第48話 ワシントンDCと違うのは降伏しない事だ。

 籠城戦はまだまだ続く。現在2ヶ月目に突入したが、我々は未だ元気だ。敵からの嫌がらせも降伏も無くなり、さてはて我等の殿下は何をしているのか?と言う感じだ。

 まぁ、普通に士気は旺盛だが、敵を軽んじる傾向が出て来た。そして、その考えは2ヶ月と1週間で吹き飛んだ。文字通り。


「何事だ!!」


 突然の爆発に作戦室とは名ばかりの暇をしている隊長達の待機部屋からローサが外に飛び出て行った。

 続いてまた爆発して、何かが部屋に放り込まれる。見ると手足が千切れ、鎧や被服が破れたローサであった。


「敵襲!」


 そして、数拍を要して外からそんな声が聞こえた。


「聖騎士!」


 私が叫ぶより先に聖騎士はローサの救急に入っていた。


「……」


 私は聖騎士を見ると聖騎士は首を振る。即死だったのごせめてもの救いか。

 外からは断続的に爆発音が響いている。悲鳴も混ざっている。更に耳をすませば、ヒューンという音が聞こえていた。

 10分もすると爆発音も甲高い音も聞こえなくなる。


「報告!」


 この部屋にいた者はローサ以外全員無事。外に出ようとしたらユーリとサルーンが武器を携えて飛び込んでくる。


「サーシャ!」

「師匠!」

「2人とも無事?」


 2人は私な抱きつきながら身体中を撫で回し、無事を確認すると敵が攻めて来たと告げる。そうだろう。

 外に出ると近衛騎士達は壁に取り付いて外を狙っている。王立軍は死屍累々。扉を開けようとして他の兵士に止められている者もいる。


「報告!

 王立軍は見たもの聞いた物全てを自分の上官に報告!!上官は聞いた内容を取りまとめそれを更に上の上官に報告!怪我人の保護!聖騎士は治療せよ!

 最終的に双子将軍は私に報告!近衛は動ける者は全て四周を警戒!近寄る敵は全て撃ち殺せ!」


 それだけ指示を出して脇に倒れていた近衛騎士のライフルを手に壁に登る。敵は驚いたことに一切こちら側に近寄って来ない。

 成程、嫌がらせの度合いを高めたわけか。

 脇にいた近衛騎士に近衛騎士団での死傷者を報告せよと告げ、最低限の人数を残しこの惨状を収束させるよう指示を出した。

 砦の混乱が収まったのは日が沈んだ後だった。全軍の各部署指揮官を揃えての会堂。その空気は非常に重かった。


「王立軍の死傷者は軽微」


 王立軍の副官が報告した。


「聖騎士も死傷者無しです」

「近衛は死者が5割。戦闘不能の負傷者が3割。王立軍の言うところ壊滅。

 兵の動揺は?」


 攻撃のほとんどは壁やその上に展開していた見張りを目的に攻撃された。故に当番で展開していた我々近衛の被害が甚大になった。


「王立軍は今の所落ち着いていますが、士気は……」


 副官は言いづらそうに私を見る。


「聖騎士は何も変化ありません」


 ある今一番精強なのは聖騎士か。


「なるほど。

 王立軍は士気の回復を最優先に。申し訳ないが我々は戦力にならん。砦を捨てる際には我々が足止めをするくらいの役にしか立たんから、そのつもりで居てもらう」


 腕を組みどーするべと久しぶりに頭を使う。頭を使うのは駄目なのだが、仕方ない。


「敵の攻撃は魔法か?」

「報告によりますと何やら長細い物が飛んできた、と」


 その報告は生き残った近衛騎士達からも上がっていた。なんだそれ?


「長細い物」

「はい。

 その長細い物が甲高い音を立てて飛んできたと思ったら爆発したそうです」


 ヒューン……ドン。花火かな?

 よく分からん。


「よく分からんが、化け物や目に見えぬ何かではないならば恐れることは無い。

 王立軍各人は我々に変わって是非ともこの砦を守って貰いたい。殿下は諸君等を自慢と思っているそうだ。

 殿下の期待に応えるよう、私は諸君等に願う。

 解散」


 立ち上がって部屋を出ると、ローデリアが書類を差し出してくる。見れば新たに死亡した近衛騎士のリストだった。

 やれやれ。


「この局面をどう戦うか、生き残った士官で話し合おう。

 この後、食堂に集合」

「はい、集合を掛けます」


 我が騎士団は多分、近衛騎士団が創団されて以来初の壊滅だろう。死んだのは確かに由緒正しい騎士ばかりではない。が、同じ釜の飯を食い訓練をし戦場を共にし、私が一度はボコボコにした。

 彼等は皆私の仲間で有り配下であり生徒なのだ。

 此処が我々の持ちどころだな。ピンチはチャンス。この戦いの肝は我々が握っている。我々が崩れれば素人に毛が生えた程度の王立軍は立ち所に降伏するだろう。

 双子将軍は個々の武は強いが指揮統率能力がカスだ。故にこうなる。幸い私もカスだが配下の皆は私の意図を組んでくれるし、意識高い系の集まりだから何とかなる。しかし、王立軍はそうではない。

 日々の脱走兵を出さないよう我々がこうして外を囲っていたのだがこれからはドンドン脱走兵が出るだろう。


「困ったねぇ……」

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