第53話 女王陛下をアゴで使う女騎士

 士官学校を設置して人を集めるのは全て殿下の主導だった。陛下が全権委任したので誰も文句は言えなかった。

 教育開始は全てが決まって約一年掛かった。その間にもあっちこっちできな臭くなったが、直接軍が出動することも無く私は比較的無事に過ごせたのだ。

 で、私は何をして居るのかって言うと士官学校の入学式に出て居る。学校長は陛下で、入学式では陛下の有難いお言葉がある。

 入学生は基本的に20前後の若者で知能検査と体力検査に各種技能試験があった。内容は全て近衛騎士団の入団試験に準じて居る。


「以上で入学式を終える」


 待ちに待った言葉を聞いて私は会場となった中庭から校舎に。1時間近く立ったり座ったり。退屈だ。

 因みにサルーンも頭が良いので士官学校に放り込んでみた。周りにめっちゃざわつかれていた。あと、学生間の素行調査でもある。差別が酷い奴は処罰するのだ。


「此処が新しい部屋か」


 正確に言うと執務室。

 近衛騎士団長だが、部隊は開店休業。質の良い兵士を育てるのには時間が掛かる。と、言うか向こう3年は魔術師部隊のみでやるそうな。銃兵役の騎士とかは此処の卒業生を充てるそうだ。


 本棚には真新しい教範が置いてある。全30巻程の物で指揮とは何ぞやみたいな奴から始まり、乗馬やら剣術やらそう言った物から敬礼の仕方とか王族の式典の種類とか近衛騎士団の心得から王立軍の規則までまとめてあった。

 誰が書いたんだこれ?まぁ、読み物としては面白いから読んでおこう。

 椅子に腰掛け野外指揮と書かれた本を引っこ抜く第1巻だ。

 椅子に腰掛けて本を捲る。なかなか面白いこと書いてあった。へー指揮ってこうとるのかー私全部他人に任せてたからなー

 すげーっと読んでいたら扉がそこそこ強い勢いで叩かれる。


「どーぞー」

「失礼致します!」


 元気良い声と共に扉が開く背の小さな少女が立って居る。この学校の制服を着てるから新入生だろう。


「だーれー?」

「新入生のローズマリーと言います!

 教官殿がお見えにならない弾、お呼びに参りました!!」


 なんか今日授業あったっけ?

 先程貰った予定表を見ると、確かにこの時間帯は私の受け持ちが一個ある。よく見ると、毎日一個ある。あれぇー?


「今日入学式だったじゃーん。

 休みじゃ駄目なのぉ?」

「わ、私に聞かれても……

 兎に角、教室に」


 ローズマリーに連れられて教室に向かう。教室の後ろには陛下と殿下に近衛騎士団長全員+王立軍の有名どころ将軍達が並んでいた。


「わー凄い。

 皆さん暇なのでぇ?」

「お前の授業を一眼見てみようと言う冷やかしだ」


 陛下がようやく来たかと言う顔で告げる。


「えー?悪趣味ー」


 ねぇ?とローズマリーに言うと何も反応はなかった。カチカチに固まって席に戻ると座ってしまう。

 科目は「全般」と書かれている。何だよ全般って。


「全般って何やるのー?」


 教科書代わりの教範、教室にも全巻置いてあるので表紙を見るがそんな項目はない。


「全般はサブーリンが教えたいことを教える。何で良いって科目だ」


 殿下がにこやかに答える。丸投げやんけ!

 困った。これは実に困ったぞ。


「よーし、この状況を生かすことで活路を見出す。

 つー訳でー未来の騎士様たる諸君等にはその命と忠誠を誓う我等が陛下に有り難いお話をして貰いましょう」


 言うと全員が驚いた顔をして振り返る。


「お前の授業だぞ」

「ええ、ですので」


 第一回なので豪華にいきましょう。


「初回限定スペシャルです。

 2回目以降は殿下、その次に近衛騎士団長達を第一から順に行き、ミュルッケン団長まで行ったら王立軍の将軍に行きます」


 ではどうぞと陛下を前に。陛下は呆れたように溜息を吐くと前に出てくる。


「世界広しと言えども一国の王を自分の手抜きの為に使うのはお前くらいだぞ、サブーリン」

「そんなアゴで使うなんて。

 私は戦場にあるものはなんでも使う主義なので。そして、此処が私の新しい戦場。

 戦場には非常に威力の高い伝説の剣がある。ならば迷わず私はその剣を握りましょう」


 ハッハッハッと笑いながら空いて居る席に座ると陛下が至極面倒臭そうな顔をしていた。


「そうだな。

 それじゃあ、我が国の生きる伝説とも救国の騎士とも呼ばれるそこの怠惰な騎士の話でもしてやろう」


 陛下の語る私の話が始まったのだった。

 最初は出会いから始まりそこからまず印象が悪いと言ういきなりのダメ出し。傅いときゃええやろうと言う態度が丸わかりだったそうだ。

 何でバレた?

 それからは何故か公開お小言会場となった。あれぇー?こんな筈では無かったのだがぁ?

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