第50話 マイソール砲

 近衛騎士団が史上初の壊滅判定になる被害を受けた。まぁ、銃兵隊と騎馬隊に砲兵隊が丸ごと平等に吹き飛んで残ったのが魔術師と聖騎士だけなのでヤババって感じだよね。

 そして、包囲戦の報告をせよと女王陛下に呼び出しを受けていつも通り頭を垂れて待機。エリザベートも当然の様に同伴している。

 そしてその後ろにはユーリとサルーン。


「女王陛下の御なぁーりぃー」


 女王陛下の登場。ややあって面を上げろと言われるので顔を上げれば近衛騎士団長勢揃いで両脇には文武官貴族が居並んでいる。

 いつも通りの光景だ。


「エリザベート、報告せよ」


 陛下は私を一瞥するとそう言う。エリザベートはハイと返事をして立ち上がると入り口近くに控えた宮廷楽団に視線を送る。

 それから音楽が流れ始めると朗々と籠城戦に至るまでを歌い、その後は籠城戦。その後壊滅の原因たる砲撃を歌う。その頃には文武貴族共は涙を浮かべ、ドラクロア団長は大泣きしていた。

 そして、ユーリとサルーンに残った魔術師達の協力で私が前世の知識をフル稼働させて独断で作った弾丸を敵の総大将を狙撃させて殿下とドラクロア団長達の突撃を歌い上げてエリザベートのコンサートは終了した。


「凄まじい戦いだったのだな」


 そこで漸く陛下は私を見た。

 エリザベートの歌は大げさが過ぎるのだ。


「団員の死んだ殆どの原因は敵の新兵器による攻撃ですねー

 エリザベートの報告は装飾が派手過ぎなのでー市井には良いかもですが、陛下の報告には不適切だと思いまーす」


 答えると陛下はフッと笑う。そして、私達の隣に控える殿下を見た。その顔には先程までの笑みはない。


「それで、その新兵器とやらは入手できたのか?」

「勿論です陛下」


 殿下は持ってこいと告げると扉が開きクソデカいロケット花火みたいな物を持った兵士達がやって来る。


「何だその棒は?」

「はい、これが近衛竜騎士団を壊滅させた商人どもの新型大砲、便宜上指揮官だった奴の名前を取ってマイソール砲と呼ぶ物です」

「こんな小さい大砲があそこ迄の被害が出せるのなので?」


 ドラクロア団長が思いっきり顔を顰めている。やっぱりこれはロケット花火だ。クソでかいロケット花火。

 中に火薬を詰めて弾着地を吹き飛ばす。恐ろしい威力だな。ふと、あの日の近衛騎士の言葉が蘇る。


「あれは騎士の死に方では無い、か」


 クソデカロケット花火。


「お前達はこの兵器を見てどう思う」


 陛下が近衛騎士団長達を見た。


「不恰好だ」

「殿下、これはどう扱う?」


 ドラクロア団長が尋ねる。


「これは此処の金属の筒に大量の火薬が入っている」


 殿下が鉄の筒をパンパンと叩くと団長達が陛下を守る様に立つ。私も剣の柄に手を置いて殿下を警戒する。


「な、中に火薬は入ってないよ。こんな所で爆発させたら私も死ぬので」

「それで、それはどう攻撃する?」


 ドラクロア団長が警戒を解くと前に出て来てロケットを手に取る。


「それが飛んでいくんだ。

 木の棒が刺さっている根元に穴が空いているでしょう?そこから火が出て来て大体800メートルから900メートル、もっとあるかもね。そのくらい飛ぶ。

 で、地面とかに突き刺さって暫くすると爆発するんだ」


 それが答えさ、と殿下は私を見た。ふむ。


「火薬が詰まった時の重量は?」

「その1番小さい奴で約1キロ」

「小さい奴?」

「ええ陛下。

 10キロ位の重さがあるやつもありました。筒の大きさも長さもかなり大きいものです。それだと2キロほどの射程と此処にいる全員を殺傷出来る破壊力はあるでしょう」


 陛下は私を見る。私は直ぐに殿下の後ろ足を蹴ってその場に跪かせ、首筋にナイフを当てる。


「殿下ぁーそのデッカいマイサン?何処にありますかねぇ?」

「お、王立軍の駐屯地だよ」

「成程ぉーそれ、もちろん全部こちらに持って来ますよねぇ?」

「あ、ああ、勿論だとも。

 中の火薬も抜いて、安全化してあるし君の部下に警備をしてもらってるよ」


 陛下を見ると頷いたので首筋にナイフの鋒を食い込ませる。


「ホントだ!ほんと!嘘じゃ無いよ!」

「どうしますか陛下?」


 陛下を見ると陛下は頷いた。


「サブーリン、お前が運んで来い」

「お任せを」


 殿下を解放し、陛下に一礼。それからエリザベートとユーリ、サルーンを引き連れて砦に向かう事となった。

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