第66話 言外に化け物と呼ばれる冒険者。

 帝国の皇帝はフッ軽とはよく聞くが本当にフッ軽だ。何で普通にいるんだ、1人で。


「嵐の様な、とは皇帝を指す言葉ですねー」


 去って行った皇帝を見送り、ギルドマスターを見る。


「聖王国と戦争をするのですか?」

「えー?さぁー?

 でも、皇帝陛下ならするのではー?我が国は分かりませんがー」


 参加するんかねー?

 聖王国って確かかなり遠いよな。しかも、聖騎士の大本だから多分めんどくさいタイプに強いぞ。そもそも、そんな直ぐには戦争せんだろ。

 次期教皇とかも最近聞く様になった。私がこっちに来る直前でしかも、そこまで大々的に争っているとは聞いた事がない。

 皇帝は多分、早めに唾を付けておこうと言う魂胆なのだろう。そして、可能なら自身が影響を及ぼしやすい馬鹿、つまりは幼子やモノホン側に付きたいと。

 暇なんだなぁ、皇帝は。

 優秀な奴を大臣とし、優秀で無いなら問答無用で殺す。怖い人だ。いや、魔族だけど。


「サブーリンさん」


 なんて考えていたら副ギルド協会長のメイビーみないな名前の奴が居た。


「おーはようございまーす。

 えっと、メビウスさん」

「マイビスです」


 マイビスだった。


「奥の部屋で貴方の話を聞きたいのですが、宜しいでしょうか?」

「私の話聞くなら、クリスティーナに聞いた方が良いかとー」


 歌ってくれるぞー


「それは追々。

 どうでしょう?」

「まー良いですよー

 今日は報告書書く予定しかないのでー」


 と、言う訳で奥の部屋ことマイビスの部屋。


「おぉーこれ、山羊頭が持ってる杖ですよねー」


 部屋に入ると脇に飾ってあるのは山羊頭の武器。


「はい。

 これ、世界樹の枝です」

「へー

 彼奴等すげーの武器にしてんな」


 世界樹とは何かと話題の聖王国に生えてくるらしいクッッソでかい木の事だ。なんでも数千年前から生えてるらしい。屋久杉なんて比じゃない長さとか。

 スゲーな。んで、魔力も豊富にあり、一説ではこの木が魔力を放出するから世界には魔力が満ちてるらしい。

 確かに、晴れてれば王国の本当に端からでも微かに見えるとか何とか。私は見たことないけど。


「貴女は単独で2度も山羊頭の悪魔を狩ったと聞きます」

「えーまー

 死の刃無ければ手こずりまくってたでしょーねー」


 逆に言えばアレさえあれば誰でも勝てる。

 流石チート武器。ゲームじゃ本当にその真価は決められたボスとステージじゃ無いと使えなかった。

 それがこの様ですわ。


「ご謙遜を。

 1度目は剣を折られて漸く本気を出したとか」

「えー?最初から本気ですがー?まぁ、全力では無かったですけどー」

「では、この前は?」

「ひたすらにめんどくさっかったのでーえー

 不意打ち狙ったらドンピシャでしたー」


 正直言うとああ言うのあそこ迄テキメンに嵌るとは思わなかった。


「そとそも、山羊頭の悪魔にその様な小手先を仕掛ける騎士は世界広しと言えども貴女だけですが?」


 普通はあんな物効かない、まぁ、そうだな。初手何ぞ一番気が張ってる。故に気が付かれないなら引っかかると言う物。


「まぁ、そもそも魔物相手なので我々人間の技が通じない通りはないでしょう?」

「地域によってはアレも魔族に含む者達が居ますよ」

「はぁ、まぁ、ぶっちゃけそーゆー分類とかどーでも良いのでー

 私は私が命を受けて進む先に立ちはだかる物は一切が合切、撫で切るだけですのでー」


 それが一番楽だ。命令遂行の為の行動。それが行動理念。私は近衛騎士。それが私の存在だ。


「貴女は、王国で冒険者制度の復活を調査するために来たのですわね?」

「そーですわね」

「貴女から見て冒険者は如何ですかね?」


 如何?如何ねー


「どーでも良いですねー

 足らぬ所を新たに制度を設けて足せば良い。市中の環境整備や道路整備など。

 態々冒険者を作る意味が無い」


 正直要らん。


「それに、冒険者の質も問題ですねー

 王国にも昼間っから酒飲んでる奴は居ますがーここはその比ではない。

 武器を携行しているのでより問題ですねー

 酔い、暴れて剣を抜く。そんなことが常態化してる様では、近衛騎士としてはおいそれと許可は出せませんねー

 と、言うことで第一回の報告書は冒険者は不要と送りますぅー」


 それでは、と立ち上がる。

 マイビスがでは、と尚も食い下がってきた。


「魔術ギルドは如何でしょうか?」

「魔術ギルドは王国に無かったでしたっけ?」

「ありません。

 貴女の国の王とその妹が商業関連のギルド以外は全て取り潰しました」


 冒険者ギルド筆頭に、魔術ギルドと冒険者を育てる為の学校類は全て廃止。

 代わりに王立常備軍を作ってそこで魔物討伐や魔術や剣術を教えて鍛えている。



「あるのは王立軍配下の魔術学校くらいです。

 もっと市井の民にも魔術の知識を広めるべきなのです」


 それはもっとも困難だろうな。

 叛乱されたら魔術師が増える。今ですら闇で魔術を教えている、と言うとあれだが退役軍人達が田舎で片手間に教えて口伝や見聞で使うものがいるのだ。

 それも本来は禁止しているのだがいかんせん便利なのだ。貴族や騎士は家で教えるし、農民共も先の述のように広まっている。

 もちろんちゃんとした物では無いから大した技もなければ、威力も乏しい。

 精々土を耕したり、軽い水を出したり着火したりと言ったものが殆どだ。


「最もダメですねー

 魔術は人を殺せる。生活利用で使うならまだしも冒険者や貴女の様な自己満足や戦闘の為に魔術を習得する様な農民はあってはならない。

 それをしたいなら王立軍に入れば良い。

 それが陛下が下した決定なのでー」


 逆に言えば殿下が王国の軍事力を握っているので今の王国にある姉妹不和できな臭いことになる。

 殿下派が殿下を担ぎ上げて反乱を起こせば軍事力の差で陛下の首が危うい。我々近衛も王立軍より上位の存在で纏めいるが、いかんせん人数差はどうしようもない。守りは強いが攻めには梃子摺るだろう。

 そこに冒険者や市井の魔術師が加わったらもう、悲惨な事になる。


「残念ながらマイビス殿の提案は王国は許可しないでしょーねー

 どうしても、と言うのなら直訴して下さーい」


 陛下が賛成しても多分ペンドラゴン団長辺りが反対すると思う。


「一応、優秀な人材は引っ張ってこいとも言われてるので貴女がどれだけ魔術すごいか分かりませんがーまぁー推薦状書いても良いですよー」


 腕見せて貰えれば、だけど。


「どうすれば貴女の推薦状を貰えますか?」

「んー……

 山羊頭を1匹狩ってくれば楽ですねー」


 狩れますか?と尋ねると苦笑される。


「山羊頭の悪魔は、そうほいほいと狩るものではありませんし、私も山羊頭の悪魔を狩ったのは専門の討伐隊を編成して漸くです。

 犠牲もかなり出ました」

「なるほどーあれ相手にそこまで苦戦する物なのですねー

 私には理解出来ませんけど」


 天才チーターですから。

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