第46話 たまには殿下も実戦に出る事もある。
さてはて、3日の休憩期間を挟み我が騎士団は復活した。損耗して戦闘不可能な人員を除いた我が騎士団は充足率が7割を切っていたが騎兵と射程の短い騎兵砲部隊は正直戦力運用出来ないので銃やその他支援に回したので銃兵部隊だけで見れば110%になった。
なので、敵の主力が陣を構える虎の門方面に布陣する事となった。
「現場指揮官はーあの双子なのでーまぁー仲良くやりましょー
と言ってもお互いに指揮権の侵害は出来ないのでー」
組織が二つあると本当に面倒臭い事になるヤーツー
「双子ちゃんさー取り敢えずー私の近衛は君達より前に居ないからさーいー感じにやってもらっていーかねー?」
砦の城壁、眼下には商人軍が展開して砦を半包囲していた。
使者らしい奴がやって来て何か朗々と叫んでいる。
「ユーリ、撃ち殺せ」
朗々と語るのは良いが戦争始まってんだ。騎士の一騎打ちを弓矢で返した相手にはそれ相応の対応で良い。
断るにしてもそれなりの礼儀作法があるのだ。少なくとも我が国と帝国にはあった。
「えー?やだよ」
「頭撃ち抜けたら試合してやろう」
「よっしゃ!」
ユーリは担いでいたライフルドマスケットに弾を込め、火縄に火を付ける。そして、狙いを定める。
「使者を撃つなんて近衛騎士がやって良いわけ?」
「無礼に礼を払う必要はない。商人もそれくらいの常識は弁えるべきだろう?」
サルーンが鼻で笑う様に答えるとユーリが引き金を絞った。一拍遅れて放たれる弾丸は瞬きをするままなく使者の頭をぶち抜く。
一瞬の静寂。そこを狙って塀の上に立つ。
「戦場で何をくっちゃべっている商人!
この前頼んだ物を届けに来たのか?ならば商品を先に見せろ!お前達のお喋りに付き合うほど我々は暇ではないのだ!
そうでなければさっさと帰れ!帰り道は分かるか?分からなければ私が先導してやるぞ?
あの世にだがな!」
私の言葉に砦から笑い声が起こる。
それから帰れ帰れの大合唱。壁から降り、置いてあった箱に腰掛ける。私の前には双子将軍。
「和平の道は絶えたぞ!」
「和平をするつもりなんかないでしょう。
この半閉塞は此処で時間を、負傷者を取られないよう可能な限り配慮してるだけ。
そこに和平の道は無い」
ローズとローデリアはこの半閉塞をそう見ている。
まぁ、撤退するにしても我々近衛騎士団は殿軍だ。
「平和ボケするには早いですよ、ジャンヌ両将軍」
ユーリが嬉々として剣を持って来たので立ち上がる。久しぶりに本気で相手をしてやろう。両腰に提げた火かき棒を引き抜くと、ユーリの顔が一気に破顔し殺意マシマシの目になった。
うんうん。
しかし、剣筋が感情に引っ張られて素直になっている。左手で剣を弾き、右手でフェイント。本命は後ろ蹴り。ユーリは吹っ飛ばされてそのままサルーンにキャッチされた。
「感情に引っ張られ過ぎだぞ、兄弟子」
サルーンは弟を見るそれで告げるとユーリは顔を真っ赤にして去って行った。
「ハッハッハッ」
私はサルーンに任せて箱に座る。敵の動きが砦をぐるっと囲む様に動き出したと報告が入った。それと同時に国境方向から敵の増援と思しき大列が来ているとの報告。
敵の本隊……いや、第二梯団?早過ぎね?
「ヤバいぞ!!」
私がそう叫ぶ前に下の方でそんな声が聞こえた。見ると殿下がしっかりと武装をして銃まで持って飛び出ていた。
「殿下ぁー
敵は我々を超越するつもりではー?」
「そうだよサブーリン!
大変大変!あの梯団をこっちに留めなきゃ!!」
まだこんなに軍持ってるなんて聞いてないぞ!と殿下が叫びながら何かを命令し始める。
包囲が完成する前に抜け出せる部隊は動けと叫び出し、その声は兵達に動揺を働かせる。
「殿下止めないと大変な事になりますヨォ?」
取り敢えず、双子将軍に告げると双子の白い方が城壁からフワリと飛び降りて殿下の前に着地。
それから何か殿下に話し、此方を見やった。殿下も私を見上げるので私は取り敢えず手を振っておく。殿下は強張った顔を無理やり笑みにすると、階段を駆け上がって来た。
「サブーリン団長、敵の場合が完成するまでに私が部隊を率いて第二梯団の段列を叩いてくる。
叩いたあとは一旦逃げてその後にドラクロア団長達と合流する。
詳しい期日などは分からん」
「ええ、まぁ、良いでしょう。
飯が食えないとあの大軍も中々侵攻出来ないですからねぇ。
我々は最後の一兵になるまで守っておきましょう。
幸い、此方には貴女が信頼する双子将軍がいらっしゃる」
双子の肩に手を置き、殿下に告げると殿下は落ち着き払った様子で頷いた。
「では、ご武運をー」
殿下は馬を引け!と叫び、それからその場にいる全員に聞こえる様梯団を叩き敵を足止めしてくること、その後はドラクロア団長と合流する旨を告げて準備が出来たらしい殿下配下の近衛部隊と共に出撃して行った。
私は双子将軍のうち黒い方が持っている双眼鏡を手に取り、敵陣地を観測。
「ユーリ!あと射撃が上手い奴数人連れて来て!」
周りを囲う敵部隊はライフルでは余裕で届く。マスケットではギリ当たらない。そんな距離を取っているのだ。因みに弓矢は山なりに撃てば普通に届くのだが命中がどうにも期待出来ないのと敵には大勢の魔術師がいるので矢避けが可能らしく嫌がらせにしかならない。
魔法とは便利なものだな、と改めて実感した。
「連れて来た」
不貞腐れた様子のユーリと数名の兵士達。ライフルドマスケットを担いでいる。
「そこから敵部隊の指揮官を撃ち殺して貰いまーす
殿下の部隊が出撃するのを援護しまーす」
上手く当てたら試合してやると告げると兵士達はよっしゃぁとやる気満々で塀に取り付く。ユーリは何も言わずに取り付いた。
それから銃を構えて各々のタイミングで撃ち始め、敵部隊は大きく動揺が走った。それを契機に殿下の部隊は出陣。見事脱出に成功した。
あとは此処を守るだけだ。
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