を傍に捨て、対峙。


「じゃ、どーぞー」

「何故、刀を捨てたので?」

「必要で?」

「私は防具を着て、武装をしてます」

「まぁ、そーでしょーね」


 両手を広げてにっこり笑顔。

 聖騎士は両手にメイスを握って大上段からの振り被り。何の工夫もなく純粋な一撃。


「はい、残念」


 故に避け易い。

 目も見えている。振り下ろされる腕を掴んで投げてやった。ゲームセット。


「私の勝ち、何で負けたか明日までに考えておいて下さい。

 それでは、盾、頂きます」


 皇帝を見るとヒジョーに不満そうでつまらなさそうな顔をしていた。


「その顔サイコー。

 帰るよー」


 クリスティーナに言うと、彼女ははい!と嬉しそうに立ち上がりパパティーナと皇帝に失礼しますと頭を下げて出口に向かうので私も出口に。

 ただただ、疲れるだけだな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る