第61話 近衛竜騎士団長も冒険者したい。
帝国にも強い奴がそこそこいる。
狐耳の幼女も系統の違う強さだろう。私みたいな純粋なファイターの前では無力過ぎた。魔法使いに前線張らせるのは無理って事だな。狐耳の仲間らしい鬼っ娘は純粋な最前線ファイターだろう。
長い刀持ってたし。金棒持てよ。鬼だろう。
「お名前を、お聞かせ願えるか?」
私の前に座るギルドマスターと呼ばれているおっさんが警戒心マックスで告げる。
「私はサーシャスカ・サブーリン。
こっちは嫁の「クリスティーナ・サブーリンですわ!」
今日人一倍声がでかい。ハツラツしてる。さっきからずっと楽しいで良かった。
「なっ……」
おっさんは空いた口が塞がらないと言う感じだ。
「これ、証拠でーす」
どうぞ、と腰に提げている死の刃を差し出すとオッサンはそれを受け取る。そして、刀身を少し抜くとすごい勢いで閉める。
「魔剣、死の刃……初めて見ましたが、何と禍々しい」
禍々しいのか?そんなこと感じた事ない。
鞘から抜いて、改めて眺めて見るが、普通のダガーだ。クリスティーナに見せてもクリスティーナは首を傾げている。ま、良いか。
「それで、合格で良い?」
「ええ、貴女の腕と功績ならD、いえBすら十分に通用する程です」
「あ、普通に一番下からで良いでーす」
別に目的は冒険者ライフを楽しむ事ではない。
「つかぬ事を伺うが、貴女は確か王国で近衛騎士団長をして居たと記憶して居ますが……」
「ええ、今回は陛下直々にわが国でも冒険者制度の導入にあたり、どう言うものか見てこいと言う命令でしてー」
ぶっちゃけ、今の所必要ないんじゃね?感しかない。
「なるほど!」
「なので、最下位の冒険者からやって行ってーまぁ、長期スパンで冒険者について勉強しまーす」
よろしゅうと告げて立ち上がる。
「どうなさりましたか?」
「面接は終わりでしょう?
明日、証を取りに来るので今日は帰りまーす」
それでは、とクリスティーナを連れて帰る。途中、ギルドホールには先程の鬼と狐が居た。こっちをジッと見て居たが、相手に敵意はあっても殺意は無いので別段相手にすることもないので一瞥する事なくクリスティーナと共に拠点たる別宅に帰還。
食事から何からクリスティーナの家の者がやってくれる。歓待されてるのだ。
その日はゆっくりとクリスティーナと過ごし、翌日の朝にギルドに顔を出す。
「此処って、何時もこんなガラガラだけど冒険者は流行ってないの?」
クリスティーナに聞くと確かにと頷き、落ち目なのかもと言い出した。なら、導入する意味なくね?
今まで通りの王立軍が訓練がてら狩に行くで十分だろ。
「アンタさんが来るのが遅いだけや」
脇にいた鬼が話しかけて来た。
「明日は日が昇る前に来んさい。
あと、昨日は昼前に帰りなはったけど日が落ちると冒険者が一杯になるよ」
鬼が頬杖を突き、こちらを見ている。
周りには昨日のメンツ。
「私、朝早いの苦手ですわ」
クリスティーナが露骨に嫌そうな顔をする。私も嫌だ。
「じゃーおいおい覗こうかー
ありがとうー鬼っ娘ちゃん」
カウンターまで行くと、奥に待機して居たらしいギルドマスターが飛び出て来た。
「お待ちしておりました!
