第54話 勝ち抜きの騎士再び

 お小言大会が終わったのは普通に学校の午後授業が全て終わった時だった。ぜーんぶ私への文句だった。


「まーなんだかんだと言われてますがーえー近衛騎士団長で最も強いのは私なのでー皆さん頑張って下さーい」


 帰れと追い出したい気分を堪え締める。


「次の授業は殿下なのでー殿下は遅れずに来て下さーい」

「えぇ!?」


 殿下はほんとにやるの?という顔で私を見て居る。


「えー勿論ですぅー」

「それならお前が全員相手に組み手でもしたらどうだ?」


 陛下がサボるなと言わんばかりの顔で言って来た。


「えー?それやるとーただただ全員が投げられてるだけなのでー

 私もつまらないですしー」


 見込みあるのは今のところサルーンだけだ。


「んー……それならユーリ呼んでサルーンと一緒にここに居る連中と戦わせても良いかもですねー」

「私は構いません」


 サルーンがにべもなく答える。余裕の笑みだ。種族が違いますよ。


「サルーンがクソ余裕そうだからやめるかー

 そもそも今の君らじゃ一対一の連続にしかならないし」


 連携取れてないからなぁー


「ほら殿下、お話ししたく無いなら殿下が代案出さないとー」

「んー……よし、ならこの際生徒に意見を聞こう。

 君達はサブーリン団長の授業の際何をしたい?」


 暫く生徒達がザワザワして、それから誰か1人が教官と手合わせをしたいと言い出す。すると腕に自信しか無い連中は俺も私もと手を挙げた。その数ザッと7割。


「おーけー

 じゃあ次は全員私と手合わせしまーす。負けたら凄いキツい体力錬成を私の一番弟子として貰いまーす」


 サルーンは少し顔を顰めていた。

 つまりはそう言う事だ。


「私も参加して良いか?」


 ドラクロア団長が手を挙げる。


「えー?

 ドラクロア団長は暇なのでー?」

「お前と手合わせ出来るなら暇も作るさ」

「まーそーいうならーどーぞー

 団長は3回死ねるので一回殺したら終わりでーす」

「いいぞ」


 ドラクロア団長との試合は教室が沸いた。

 何を楽しそうにしてるのかね?君達も戦って地獄の体力錬成をするのに。


「じゃー明日私の授業の際は全員フル装備で集合お願いしまーす。

 真剣でねー私に怪我とかさせれたら直ぐに近衛騎士として雇ってあげますぅーこれは女王陛下に誓って言いますー」


 そう宣言して今日は終わり。翌朝、ユーリも学校にやって来た。銃と剣を持って来たので本気で来ているようだ。


「ユーリは銃使うのー?」

「ああ!

 最近分かった。剣技を極めるのもいいけど銃も面白いと思って」

「いーねー

 使える物はなんでも使おう」


 興味なさげに言うとユーリは絶対勝つと部屋を後にする。私は取り敢えずいつも通りの格好と何時もの火かき棒に月血斬血。死の刃は普通のダガーに変えて携行。

 運動場に向かえば救護の聖騎士から学校中の教師に全近衛騎士団長と陛下と殿下。昨日のメンバーと何ら変わらなかった。


「全員居るじゃーないの」

「それはそうですよ。団長が珍しく勝ち抜き戦をするし、何ならドラクロア団長と本気の勝負をするんですもん。

 皆注目しますよ」


 ローデリアが興奮した様に私の手から月血斬血を受け取る。


「取り敢えずー生徒達からやりまーす」


 めんどくさいので一列に並んでーと指示を出す。当たり前だが学生達では相手にならなかった。サルーンの処に来て漸くダガーに手を掛ける。


「これ、ただのダガーだからねー」

「ええ、見てわかります」


 サルーンは頷く。一応言っておかないとね。


「私も漸く師匠にダガーを抜かせるまでになりましたか……」


 困った様な顔でサルーンは笑う。


「うーん。まぁ、さっさと終わりたいし?」


 答えるとサルーン驚いた顔をし、それから不敵に笑う。


「イザ!」


 そして、サルーンはいつも通りの剣を回して身体の大半を消しつつ剣筋を消す戦術。周りがどよめいた。特にサルーンと相対する側に立つ、私の後ろの観客達はそうだった。


「何だあれは……」

「ダークエルフの秘技か?」

「何と汚い!」

「あれはあの剣の能力ですー

 魔剣なので持ち主の魔力を消費しつつああやって太刀筋はもちろんその後ろの姿も消してしまいますー

 エルフのサルーンだからこそ出来る技なのでーダークエルフだの何だなと下らない事言う前にしっかりと勉強したくださーい」


 まぁ、頭と足先さえ見えてれば移動方向から攻撃のタイミングまで全て分かる。サルーンがどう攻撃しようか迷って5分ほど経ち、漸く攻める気なったのか、間合いを詰め始めた。

 そして、あと一歩で剣の間合いになった時、サルーンが右手に持った魔剣を投げ飛ばす。剣の柄には鎖が付いており引っ張ればすぐに戻ってくるし、この技はよほどな物じゃなきゃ見切られないので初見必殺なのだ。

 まぁ、私は何度も見て来てるので起こりが出来た瞬間に左側に体重移動をしつつ一歩踏み出す。

 するとあら不思議、投げ出された剣は私の左側面をスレスレで飛んでゆき、私には当たらない。次いで私は直様横を走る鎖に身を寄せて追撃の左手の剣を避ける。

 両方ともしっかり私の上半身を狙うので避け易い。当たらないよー


「はい、どーん」


 左を出すと同時に右の剣を引き寄せるのでそのタイミングで手に持ったダガーをスローイング。ナイフは途中で半回転して石突がサルーンの胸に当たった。


「私の勝ちー

 武器を両手から離した時点で負けでーす。こんなんじゃ強い敵に負けるよー?」


 サルーン達は罰として駆け足20kmと腕立て腹筋500回に懸垂100回しなさいと告げるとサルーン驚いた顔をした。


「それだけですか?」

「だってサルーンは出来ても他の人達出来ないじゃーん?

 なのでサルーンが監督しつつやるよーに」


 全ての試合が終わってからでも?とサルーンが言うので仕方なしに許可を出す。


「次はユーリねー」

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