第55話 常勝無敗のキモい奴。

 ユーリはライフルと剣を携えてやってきた。


「ふむ、よし面白い物を見せてやろう」


 ユーリが新しい事に挑むなら私も多分やれるであろう弾切りをしてみよう。


「ダガーだと流石にあれだからー

 まーこれで行こう」


 脇に居る学生の持っていた剣を引き抜く。


「何やるのか知らないけど、そんな剣じゃなくてサーシャが腰に提げてる剣にしろよ!」

「やだよー折れたら困るしー」


 いーから来なさいと言うと、ユーリは私を睨み付け火縄を付ける。学生達は後ろから退く様に告げる。


「いつでもどーぞー」


 ユーリは膝立ちの姿勢で狙いを定める。狙いは私の胸だ。

 銃口はまだ揺れている。肩まだ揺れている。指先は用心金に掛かったままだ。銃口が止まり、次いで肩も止まる。そして、指が引き金に掛かるのだ。

 自然と口元が引き締まる。ヒリヒリとしたユーリの絶対私を殺すと言う思いが届くのだ。ユーリは良い男だ。分別がある。勝負になると私との関係を一切忘れ、自身の命をしっかりと掛ける。

 そこがサルーンと違う。サルーンはまだまだ自分にも私にも甘いのだ。うんうん。

 なんて考えていたらユーリが引き金を引く。おっと、一拍遅れて銃口が光り、炎が吹き出た。それに合わせて剣を振り抜く。ギャンと言う音に合わせて剣に凄い硬い感触。うん、成功だ。


「はー?」

「おー剣欠けちった。

 ま、今の所、玉は切れるねー皆も玉切れれば私に勝てるかもねー?」


 ハッハッハッと笑い、欠けた剣を脇に捨てる。ダガーを抜いてユーリを見る。


「どーする?」

「負けでいーよ。

 何だよそれー」


 ユーリがクソっと頭を掻くとデカいため息を吐いた。


「ウハハ。

 ユーリも罰として20キロ走った後に腕立て腹筋500と懸垂100回ねー」

「はー?

 罰にもなってないじゃん」

「だってーあの子等はユーリ達より弱いんだもん。ユーリとサルーンは見張りねー」


 そう言うと完全武装のドラクロア団長がやって来てユーリの襟を掴むと持ち上げた。


「さぁさぁ、前座は終わりさね!

 私がお前達の仇を取ってやるからそこでしかと見ときな!」


 ドラクロア団長がそう言うとユーリは団長頼んだ!と告げて脇に引っ込む。それと入れ違うようにローデリアがやって来て私の月血斬血を差し出してくる。


「はいはーい」


 それを受け取り、クルクルと手で回す。すると観客と化した学生達がわーっと盛り上がり、騎士団長達は組んでいた腕を解し、姿勢を正す。


「死ぬ気で来てもろてって感じでー」

「今日こそはお前のその怠そうな面を必死の形相に変えてやる」


 ウハハ、なんか言ってらー


「其処は私を殺してやるって言う気概で来てもろて」

「ほざけ!」


 ドラクロア団長がその両手剣を片手剣よろしく振り上げる。おーおーこの人の剣は相変わらず距離感や大きさがバグる。

 そもそもデケーのよ、この人。しかし、大ぶり。懐かしいなー黒騎士のデーモン。序盤のボスで中盤は要所要所に出てくる雑魚ボス。終盤は其処らへんウロウロしてる雑魚になる。そんな敵。

 それと戦い方が変わらない。


「わはー」


 繰り出される横凪ぎは月血斬血で逸らす。

 その剣圧は私の毛先を撫でて行く。当たったら即死よなー


「避けるか!」

「そりゃーもー」


 片方で逸らし、回転運動でそのまま腕を切る。鎧の肘を狙って。内側は稼働部なので切れる。

 

「くっ!」

「あはー楽しいですねぇ」


 ドラクロア団長が下がろうとするので、追いかけて回転運動。膝裏からサッパリとやる。右足だ。鎧があって完全に切り離せなかった。


「あー凄い堅いっすねぇ」

「嘘だろ?」


 ウハハ、楽しい。


「強い敵と戦うのはやっぱり楽しいですねぇ」


 足を切られバランスを崩すドラクロア団長。此処で回転して首を落とし、私の勝ち。

 くるくる回ったので乱れた髪を掻き上げてから撫で付ける。


「聖騎士!」


 血払いをしながら叫ぶと、脇にいた聖騎士が慌てて足を直し、落ちた首をくっ付ける。するとブハッと血を吐いてドラクロア団長は復活。

 スゲーな、相変わらず。


「何だコイツ!?

 何の反撃もできずに腕と足と首切られた!

 キッモ!」

「キモくねーし!?

 首切られて生きてる方が百倍キモいし!!!!」


 ヒデェと陛下を見ると首を振っていた。


「私からすればお前達2人ともキモい程に頼もしい。

 こうなれ、とは言わない!だがこの2人の様になれる様、またこの2人とはまた違う分野でも良いからこの2人に比肩出来る様日々精進せよ!」


 陛下の言葉でこよ茶番は終わったのだった。

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