第59話 盲目になっても伝説の騎士にはなれる。

 結論から言うと誰1人として目隠しした私に一本も入れれなかった。


「目隠しして攻撃避けるのも、目隠しした私から一本取るのも、どっちか一つでも出来る様なろうかー」


 体育の授業、周りの学生達は剣で打ち合っているので私は弟子達にそう課題を出しておく。

 教官は双子将軍。


「あの!お手合わせを!」


 そして、木剣を持った学生がそう話しかけて来る。


「いーですよー

 見取り稽古しましょー」


 目隠しをして、其処ら辺に落ちてた枝を拾う。


「どこからでもどうぞー」


 学生が困った雰囲気を出している。暫くすると意を決した様に切り掛かってくるので枝で顔を引っ叩いてやる。


「はい、君は死にましたー」


 やりたい人がいれば好きなタイミングで来て下さいと告げると、連続や同時に複数人が切り掛かって来た。勿論全員気配丸出しなので顔面に枝を叩き込んでやった。

 暫くすると、突如何やら飛んで来たので避ける。


「あら、避けたわよジャンヌ」

「そうね、ジャンヌ」


 片目だけずらして見ると、双子将軍がいつも持ってるハルバードだった。


「まぁ、あんな分かりやすい攻撃、どうやって当たるのか逆に聞きたいでーす」


 ハルバードを投げ返してやり、木剣を手に取る。


「ハルバード相手に枝は流石に折れるのでー

 まーこれ使うの許してくださーい」

「何処までも我々を舐めてるのね」

「死んでも知らないわよ」


 2人の言葉に笑うしかなかった。


「ナイスジョーク」


 目隠しをしてから背後に控える弟子3人に向き直る。


「気配を感じなさい。

 先ずは周りの空気。そして、その空気を震わせる風、音、衝撃」


 背後から突き出されるハルバードを紙一重で躱す。


「目に頼るから当たるのだ。

 サルーンの剣に勝てるのに、何故この程度の児戯が出来ないかなぁ、侍ちゃん」


 きみーと指さすと足と胸を狙った薙ぎがくる。足の方は普通に合わせて踏み付け、胸の方はキャッチ。


「この2人みたいに殺意増し増し100パーセントの人なんか余計分かりやすいでーす。

 こんな簡単な事すら出来ない様では私には剣術では勝てませーん」


 ハッハッハッと笑っていると矢が飛んで来た。


「何で避けるのよ!」


 声からしてミュルッケン団長だ。


「まー矢が飛んで来たのでーはい」


 ハッハッハッと笑い、目隠しを外すと陛下が居る。


「これはこれは陛下、見苦しところをー」


 その場に跪くと全員が同じ様に。


「構わず面をあげよ」


 頭を上げて陛下を見る。


「ペンドラゴンが、お前がまた面白い事をしていると言うのでミュルッケンを連れて来たが……何なのだお前は?」


 陛下がまるで化け物を見る様な顔で見ている。


「陛下を御守りする近衛騎士団の一つを率いる天才騎士ですがー?」


 何か文句でも?と首を傾げるとミュルッケン団長が隠し持っていた小型のクロスボウで撃ってきた。思わず木剣で叩き落とす。


「えぇー?何でぇ?」

「逆に何で当たらないのよ!?

 完全に気配消してたわよね?」

「はぁ……まぁ、そうですねぇ」

「じゃあ何で叩き落とせるのよ!」


 あり得ないでしょう!と怒られた。


「まぁー、一言言えるのはー」

「何よ」

「私、天才ですから?」


 言うとミュルッケン団長が無言で弓矢を取り出した。


「絶対当ててやるわ」


 ミュルッケン団長は許可を、と陛下を見る。陛下は暫く顎に手を当てそれからウムと頷く。ウムじゃないが?


「目隠しして、ミュルッケンが本気で放つ5本の矢を避けよ」

「あー……まぁ、はぁ、了解でーす」


 目隠しをしてグラウンドの中央に。

 木剣を右手に持ってミュルッケン団長を探る。ミュルッケン団長の気配はほぼ無い。おー

スゲーな。


「全然分からない。

 サルーン、同じエルフなんだからこうなりなさい」


 サルーンを左手で指差し、剣の鋒でミュルッケン団長を指す。

 直後、矢が飛んでくるので叩き落としてやる。


「ウハハ、こえー」


 笑っちゃう。弦の風切り音が無けりゃ分からんかった。


「ちょっと集中するから見ててねー」


 気配消してミュルッケン団長の位置を確認。その動作全てを掌握する。矢を2本番え、引き絞る。胸と喉。


「うん」


 正確、故に避けやすいとはラルさんの名言。半身を引いて避ける。


「あと2本」


 ミュルッケン団長の声にならない驚きが流れて来る。ウハハ、動揺しておる。

 ミュルッケン団長は何故か上空に矢を放つ。何が狙いだ?上には何も無い。顔を向けても見えないのだが、何故か見ちゃう。直後、5本で最も気配の無い矢が放たれる。


「コレはヤバい」


 本気で脇に飛ぶ。放つ動作は分かるのに、矢自身が全く分からない。

 飛んだ直後、上に放たれた矢がミサイルの様に私を追う軌道を描いて飛んで来る。えー?何それ?


「矢が付いてくる。

 ウケる」


 おりゃっと剣で引っ叩いて矢を折ると誘導は無くなり落っこちた。


「私の勝ちで良いっすかネェ?」


 目隠しを外してミュルッケン団長を、そして陛下を見る。


「お前は本当に、何者なんだ?」

「ただの天才ですかねぇ?」


 答えると陛下は化け物だよと断言した。失敬な。


「こんな見目麗しい乙女を相手に化け物とは失礼ですねー」

「お前、最近暇にしているか?」

「はいー戦働きも無く、学校にて悠々自適な生活を送らせて頂いてますねー」

「ならば、帝国に行って冒険者の制度を身を持って体験し、私に報告しにゆけ」


 ミュルッケン団長を見る。


「帝国の皇帝が此処最近、王国に冒険者制度の導入を強く勧めてきてるのよ。殿下の直轄領や陛下直轄領の連峰が目当ての様ね」

「魔物と戦いたいので?」


 陛下を見る。


「大森林は希少な木材や植物、連峰は鉱物が採れる。

 皇帝はそれが目当てなのだ。冒険者には採掘権や伐採権が与えられるからな。故に、お前は冒険者制度と冒険者の実情、性質などを調べて私に報告しろ。

 期間は半年から一年だ。欲しい物があれば言え。任務は今からだ」


 話が急すぎね?と思うが絶対王政。陛下が斯くあるべしと言うならば私達騎士はそれその通りと頷くのみ。


「分かりましたー」

「あと、お前の弟子3人は置いていけ」

「何故でしょう?」

「お前達でパーティーを組んでどうする。

 現地の冒険者共と確り交流して見定めて来い」


 なるほどー


「分かりましたー」

「嫁は連れ言っても良いぞ」


 お前の報告、楽しみにしているぞと陛下は去って行った。


「サボるんじゃないぞ」


 ミュルッケン団長はしっかりと釘を刺すと陛下に続いて帰っていった。


「と、言うわけでー

 先生ごっこは一時中断して冒険者ごっこしに行きまーす。

 後はよろしく」


 双子将軍に告げる、部屋に向かう。

 暫くサボれると思ったんだけどなーちぇー

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