第47話 籠城とは救援があることを前提に行われる防衛戦である。
殿下の部隊が出発して二週間。敵の第二梯団はこの砦の周りに完全に集結して四方を取り囲まれた。
民間人はおらず、我々の規模で行けば普通に食ってあと半年は待つので切り詰める様指示を出した。
弾薬は節約し、射程の届かない上に曲射が出来ない騎兵砲は現在数の半分以下にして後は溶かして弾にするなり応急材にするなりしろと告げた。
聖騎士は毎日祈りを続け、負傷者は順調に回復。戦力は復帰しつつあるもの、籠城戦では人数の多さが必ずしも勝利の鍵とは限らない。
うちの兵士達には敵が攻めて来るまで30分に一回三人一組で外壁に繋がる全ての門戸を見て周れと告げた。鍵の壊れや鉄扉の軋み等を発見した者には褒賞として金が一枚か一騎討ちを挑む権利を与えてやると言ったので、血眼になって毎日昼夜問わず探し回っている。
もちろん、ローデリアに命じて作った計画表通り、その時間に探せと条件を平等化させている。
また、同じ条件で射撃の上手い連中には敵の指揮官や特徴的な奴を選んで撃ち殺せるなら殺せと言ったらその日から狙撃をし始めた。
この二週間に金貨を配った事はないがユーリと3回、一般兵と1回剣を交えて全勝。
ユーリは毎回サルーンに慰められ、一般兵は周りに凄い自慢をしまくっていた。一合鍔迫り合いをしてから蹴飛ばしてKOだってが、嬉しそうだった。
変態の類やもしれない。
王立軍は殿下が居なくなり日に日に士気の低下と不安が大きくなっている様に感じる。毎晩行われる王立軍の部隊長会議に参加したが報告内容は毎日同じで部隊長達にも目に見えない不満やら不安やらが溜まっている。
まだ二週間だし、あと半年以上はこの生活だぞ?
「何故ぇ、王立軍はその様に士気が低いんですかねぇ?」
さらに2週間、つまり1ヶ月経ってから堪らず聞く。何故か勝手に負けた雰囲気を出している王立軍の指揮官供に辟易したのもある。
「こうも囲まれて何故士気を保っていられるのか逆に知りたいわね」
「戦馬鹿だからよ」
双子将軍がうんざりした様に小声で会話していた。呆れ果てる。
「所詮は徴兵の集まりですねぇー
食料の不安も戦傷者も無いのに勝手に負け戦を決めている。武器と弾薬、食料さえ置いていけば商人に寝返って丁稚として戦ってくださーい。
明日はちょうど1ヶ月なのでー私から皆さんを激励したいと思いまーす。外周の警備は我々近衛がやるのでー、皆さんは必ず参加しなさい。
これは近衛騎士団長の命令です」
それだけ告げて席から立ち上がる。この会堂もこれ以上いたところで何の意味もない。
外に出て部屋に戻る。近衛騎士達の表情は明るい。部屋に戻るとサルーンが私の真似をして椅子でバランスを取っていた。が、直ぐに倒れる。
「体幹と恐怖心だよ、弟子ちゃん」
ハッハッハッと笑い、その日は寝た。
次の日、朝礼には砦にいるすべての王立軍が集められていた。集まれと言ったのだから当たり前だけど。
「おはよう、王立軍将卒の同胞よ。
今日でこの籠城戦が1ヶ月を迎えた。取り囲む敵の数は約10万に上り、我々は僅かに5万だ」
全員がざわついた。そのざわつきは大きく、私の声が届かないだろう。なので沈黙する。5分ほど黙っていると皆が静かになった。此処で皆さんが黙るまでに5分かかりましたーとかやるべきか悩んだが黙っておく。
全員が私に注目するまで更に3分。皆、私の次の言葉を待っていた。
「私は一つ疑問が出て来た。この1ヶ月間、王立軍将卒の士気が見る見る下がっているのだ。
敵の数が増え、毎日のように使者が降伏を勧告し、昼夜問わず弓矢を射込まれる。そんな圧倒的に有利な状況に於いて、何故士気が下がるのか理解に苦しむ!
兵卒の同胞の士気が下がるのは致し方無い。諸君等は戦術やら戦略やらと言った謀を知らぬのだから。
しかし、しかしだ!将校は違う!貴様等が何故エウリュアーレ殿下の下にいてこの状況を理解出来ていない!!
敵は我々をなんとかして無傷で降伏させたいのだぞ!?我々がいる事でこの10万の敵を足止め出来ているのだ!
所詮は殿下が居なければ田舎の自警団風情がお前達なのか?」
尋ねる。ややもすると仕込んだサクラが違う!と叫び、その違う連呼が波及する。
「ならば!」
怒鳴り付ける様に告げるとピタリと収まった。
「ならば、諸君等がやる事は一つだろう?
殿下は現在ドラクロア団長と共に敵の最も脆い場所を探る為に敵を焦らしている。
我々の仕事はこうして戸締りをしっかりして敵から与えられた矢の数を数えて時折返してやるだけで良い。
我々近衛がこの一ヶ月手本を見せたろう?さぁ、そろそろ矢が大量に溜まった頃だ。
ジャンヌ将軍の計画で商人供に商品を返してやれ。当たらぬ矢は王国には要らない、と」
取り敢えず、王立軍の士気をどうにかする事には成功した。
演台から降りつつ、双子将軍を睨んでおく。お前等の仕事やぞ。
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