第63話 近衛竜騎士団長のドブ攫い。

 冒険者とは、存外適当な職業なのだ。

 翌朝、日が昇る前にクリスティーナと共に来てみると確かに有象無象が群れを成して冒険者ギルドに集まっている。


「雲霞の如くって奴だねー」

「そうですわね。

 庶民の方々は、こんな朝早くから大変ですわね」


 クリスティーナは寝ぼけ眼で先程から欠伸を連発している。


「じゃあ、ちょっと先に依頼を見に行ってくるから適当に待っててー」

「分かりましたわ。

 お気を付けて、何だか妙な臭いもしますし」

「確かにくっさいねー」


 ワハハと笑いながら群れを割って最前線に。


「おーおー此処が先頭か」

「おい嬢ちゃん、見ねえ顔だな」


 背後に居たゴツい男がそんな事を言う。


「私もアンタを見た事ないよー」

「新人は後ろに行きな」

「雑魚も後ろに行った方が良いかとー」


 言うと胸倉を掴まれそうになったので、喉を潰してから顎を殴り付けてやる。男はそのままその場に崩れた。


「おねむですかねー?」


 そんな事をやっていたら背後で扉が開く。すると全員が私を押すようにして中に入る。私も掲示板の最前に。依頼は色々なものがあった。

 10分も眺めていると何かの討伐は殆ど取られていく。残るのはゴートデーモンやレッドキャップの調査といったランクBとかAの依頼やFランクの依頼らしいドブ攫いやら草刈りやら所謂公共整備。帝国は公共事業を冒険者に代替させているらしい。

 成程、これは良いかもしれんな。此処は利点だ。


「なるほどねー」


 取り敢えず、クリスティーナの許に戻る。


「どうでした?」

「Fランクは公共事業の代替、高ランクは王立軍の代替だねー

 ただ、上下層が細いから王国の様に全てがきっちりと遂行される事は無いかなー

 でも、求職者に一定の仕事が与えられるのは良いねー」

「それで、今日は何をするので?」


 何しようかなー


「ドブ攫いでもしておく?」


 クリスティーナが心底嫌そうな顔をする。


「ワハハ、その顔わかるー

 でも、ドブ攫いすれば帝国の土木技術が調べられるのでー」


 やりまーすと笑う。それから残っていたドブ攫いの依頼を取る。それからゴートデーモンの依頼を見る。

 場所はインドゥーラの森とか書いてある。何処だよ。


「インドゥーラの森」


 そう言えばギルドホールの何処かに地図が張り出してあったな。

 探すと呑んだくれ共の前に張り出されている。何でもう潰れてるのよ、コイツ等?


「ふむ、此処か。

 成程」

「あんだぁ、ねーちゃん?」


 1人の呑んだくれたオッサンが顔を真っ赤に告げる。


「何時から飲んでんのさ」

「オラァまだ酒飲んでねぇーぞお!」


 右手にジョッキを持ったままそんな事を宣う。本当ただの酔っ払いやんけ。


「じゃあ、これで飲みなよー」


 めんどくさいから金貨を一枚投げてやる。


「おー!!ねーちゃん良い奴だなぁ!

 オラァ、情報屋だぁ!!なんでも聞いてくれぇい!」


 信用ならん情報屋だな。


「じゃーインドゥーラの森って何処だい?」

「あー?いんどーら?はぁ?はぁ……

 あー!あそこだぁ!そこぉ!」


 酔っ払いは其処と指すのは帝都の近くにあるデカい森だった。ほうほう、此処か。


「ありがとー」


 場所は確認した。日帰り出来る距離だ。

 クリスティーナの元に戻る。クリスティーナは何やら別の酔っ払い相手に歌を歌っていた。この前のロケットぶち込まれて私の騎士団が壊滅した戦争だ。


「ちょっとー私の騎士団壊滅した歌を本人の前で歌うのやめなよー」

「ほ、ホンモノなのか!?」

「あんた、本当にあの、救国騎士の、サブーリン、殿か?」

「あ、握手してくれぇ!」


 大人気。一通り握手してからクリスティーナを連れてギルドから退避する。


「もーやるならもっとかっこいい奴にしてよー」

「あら、あの闘いも涙なくしては語れない、素晴らしい闘いですわよ!」


 家に帰り、スコップと汚れても良い服に着替える。


「本当にドブ攫いやるんですの?」

「やるんですのー

 まーこれも良い経験だと思ってさー

 それに、ドブ攫いやって筋力付けて、今度はレイピアで勝てるようになっておこうー的な?」


 スコップ、アメリカンシャベルというのか、柄が一本の奴がこの世界の主流らしい。誰か、Y字型の柄のスコップ開発しろ。リボ払いしとる場合か。

 集合場所に向かうと子供と片足や片手のない障害者が同じようにスコップやバケツを持って立っていた。


「どーもー冒険者ギルドからきましたー」


 取り敢えず挨拶をしておく。全員私を見てから、隣のクリスティーナを見る。クリスティーナは古いドレスみたいな服を着て日傘をさし、バケツを持っているのだ。


「何だいアンタ達?」

「監督かい?」

「いーえ?

