とある皇帝の感想

 王国のサブーリンが来ているらしい。情報源は財務大臣だ。

 まぁ、娘の話ばかりでうるさかったけど。


「ちょっと、冒険者ギルド行ってくる」

「行ってらっしゃいませ」


 メイドに告げて冒険者ギルドに向かう。

 城にドラニュートやギルドマスターを呼びつければ良いが、それをやると来るのに時間が掛かるのでワシ自ら出向いてやるのだ。

 しかし、あの無気力人間はワシに挨拶に来ぬとは中々に肝の座っとる。伊達に山羊頭を狩っとらんわ。

 ギルドに着き、マスターを呼ぶ。マスターは非常に迷惑そうな顔でコチラを見てくるが文句あるか?と尋ねると何も言わないので遠慮無く待たせて貰う。

 聞くところによると、今日は朝にギルドに顔を出して何処かに向かったらしい。夕方なのでそろそろ帰ってくるとのこと。


「マスター!大変です!!」


 そこにA級やS級の冒険者が血相を変えて飛び込んで来た。

 報告を聞くにサブーリンが1人でレッドキャップと山羊頭のを狩ってしまったらしい。


「1人で?」

「はい!」

「ゴートデーモンに至ってはダガーと死の刃を投げただけの一瞬です!」


 冒険者共は興奮したように述べた幕無しに、口々にその見たまま聞いたままの事を報告する。子供が誰よりも先んじて、自身の名誉の様に他人に語る様は実に滑稽だ。


「わかったわかった!

 一般に喋るな!私の耳は一つだけだ!」


 ギルドマスターはそう怒鳴り付けると溜息を吐く。


「それで、そのサブーリンは?」

「帰っちゃいましたよ、あの嬢ちゃん」

「帰ったぁ!?」


 何考えてんだあの騎士様は、とギルドマスターは叫ぶと私に向き直る。


「そう言うわけで、今日は来ないでしょう。

 また明日、来るかもしれません。要件があるならば城に直接呼び出した方が早いやも知れません」


 それでは失礼します、とマスターはドラニュートを呼びながら去って行った。

 帰ったなら私も帰るか。また明日来るしかない。今日は城に帰り、翌朝、朝イチでギルドに顔を出す。

 朝の喧騒が落ち着いた時分に奴は現れた。いつか見たダルそうな表情で脇にひっついているベレッタの小娘とやって来たのだ。

 相変わらず何処ぞの男娼かと言うほどにイケメンだな。


「待っていたぞ貴様ぁ!」


 サブーリンの前に飛び出る様に立ちはだかると、サブーリンはすかさず跪いた。


「これはこれはー

 皇帝陛下直々に我が元を訪れなくともお呼び頂ければ参上致しましたのに」

「面をあげよ。

 本来は着いた初日に何も言わずとも挨拶に来るのが礼儀だろう!」


 言うと相変わらず心底めんどくさいから早く帰ってくれと言う態度を隠そうともせずに口を開く。


「その様な話は初めて聞きました故に。

 帝国ではそうなのですかな?」


 サブーリンの視線の先にはドラニュート。


「そんな事はない。

 陛下のお戯れだ。と、言うより貴方は陛下と知り合いなのか?」

「えーまー知り合いと言うか数年前にうちの陛下の護衛で一緒について行った時にー」


 故奴はそう言うだけ。


「それよりお前、山羊頭のをやったのか?」

「えーまー

 なんか空から降ってきたし、隙だらけだったのでー」


 初撃さえ当たれば雑魚ですわ、と断じるこのクソ人間は絶対人間では無い。人間だけど。


「お前、ほんと気持ち悪いな。

 なんで山羊頭に射撃当てれるんだよ。意味わからんわ。ワシだって片手間で倒すのにちょっとめんどくさいなーって思うぞ」

「やーもー私は死ぬほどめんどくさいって思って戦いましたもん。危うくめんどくせぇって気持ちに殺されるかと思いました」


 舐めてんのかこいつ?


「お前、ホントに人間か?」

「失礼な。

 私の親は列記とした人間ですし、私も人間ですよ。木の股から生まれた訳でもありませんー」

「木の股から産まれたので、と言われた方がまだマシです!

 それと!ああ言う重要な魔物を討伐したら報告して下さい!!」


 ギルドマスターが何なんだこの人と言う顔だ。ほんと、何なんだろーな。ワシも気になる。


「つーか、お前、何で依頼受けないでインドゥーラ行ってんの?山羊頭出るからあんま近寄んなってギルド行ってねーの?」

「勧告出してます!

 勿論、依頼を出してる冒険者以外は近寄ろうともしません!」


 ギルドマスターが言い、全員が見る。


「えぇ?そうなの?」


 知らなかったーと笑ってる。何なのこいつ?ほんとに?


「え、お前イカれてんの?」

「イカれてませんが?」


 ナンナノコイツ??


「それより、何か用があってここまで来たのでは?」


 サブーリンがめんどくさそうな顔をしたまま言う。


「んー?

 まぁ、あるっちゃあるけど、それやるとお前ン所の王に許可いるからさーどーしよっかねーって感じ」

「内容次第ではーまー私から上奏しても良いですがー?」

「ほんとか?

 なら、聖王国に戦争行くからお前も参加しろ」


 言うとサブーリンの奴は酷く、それはもう酷く酷く面倒臭い顔をしていた。


「皇帝陛下は御乱心か?」


 そして、ドラニュートの方を向くとそんな事を宣う。


「残念ながら平常じゃ。

 誠に、残念な事に」


 ドラニュートの奴も嘆かわしいと首を振る。


「貴様等、ワシじゃ無かったら首と胴体泣き別れじゃったぞ?」

「普通の王はまずそんな提案しないのでーえー」


 サブーリンが勘弁しろと言う顔で告げる。酷くめんどくさそうな顔もしている。


「まぁ、聞け。

 聖王国は現在次期教皇を巡って政争をしとる。そこに漬け込んでワシ等に有利な方を担ぎ上げようと思っとるんじゃ」


 事情を説明すると、サブーリンは納得した様子だったが、面倒臭いと言う態度は崩さない。


「冒険者はギルドの命令には絶対だ」

「はぁ」

「そして、帝国のギルドはワシの命令に絶対だ」

「はぁ、ですが私は王国近衛竜騎士団団長なのでーしかも、別に冒険者やりたくてここにきた訳でもないですしーええ」


 何なら今すぐ辞めても良いとサブーリンは言ってのけた。Bランク冒険者は各国の上級騎士レベル、AやSならば最早将軍クラスの武力だ。

 多分、昨日の件でサブーリンはAには絶対上がるだろう。


「成程、まぁ良い。

 お前、どーせあの氷の女王に報告するんだろ?

 ワシがどちらに着くか聞いていたと書いておけ。返答も速やかにせよとな」

「因みに帝国はどちらにつくので?」

「馬鹿な方じゃ」


 馬鹿な方について担ぎ上げる。


「さて、何万の軍をだすかな?」


 楽しみだ。

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