第49話 死して尚、輝く者達

「さて、此処にいる全員が我々近衛竜騎士団のそう戦力だ。

 明日から脱走兵がどんどん出るぞ」


 全員が集められた食堂。目の前には食事が置かれている。しかし、誰1人として手を付けない。


「ローサが私の目の前で死んだ。

 あの武器は恐ろしい物だな」


 目を瞑ることすら必要としない。目の前で爆発すると人間がああもバラバラになる。右足は大腿部からちぎれ、左足は膝下が皮一枚で繋がっていた。

 腕も右腕が無くなり、左腕も膝から先が変な方向に曲がっていた。胸に親指大の鋭い破片が突き刺さり喉や顔も小さな破片が突き刺さっていた。

 目は見開いていたことも覚えている。


「あれは、騎士の武器でない」


 近衛騎士の1人が絞り出した。第一出身なのだろう。


「銃や砲ですらあんな酷い死に方はしない」

「そうだ!あれは騎士の死に方では無い!

 あれではまるで!まるで……」


 その後の言葉は続かないのは自分達の存在を時代が否定し、扱う武器が否定始めた事を自覚したからだろう。


「騎士の時代は終わりってぇー?」


 椅子を傾けてバランスを取る。


「騎士の時代は終わろうと来てるのは確か。

 でも、我々は騎士だ。騎士には騎士の戦い方がある。クリスティーナはこの出来事をしっかり歌って欲しい。

 騎士は死ぬが騎士の肩書は死なない。人間は2回死ぬ。今日死んで行った者達はその最初の一回だ。

 2回目死ぬ時はその人間の人間が忘れられた時だ。如何に無様に死のうが、悪名を轟かせようが人々が忘れなければ我々はその歴史から燦然と生き続けられるのだ。

 それに、君等は死ぬかもだけどー私は滅茶苦茶強いからフツーに生き残って君等を歴史の中で生かしてあげれるよー」


 だから安心して死ぬと良いおと言うと全員が笑った。


「残念ながら、我々もサルーンやユーリの弟弟子として名を連ねたいので後は任せましたと死ねませんよ」

「全くですね」


 他の騎士達はそう答えると1人の騎士がコップを掲げ、死亡した騎士の名を叫ぶ。それに続いて他の騎士が同じように死んだ騎士の名を叫ぶ。


「ローサに」


 最後に私が告げ、乾杯と全員で酒を飲み干した。後はいつも通りの食事風景だ。

 吹っ切れるには些か早い。しかし、乗り越えなくてはダメなのだ。しかし、こうも身近に居た者が死んだと言うのに私にはその実感が乏しい。

 私がこの世の人間では無いからか?

 分からん。考えるのもアホらしい、と言うとアレだが少なくとも今の事で精一杯だ。


「飲みすぎないよーに」


 立ち上がって、食堂を後にする。ユーリとサルーン、ローデリアは他の騎士と呑んでいた。私にはクリスティーナが付いてくる。何も言わずに、私の少し後ろを付いて。

 王立軍はしっかりと城壁に取り付いて外を睨み付けている。篝火を煌々と焚いて敵の夜襲に備えていた。

 そして、私の姿を見ると正対して敬礼をしてくる。私はそれに応えつつ聖騎士達の宿舎に向かう。


「いますー?」


 扉を開ければ聖騎士達全員が揃って祈っていた。その図に少しビックリする。


「これはサブーリン様」


 そして、マリアが立ち上がって私に深々と頭を下げる。


「今日は助かりました。

 皆様のおかげで助かった者も多くいます」

「いえ、我々ももっと助けられた人が居たはずなのに……」


 申し訳ありませんとマリアが深々と頭を下げる。

 他の聖騎士達も頭を下げていた。


「貴女達は全力で治療をしたのでは無いのですか?」

「勿論です。我々はあの時できる事全てをやりました。それは神に誓っても良いです」

「じゃあ、私も他の団員も貴女方を謗る事は無い」

「しかし、もっと手際良く出来たはずです」

「ならばこの経験を次に生かして下さい。

 貴女達は神の信徒ではあるが、神じゃ無い。余り自分達を責めすぎるのも嫌味に聞こえる。

 今は死んだ者達に祈るだけに留めてほしい」


 ひと段落着いたら酒でも送ろうと告げると、我々は嗜好品としての酒は飲まないと答えられた。

 ならば菓子を贈ると告げ隊舎を後に。


「ローサ、後で彼女等に菓子の手配---


 そう言いかけてローサは死んだのを思い出した。


「サーシャ」


 クリスティーナが私の手を取る。


「ごめーん。もう寝よっか」

「ええ、そうですわね」


 クリスティーナは何も言わなかった。

 私はクリスティーナと初めて同じベットで寝た。いやらしい事は無かった。ただ一緒に寝たのだ。

 夜が明けると、また2名の重傷者が死亡した。

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