どうぞコチラに」
案内されると、見たことも無いトカゲ人間みたいなジジイと腕が4本目が四つの魔族が座っている。
「だぁーれ?」
今日は剣を下げて来たので魔族とやっても大丈夫だろう。
「龍人族のドラニュート様と魔族のマイビス様です」
「はぁ、知らぬ人です」
知ってる?とクリスティーナを見る。
「ドラニュート様は帝国の冒険者協会の会長ですわ。マイビス様は帝国の魔術協会会長で、冒険者協会の副会長ですわね」
「はじめまして、サブーリン団長。帝国冒険者協会会長のドラニュートです」
「貴女の噂は予々聞いて居ます。
魔術協会会長兼冒険者協会副会長のマイビスです」
2人が立ち上がって握手を求めて来たので握手しておく。龍人族はトカゲではなく、龍を先祖に持つ種族だ。
なので、体の鱗は普通に剣を弾き、魔術にも長けている。知能も高い。その上長命なのでエルフとかと一緒で食えない存在とか何とか。
本で読んだ。
「初めまして。
王国近衛竜騎士団団長のサーシャスカ・サブーリンです」
龍人の前で竜とは言え名乗るのは烏滸がましいですがーとか言ってみる。
「いえいえ、貴女は15分程で山羊頭の悪魔を倒してそうでは無いですか」
ドラニュートが笑いながら首を振る。
「いやーあんなもの、死の刃さえ有れば誰でも出来ますってー」
余裕やろ。人差しすれば死ぬんやぞ。余裕やん。
「貴女が可笑しいだけです。
アレを15分で殺せる者は居りません。例え、死の刃を使ったとしても」
マイビスが断言する。
「そんな事ないと思うけどなぁ?」
首を捻る。
なんなら、月血斬血あればもっと余裕やろ。
「まぁ、貴女には近いうちにその山羊頭の悪魔を討伐してもらうかも知れませんけど」
「はぁ。
まぁ、良いですよー最近は全然剣とか振るってないのでー」
で、私等は何時までこの2人とおしゃべりするんだろ?
「それでー私の冒険者登録証を貰いたいのですがー」
取り敢えず、ギルドマスターを見る。
「ええ、此方に」
マイビスがどうぞ、と一枚の板を差し出してきた。
私の名前と所属、そしてランク。ランクはBと書いてある。
「ランクは一番下からで、と言ったはずですがー?」
ギルドマスターを見る。
「冒険者には適正なランクがあります。
余りにも強過ぎる方を実力と差があり過ぎるランクに付けるのはあまり好ましい事ではありません」
「ふむ、言わんとしている事は理解できました」
「なら」
「ですが、聞いていると思いますが私は冒険者制度の調査に来たわけで、冒険者になりに来たわけではないのですよ。
ランクはこのままで、一番最初のランクの任務を受けれらシステムですか?」
「いいえ」
ドラニュートが首を振る。現階級から一個下のランクなら受けれるらしい。
「ですが、Fランクの冒険者をパーティーに加えてその者が受注しパーティーが依頼をする事はできます」
「成程」
クリスティーナを見るとにっこり笑ってお任せをと頷いた。
「私も冒険者になりますわ!」
レイピアをお貸しになってとクリスティーナが言いながらギルドマスターを見た。
「……良いでしょう」
クリスティーナは行って来ますわとギルドマスターと共に去っていく。
私も行くか?と尋ねると心配なさらないでと去って行くので残ることに。
「それはそうと、昨日テンコはどうでした?」
マイビスが少し前のめりに尋ねてくる。テンコ、テンコ?
「テンコとは?」
なんだそれ?
「手合わせをしたでしょう?
妖術師の」
「あー!昨日の狐ちゃん」
あの子テンコって名前なのか。
「まー魔術師とかなら強い方だと思いますよぉ?
魔術とかよく分からないですけどー」
魔術で精霊を使役する的な感じらしい。
「貴女の敵ではない、と?」
「私のーというか、剣士相手に魔術師が勝てるのは弓矢より近く槍より遠い間合いでは?
アレだけの距離なら誰でも勝てるかとー個人的にあの子と一緒にいた鬼族の子とやって方が実力は測れるかと思いますぅー」
強さで言えばあの鬼だろう。
「なら、手合わせをしてみますか?」
ドラニュートはニヤリと笑う。
「良いので?」
取り敢えずにっこり笑っておこう。
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