 昨日から冒険者でーす。こっちがクリスティーナ。私はサブーリン」


 よろしくーと言っていたら役人らしき男がやって来た。


「お前等が今日のドブ攫い共か?」


 役人は子供と障害者を見回し我々が目に入る。


「えっと、あ、貴女方は?」

「ドブ攫い共の1人でーす。

 何処のドブ攫いますぅ?」


 役人はこちらです、と立派な建物に案内してくれる。


「あら、此処は」


 クリスティーナがまぁと少し驚いた顔をした。


「何処此処?」

「帝国財務省ですわ。

 お父様や兄様方がいらしてるはずですわ」

「へー挨拶行く?」


 旦那として。


「いいですわ。お父様もお忙しいと思いますし」


 それから作業開始と言われたので取り敢えずドブからヘドロを揚げる組と揚げた泥を台車に乗せる組に分かれる。

 クリスティーナは泥を台車に乗せる組に任命した。私は泥を攫う組だ。

 役人は監督らしく、何もせずに作業を見ている。しばらく作業していると、子供や障害者しか居ないので泥を零したり、跳ねさせたりして役人が怒鳴り付けると言う事が起こる。

 成程なぁ。


「休憩しましょう」


 疲れましたわ、とクリスティーナが言う。すると何処からともなく現れたメイドや執事がテーブルと椅子を出しパラソルを立てる。また、水桶を用意してクリスティーナに手や顔などを洗わさせていた。


「えぇ……何処から出て来たのぉ?」

「サブーリン様、ベレッタ様が此方に」


 そして、傍にいた執事にそう言われて建物の入り口を見ると私腹を肥やしたそうな男が走って来ていた。


「クリス!ワシの天使よ!元気にしていたか!?」


 そして、クリスティーナに抱き付き、クリスティーナもお父様!と抱き付き返している。


「お久しぶりですベレッタ公爵」


 取り敢えず頭を下げる。


「うむ、貴様の活躍は帝国でも耳にしている。帝国の宝とも言っても過言では無い愛娘を託したのだから相応の活躍をして貰わねば我が天使クリスティーナを奪い返しに行くところだ」


 クリスティーナのパパさん、パパティーナは娘が1番の親バカなのだ。

 なので、決闘裁判で私がクリスティーナを救った事で帝国の3分の1を牛耳る男に気に入ってくれたのだが、娘が私に付いてくるとなり娘には自身の息が掛かった側近を付けた。

 なので私がペンドラゴン団長に疑われる一端にもなっている。あと、割とガチで私が娘を奪っていったので感謝しつつも普通に当たりが強い。


「私の勲功だけで歌が何本も出来てるのでーまー逆に言うと此処まで活躍出来るような世の中は中々物騒ですねー」

「ふん。腕だけで無く口も立つ。

 娘がベタ惚れで無ければ謀殺していたわ」


 笑っておこう。


「それで、なぜ我が天使がこの様な奴隷働きをしている?」

「冒険者になったのでーその依頼ですねー」

「そうですわ!

 私、昨日冒険者になりましたわ!」


 ご覧になって、とクリスティーナが冒険者の証をパパティーナに見せる。パパティーナはそれを見てアホなのかと思う程にベタ褒めしていた。


「なるほど、それで貴様は?」

「一応Bですねー」

「ふむ。貴様ほどの腕ならAとかSとか行けるのではないか?」

「冒険者としての実力がないからでは?」

「成程。

 なら、ゴートデーモンでも狩ってくれば良い。得意だろう?」


 何言ってんだコイツって顔で言われたので取り敢えず何言ってんだコイツと言う顔で笑っておいた。


「ですがまぁ、近々行ってみようかなと思っているのでー

 行きますぅ?」

「行くか!

 ワシは貴様と違うのだ!」


 それからクリスティーナにこんな奴隷働きは止めてこっちで書類の選別を手伝いなさいと連れ去っていった。


「それじゃあいって来ますわね」

「其処のお前、クリスティーナの代わりにドブ攫いをしておけ」


 脇にいた監督役の役人に告げ2人は去って行く。

 何でもありだな。

 それからドブ攫いをして1日終える。クリスティーナは私達の仕事が終わる頃に戻って来た。パパティーナと共に。


「では、しっかりと励むんだぞ。

 貴様も、クリスティーナが不自由しない様に確りと働けよ」


 パパティーナはそれだけ言うとクリスティーナに抱き付き、大量のキスをしてから去って行った。怒涛の人。

 因みに本名はクリスティン・ピエトロ・ベレッタ公爵。自分の名前をどうしても入れたかったそうな。故にクリスティーナ。なので、2人がいるところでクリスと呼ぶと2人が返事する。

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