第56話 読書する近衛騎士団長

 東の島から侍がやってきた。帝国の更に先。私と決闘せよと五月蝿いのでユーリとサルーンに勝ったらええよと言ったらユーリは腹を、サルーンは腕を切り落とされて圧勝。

 まー2人は弱いからねーでも、2人とも聖騎士団によって完治。傷跡すら残らなかった。なんか、切れ味良すぎらしい。そのままくっつけて上位の回復魔術、正確には奇跡、を掛けたらそれだけで治ったそうな。

 んで、取り敢えず他の近衛騎士団長を呼んで来いと殿下の伝令隊に告げると早馬を飛ばしていった。

 侍ちゃんは速さも正確さもあった。故に避けやすい。一撃死や普通の斬撃でもHPバーを半分近く持って行くタイプのボスだ。パターンさえ間違わなければはめ殺し出来る奴。もちろんモーションの起こりとかがくっそシビヤでそれ見逃すと大ダメージか大きく回避して後がなくなるタイプ。

 言うならば終盤に出てくる皆が大体苦手だけどめっちゃくちゃ強くてカッコいいタイプのボス。

 それが侍ちゃんだった。

 で、ユーリとサルーンの戦いを見てる限り私の敵では無かったので団長の誰かが来るまでに一太刀でも浴びせれば侍ちゃんの勝ちで負けたらまぁ、好きにしなよと言ったのだ。

 んで、侍ちゃんの攻撃をいなしては転けさせを繰り返していたらドラクロア副団長がやってきたのだった。

 そして私はエリザベートと共に別室に連れて行かれ、私だけ正座させられた。


「何故、ここに呼ばれたのかお前、理解してるか?」

「えー?さぁ?」


 何でやろ?首を傾げるとドラクロア副団長は大きなため息を吐いた。


「エリザベート、お前はサブーリンの行動を少しは諌めろ!妻なのだろう?」

「確かに私はサーシャの妻ですが、その行動に口出しする権利は有りませんわ。

 それに、サーシャが負けるなんて想像出来ませんでしたし」


 エリザベートがそうですわよね?とこちらににこやかな笑みを浮かべて告げるので私もまーあの子は強いですけど負けませんなーと笑っておいた。


「誰もお前の勝ち負けについて怒ってるんじゃない!

 学校で勝手に決闘をして刃傷沙汰を起こした事について怒っているんだ!」

「授業の一環ですってぇー

 校長は何やっても良いって言ってたのでー」


 見とり稽古って奴ですわーと答えるとドラクロア副団長は大きな溜息をして稽古にならんわと出て行った。


「じゃーあの子はエリザの護衛にするねー

 猪っぽいから我慢を覚えさせよう」


 猪突猛進な猪武者だ。言えば真っ直ぐ突っ込んで行って死ぬか勝って帰ってくるのどちらかだろう。

 それはそれで良いが近衛騎士団長の弟子としてそれではダメだ。待てが出来るならば良い。

 エリザベートと共に侍ちゃん達のところに帰ると侍ちゃんはユーリやサルーンと何やら話していた。


「おまたー」

「師匠!

 お待ちしておりました!某は何をすればよろしいですか!?」

「侍ちゃんはーエリザベートの身辺護衛かねて我慢を覚えよーかー」

「我慢、ですか?

 某は我慢は出来ますよ?」


 出来てないよー?


「出来てないよー?

 侍ちゃん、私のワザと出した隙に凄い速度で反応するじゃん」


 ユーリとサルーンもこのフェイントが本当の隙になってしまうほどの速さに対応出来なかった故に腹を切られ、腕を落とされたのだ。

 逆に言えばその速ささえわかれば後はこっちのものだ。


「その速さだけで十分なのでは?」

「コイツむっちゃ速い。

 ハエよりも早い反応する」


 サルーンとユーリは満場一致でコイツおかしいと言っている。


「それじゃー私より強くならないじゃん。

 ユーリは射撃、サルーンは魔術、侍ちゃんは肉体で私を倒しましょー

 まぁ、射撃に関しては今以上に遠くから撃って当たる銃が出てきて、ユーリがそれを使いこなせれば良いと思うよー

 つまりー銃と大砲を極めよう」


 ユーリは難しい顔をしながら手元の剣を見遣る。


「サルーンは魔術どんどん使って私を圧倒しないとねー

 2人とも剣にこだわりあるのは良いけど、囚われないでねー

 でー侍ちゃんは2人には無い圧倒的なフィジカルあるから後は技術を身に付けて私と戦ってねー」


 つー訳で頑張と応援してやる。

 いやー師匠って大変やなー知らんけど。放任主義だし。


「じゃー3人とも頑張ってねー」


 解散と告げて教員室に。

 部屋に戻ると殿下がおり、普通に椅子に座って本を読んでいた。


「おー殿下。

 何してるんでー?暇なのでー?」

「暇では無いが、君、何やらグラウンドで刃傷沙汰起こしたって聞いてね」

「えー?あーまー道場破りみたいなもんですねー普通に私の敵ではありませんでしたがー」

「成程。

 話は変わるが、君は騎士がいなくなり、騎兵がいなくなると言ったらどうする?」


 殿下は何やらまた訳のわからんことを考えている様だ。


「はぁ?」


 騎士がいなくなり、騎兵が居なくなる。

 もしかして、この人は軍隊を作る気か?近代の。戦車とか飛行機とか。第一次世界大戦には騎兵の仕事はほとんど無くなったと歴史の教師が言っていた。


「何言ってんすかぁ?

 騎士がいなくなると言うとは騎兵がいなくなると言うことと同義ですよぉ?」


 元来、騎馬は騎士しか乗れない。何故なら馬は一頭買うだけでもかなり金がかかる。領地でも馬は複数の農家で買って共同で使っていた。

 ウチにも一頭居たが父親がかなりの金出したかった。騎兵は貴族や軍隊しか持たないのだ。

 言うならばかなり高い車と一緒だな。


「言い方を変えよう。

 騎士と騎士が完全に無くなるとしたら君はどうする?」

「どーもしませんが?

 それはいつ来るので?」


 取り敢えず、第一次世界大戦クラスの軍隊になるには先ずは内燃機関の開発だ。スチームすらないこの世界でお前の思想は思考実験に過ぎない。

 私が協力したところで、実質的にはそれを作り上げるのに何年掛かる?無駄な事だ。

 私は今の生活を変えるつもりはない。王政が潰れる見込みも今のところない。変えるつもりもない。


「今日明日ではない。あと10年は掛かる」

「はぁーまぁー殿下が何悪巧みしてるか知りませんがー

 私は陛下の近衛騎士で、近衛騎士団長でもあるのでーえぇー

 そしてー貴女のクーデター阻止命令は未だ効いてるのでー命大事に、でいきましょーよ?」


 少し空気が暑いので、窓を開ける。


「ねぇ?」

「あ、ああ、そうだな。

 君が心配することは何も考えてないよ。何なら今の話をステン姉様に話ても良い」


 まぁ、普通に話すけど。


「それと、この本を読んでくれ。

 君の意見を聞きたい」


 殿下はそう言うと読んでいた本を机に置いて去って行った。

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