第62話 近衛竜騎士団長の吉備津彦命

 2人と共にホールに向かうと、クリスティーナが汗を拭いながら現れた。


「合格しましたわ」

「おめでとー

 なんかあの鬼族の子とやり合うことになった」


 先程からずっと此方を見ている鬼の子を指差す。


「シュテン、この方と手合わせを」


 ドラニュートが告げると鬼の子はニンマリ笑って立ち上がる。


「テンコの敵討ちやなー」


 長い刀を片手にシュテンと言うらしい鬼の子は立ち上がる。


「剣貸してー」


 クリスティーナからレイピアを借りる。


「負けたでしょ?」


 尋ねると当然と言う顔で肩をすくめられる。


「立ち会うついでに軽く教えてあげるねー

 レイピアは一対一なら強いんだけど、即死できないんだよねー」

「そんな細っこい剣で、ウチに勝てると?」


 シュテンが少し声を低めて言ってくる。


「えー?

 逆に負ける為に勝負する人居るのでー?」


 ダガー持ってる奴を探すと酔っ払いが持っていたのでそれを借りる。


「レイピアは本来二刀流なのさー

 じゃ、行こうかシュテンちゃん」

「アンタさん、馴れ馴れしいね。

 名前は?」

「あー、自己紹介してなかったねー

 王国近衛竜騎士団長サーシャスカ・サブーリン。よろしくー」


 それからレイピアの特徴をおさらいする様にクリスティーナに教えながら訓練場に向かう。

 ゲーム中の特徴は小盾以下の大きさの盾相手には防御無視で攻撃出来る。刺突な上に軽く剣がしなる。故に小さい盾なら攻撃を当てられる。残念ながら細身故に強度は低い。

 そんな馬鹿だ。


「なのでー

 基本的にこれで攻撃しかしません」


 左手のダガーを見せる。


「この剣は出来れば護拳が付いてる剣がいいでーす」


 向かいには余裕そうな笑みを消したシュテンちゃん。

 審判はドラニュートだ。


「はじめ!」


 そして、開始。


「レイピアにも色々流派がありまーす。

 ですがー私はその流派知らないのでー私流で行きまーす」


 カモンとシュテンに言うと、シュテンは一歩踏み込み居合い。あの長いのに、腰を引き、鞘を後ろに投げ、抜き切った。そして、その勢いのまま私の首を狙うので左のダガーで切り上げる。


「此処で相手の剣を防いでー刺す」


 ジャブ。シュテンに刺さる直前で寸止め。


「相手の一撃を逸らしつつ攻撃」


 剣を引き、間合いを取り直す。


「あの一撃防ぐのか!?」

「なんと言う動体視力!」


 外野が別のところで騒いでる。

 クリスティーナは左手をクネクネ動かして首を傾げていた。


「左手は弾くだけー」


 はい、もう一回とシュテンに告げると、正に鬼の形相。次は袈裟斬り。


「はーい、これはこう」


 いなして寸止め。

 そんな感じで攻撃を何度かやっているとクリスティーナが手を挙げた。


「はーい、クリスティーナ君」

「面倒なので盾を持ちますわ」

「それもまた良いですねー

 と、言うわけで盾貸してー」


 脇にいる冒険者から中盾を借りる。


「シュテンちゃんはー腕を切ったら生えて来ますかー?」

「鬼族は心臓の核さえ壊さらな、死なんよ」


 それは良いことを聞いた。


「なら、寸止めやめまーす」


 盾で身を隠す。


「ついでに盾の使い方教えまーす。

 盾は相手の攻撃を防ぐと同時に、相手に攻撃の仕方を強制させるための道具でーす」


 左手の盾を突き出しつつ、右手のレイピアを出す。その一撃でシュテンの左目を潰した。


「速過ぎる!」

「レイピアはしなりまーす。盾で弾きつつ速度を乗せればかなりの速さが出まーす。ほれほれほれ」


 ジャブの様に突きを繰り出し、シュテンの左肩、脇腹を抉る。勿論、シュテンも躱すが速さに対応出来ない。


「レイピアの利点は此処にありまーす」


 おーけい?とクリスティーナを見るとにっこり笑っていた。


「私は多分サーシャの様に使えませんわ」

「まーそうよねー

 大人しく後ろで逃げてくれた方が私も楽でーす」


 おしまい、とレイピアと盾を脇に捨てる。


「じゃー、死なないと分かったのでー

 一丁本気でやりましょう」


 剣を抜き、構える。


「来いよ、冒険者。

 私にその腕を自慢してみろ」

「舐めるな!」


 トーンとシュテンが飛ぶ。第二段階だ。速度とパワーが上がる。刀を肩上げる。それと同時にシュテンは刀の重さを使って、詰まるところの遠心力を利用して蹴りが来るのだ。


「ワハハ、馬鹿か?」


 足を切り落とす。小さな足が私の前に落ち、シュテンはバランスを崩して不時着。そこを見逃す私では無い。追撃して首を刎ねてやる。


「こんな物か。

 いや、不死身故にって奴か?」


 刎ねた首を持ち上げて観察。


「シュテンがたった二撃でやられた!?」

「首を刎ねても戦えるのかな?」


 首は子供のそれと変わらない。口を開けると犬歯が長い。目玉は人間と同じだ。


「な、何をなさっているので?」

「首実検」


 角は硬質だ。皮膚との切れ目は無い。髪の毛か?


「ふむ」


 試しに剣で切ってみると、剣が欠けた。


「な、何をなさってるのですか!?」

「記念に角を貰ってやろうかとー」

「魔物では無いのですよ!?」


 ギルドマスターが焦った様に怒っている。


「並の剣では切れないですけどねー」


 欠けた剣を脇に捨て、倒れた体に首を乗せると目をパチパチさせる。足をくっつけると指がグッパグッパと動いた。


「おー、治った」


 シュテンの首を見ると、しっかりと繋がっている。


「ドラクロア団長と一緒ですねー

 さて、今日の目的は済んだので帰りまーす」


 クリスティーナと一緒に家に帰る。


「明日、クリスの身分証取りに来るのでー作っておいて下さーい」


 帰るとクリスティーナは楽しそうに今日やった自分の戦いを語った。

 実に楽しそうで、充実した様で良かったと思いました。

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