第二部
王立軍士官の感想
近衛騎士のサブーリンはこの国で知らぬ者は居ない程に有名な騎士だ。この国に存在する有りとあらゆる武に身を置く者なら否が応でも反応せざるを得ない武勲を1人で打ち立てた。
その強さは最早神に愛されていると言っても過言では無い。決闘で10人抜きを達成するとその武勲故に女王陛下に謁見、即日にあの不死身のドラクロアと1時間も打ち合い陛下に認められて近衛騎士に入団。
その後も蛮族討伐戦で高潔さを表して帝国との戦争で15人抜きを達成。他にも様々な武勲を建てたがその武勲の一つに私も加わった。後にロケットと呼ばれる新型兵器を受けてサブーリン様が従える近衛竜騎士団が全滅したのだ。
そこで我々は絶望した。我々の様な平民を寄せ集めただけの軍よりも強い近衛騎士がたった一度の攻撃で全滅したのだから。
翌日、私はどんな顔をして彼等をいや、あの篭城戦を生き抜こうと思っていた。たった1日、我々が城壁から敵陣を監視していたその翌日には彼等近衛騎士達が交代に来たのだ。
仲間を失い、未だ怪我人も多くいるのにも関わらずまるで何事もなかったかの様に交代に来たのだ。
サブーリン様は砦で敵の本陣が見える場所に位置取り、いつも通りに椅子の後脚だけでバランス取りを始める。
いつもの様にだらけた格好であるが、彼女だけは何時もと違いその空気は非常に重くヒリ付いていた。
彼女が近衛竜騎士団を引き締めているのだとそこではっきりと理解出来る。それ程までに彼女が纏めていたのだ。
それから数日後サブーリン様の副官の1人であるローデリア殿が望遠鏡と呼ばれる非常に高価な遠眼鏡で敵本陣を覗き、その脇でライフルと呼ばれる新型マスケットを構えたサブーリン様の弟子であるユーリ君がいた。
何をするのかと思っていたらローデリア殿が不思議な形をした玉をユーリ君に渡す。
「あの赤い旗が見えますか?」
ローデリア殿が大天幕を指差した。
あそこは距離が800メートルほどあり、幾らライフルとはいえ完全に射程外だ。魔術で強化されたライフルドマスケットですら600メートル程の敵に当たればお祝いレベルなのに。
「本当にやるのか?」
そしてダークエルフがサブーリン様に確認を取る。
サブーリン様はそれに対して無言で頷くだけだ。ダークエルフはそれに分かったと頷くと両手を敵陣の方に突き出して呪詛を唱え出す。それに合わせて生き残っていた近衛の魔術師達が祝詞を唱え出す。暫く唱えているとダークエルフがローデリア殿を見る。
ローデリア殿はいつも以上に丁寧かつ慎重に装填を終えたユーリ君を見遣るとユーリ君は頷いて火縄を火挟に付ける。そして、その場に寝転がり弓矢を射掛ける為の狭間から銃口を出した。
何をするのか?と見ていると銃口から真っ直ぐと敵陣の大天幕を目指して空気の揺らぎが見える。
私も近くに設置された大きな遠眼鏡を使って大天幕を覗く。その先には敵の指揮官だろう派手な絵柄を描いた鎧を着た男が椅子に座り何かの書類を読んでいた。
どうするのか?そう思い顔をサブーリン様の方に向けたまさにその瞬間、ズドンと音がした。ユーリ君が撃ったのだ。
ローデリア殿が破顔し、私は慌てて遠眼鏡を覗く。驚いた。まさに奇跡だ。
「総大将討ち取ったり!」
そしてユーリ君はよっしゃと大声で叫びダークエルフや魔術師達はその場に崩れ落ちる。
サブーリン様は立ち上がっており、胸壁の上に立つ。
「遠からん者は音に聞け!近くば寄って目にを見よ!やーやー我こそは!
王立近衛竜騎士団団長、サーシャスカ・サブーリン近衛騎士団長である!
剣一つで10人抜きを成し遂げて近衛騎士に召し抱えられ!30の騎兵を率いてレッドキャップを討ち取ると!帝国15万の軍勢に対して5000の軍を率いてこれを退けたる我が戦果!
そして今!商人共が雑兵共相手にこうして暇を潰している!!先の花火で我々の意思を挫こうなどと笑止千万!
次死にたい者は前に出よ!」
それから狙い澄ました様に殿下とドラクロア様達の増援が敵の背後から強襲を掛けて浮き足だった敵は撤退していった。
こうして我々は籠城戦に勝利したのだ。
王立軍の死者負傷者はほぼ無く、近衛竜騎士団は正式に壊滅判定が下された。
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