第57話 そう言う趣味ではない。
さてはて、翌日、私は何故か殿下の授業に学生に混ざって話を聞いていた。
内容は戦術概論。ざっくりとした戦術とは何ぞやから始まり王立軍は基本的にこうやって戦いますと言う物を教える授業らしい。因みにこの戦術概論の他に攻撃概論と防御概論という項目があり、そこから更に踏み込んで攻勢・攻撃学と防勢・防御学と言う訳わからん名前の授業が後に控えているそうな。
なんか、よーわかんらが、まぁ、授業を受けとけば分かるようになるんだろう。知らんけど。
「と、言うわけで今日は前回の続きからやります。
前回まで何やったか、サブーリン団長に分かる様に説明出来る者」
そして、教壇に立つ殿下の言葉にクラスの半分が手を挙げた。因みに教科書は昨日殿下が置いて行った本である。
「じゃー君」
「はい!
前回までは何故、我々が戦術を学ぶのか、戦術とは何なのかをやりました」
「うん、よろしい。
サブーリン団長、本、読みましたか?」
一番後ろで真面目に本を読んでるフリをしたら普通に当てられた。
「えー、はぁーまぁ、軽く」
「では、戦術とは何か、簡潔に言えるかな?」
「本には、戦う術を体系的、学術的に置き換え、戦いとは何ぞやと言う物を出来うる限り普遍的に述べた物、と書いてありましたねー」
殿下の読んで感想聞かせろやと言った本。殿下著、大学教授のよくやる奴。自分の授業で使うから自分の書いた本買えや戦法。
そして、取り敢えずなんとなーく流し見した結果は戦争をするには国が総力を上げて戦うので全員が一定の基準に達し、尚且つ同じ方向同じ考えを持つ為にこの戦術を学ぶのだと言っている。
なるほどねぇと思いながら机に頬杖を突き、この授業そのものがもしかしてクーデターに繋がるんじゃね?とか思い始めている。
国家観とか言ってるし。これ、戦術概論の授業だよねぇ?
「殿下ー質問よろしいですかねぇ?」
取り敢えず、流れを読まず手を挙げる。
「お、おぉ、何かねサブーリン団長」
「これはまだ私個人としてのちょっとした違和感、言うなれば靴の中に小石入った?くらいの違和感なのですがー」
殿下が手にした本を教壇に置く。
「殿下の話す内容如何によっては、陛下に対する謀反の準備であると捉えられますが、如何返答願えますかな?」
教室が騒つきだした。
「黙れ」
五月蝿いので黙らせてから、立ち上がる。
武器は火かき棒だけだが、殿下を殺す位造作もない。
「うむ、私に陛下に対する謀反の考えは無いよ。団長は私の本を読んでそう思ったのだろう?
きっと引っかかる部分は国体保護の為に、と言う部分と全軍一致の思想と行動と言う部分だろう?」
「ええ、そうです。
折々に挟まれてますね。何故、国体の保護と?
本来なら、王家の保護と書くべきでは?我々近衛はもちろん、王立軍は陛下の為の軍隊。陛下と陛下の領地たるこの国、そして陛下の領地を耕し、育む臣民たる国民を守るのが役目です。
ならば、国体の保護と書かずとも王家の保護と書けば良いのでは?
それとも、国さえあれば王の首が変わっても良いと殿下はお考えで?」
柄に手を置くと空気が一気に冷える。
「うん、じゃあ、国体の保護と言う部分を訂正しよう。王家の保護、と」
「ええ、当然です。
今一度、殿下が本を書くのであればペンドラゴン団長に推敲して貰った方が良いかと。
私からも頼んでおきます故に」
「あ、ああ、宜しく頼むよ」
柄から手を離し、椅子に座る。取り敢えず、後でこの本をペンドラゴン団長に持って行って任せよう。
取り敢えず、殿下のやろうとしている事は余りに先進的過ぎる。何だこの、各級指揮官が与えられた任務を理解し各人の権限を逸脱しない限りでの自主裁量の権限を発揮して任務達成に邁進するって。
参謀本部構想に始まり、どーやら殿下はこの世界を近代化させたい様だ。殿下は私と違って神から何か啓示でも受けたのかね?
私にはなかったが。
授業を聞き終わり、王城に向かう。ユーリとサルーンを連れて行き、道中本を渡すし読ませて見たが2人とも分かった様な分からないような反応だった。
まぁ、そんなものか。
「ペンドラゴン団長に、殿下の事で報告に来た」
入り口に立つ当番騎士に告げると一礼して中に入る。そして、騎士が中へと扉を開けてくれた。
「おやー?お邪魔しましたかぁ?」
上裸の団長と息を切らした副団長が居た。
「残念ながら君の想像とは違う事をしていたよ」
「鍛錬ですわ」
目隠しと鞭落ちてますが?
「君もやってみるかい?」
「何をです?」
「目隠しをして、何処から打たれるか分からない鞭を避けるんだ」
団長の身体には所々打たれた跡がある。
「はぁ、まぁ、面白そうですなぁ」
目隠しをして立つ。2人の気配は普通にある。しかし、ふっと気配が消えるのが一つ。団長だな。何も無い。故に逆に怪しい。もう一つも非常に弱くなる。副団長か。
ふむ、気配を消すのか?気配を消すって何だろな?そんな事を考えていたら背後から一切の気配が無くなり直後、何とも言えない気配を感じて半歩前、直後ヒュンと風切音がしたので素早くそちらを向き直る。
「えぇ……僕でも最初の時は打たれたのに避けた上にこっちまで向いちゃう?」
目隠しを外すと団長が苦笑いをしていたし、副団長は信じられない物を見たと言う顔をしていた。
「と、言うか僕等が気配を消した瞬間に其々の方向見たけど、分かるの?」
「んーなんて言うんですかねぇ?
さっきまでそこにいた気配が無くなったので凄いなぁって。副団長は弱くなっただけですし。
んで、団長が移動したかなぁ?って思ったらなんか変な感じしたのでちょっと動いたんですよねぇー
まぁ、そんな感じです。はい」
そんな事よりこれ読んで見てくださいと殿下の本を差し出す。
「これは?」
「殿下の書いた本です。
後で説明するので先ずは読んでもろて。私はもう暫くふくだんちょーとこれで遊んでますのでぇー」
はい、と目隠しを差し出す。副団長が酷く嫌そうな顔をした。
「分かった。少し待っていてくれ」
こうして私と副団長のはたきあいが始まった。
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