商人の感想
我々連合軍が展開した前衛部隊の前に立ち塞がった敵はあの有名な王国近衛竜騎士団だった。国境沿いから下がった位置で布陣し、かの有名な騎士サブーリンが国境を超えないギリギリの位置で前衛部隊の指揮官に警告した。
形だけのもので、やる気の無いものだ。
「誰か一騎討ちを挑んでも良いぞ」
我が軍の特徴は食い詰めた冒険者や金で雇った傭兵に借金による奴隷が兵隊の8割を占めている。
残りは各商会からの専属護衛だ。私の周りを固めている連中もそうだ。私は鎧を纏ってはいるが商会の次期当主として箔をつける為に来ただけだ。
周りの護衛にそんな事を言ってみると誰もが苦笑して首を振る。彼等も大なり小なり商人だ。根っからの戦士では無い。
我々の武器は剣と盾では無く、算盤と金貨だ。鎧では無く上質な服を纏い、砂塵吹き荒ぶ荒野の代わりにテーブルとソファーで戦う。
結局何処の商会からも挑戦者は現れず何処かの誰かが放った矢はサブーリンに易々とはたき落とされた。サブーリンはそのまま首を振って悠然と帰ってしまった。
その後寡兵たるサブーリンの軍隊に攻撃を仕掛けた我が軍の前衛部隊はものの数時間で壊滅させられた。
相手より1.5倍は居るはずなのに銃と呼ばれる新兵器を使い、大砲と騎兵で前衛を蹴散らした。
その後、サブーリンからの使者がやって来た。
「サブーリン近衛竜騎士団長からの貴方方商人に対して買い取って欲しい物一覧をお渡しします」
其処に書かれていたのは棺桶が丁度近衛竜騎士団の人数とピッタリ合致する数だった。他にも葬式を上げるための祭具等が書かれている。
「これは?」
「見ての通り、我が騎士団が用意した棺桶や葬式を上げるための祭具です。
せっかく用意したのですが、どうやら使う機会はなさそうだ、と言う事で我々よりも必要そうな貴方方に団長は会って差し上げろと仰いました。
言い値で結構と仰ってもいましたので」
非常に安い挑発だった。
「申し訳ありませんが、我々は商売をしに来てはいませんので買取はまた後日お願い致します」
周りの怒りを抑えつつ、私が答えると使者はわかりましたと頷いた。
「では、次の商談に来る際にはこちらの商品を金額と共にご用意お願い致します」
使者は別の紙を取り出して私に差し出して来た。中身は高級な酒と大量の肉や野菜、果物。また上質な布や娼婦の用意は勿論湯浴み業者の手配も書いてあった。
一般にこれ等は戦争に勝利した後に頼まれるものばかりである。
「ははは、成程。
ですが、我々としてはこちらをお勧めいたします」
有名な墓穴掘りの名前を書いて差し出す。
「成程、団長にはそうお伝えしておきます。
団長も貴方方の墓穴掘りは嫌がるでしょうし。
それではよろしくお願いします」
使者は最後まで我々を下に見て去って行った。使者がさって行った後、連合を組んであるガルシア商会の会長が顔を真っ赤にして椅子を蹴り飛ばす。
「何と言う奴だ!!
我々に対する礼儀が無い!!それでも近衛騎士か!」
原因は分かっている。我々はサブーリンが提示した一騎討ちに唾を吐いた。我々には最早慈悲は無いだろう。
しかし、前衛は銃を装備していないが本隊は違う。私の部隊は全員入手した図面を元に作り上げた銃を装備している。信頼性は低く値段も高いので商会専属の連中にしか持たせていない。他の雇った傭兵達は信頼性の低さを嫌って突っぱねて来た程だ。
本隊が国境沿いに集結するが王国はサブーリンの部隊に増援を出すつもりはないらしい。我が軍に恐れをなして砦に籠っていると見做した者までいる。
真相は不明だが、少なくとも我々はあのサブーリンの騎士団を破ることが出来る。あれを潰せば敵の士気は大いに挫けるし、箔も付き士気も大いに上がるだろう。
我々の数なら損害が出ても擦り潰せる。それほどの戦力差だ。
「全軍、攻撃開始」
連合を纏めるトップはセルベリア議会の議長にして世界一の大商人バンクラット・スタールが娘、ジクルット・スタールである。齢8歳にしてリボ払いと呼ばれる定額支払いによる我々商人にとっては夢のような支払いシステムを思いつき、16でバンクラットの右腕として働く。この前、帝国の国防大臣の長男との婚約パーティーが開かれたが長男が死亡してその話が無くなったとか。
まぁ、どっちにしろ我が国セルベリアは帝国と急接近したいので前回の戦いに合わせてこちら側から攻撃を仕掛け裏側の帝国には我々がサブーリンと王国の才女にして王立軍元帥たるエウリュアーレを引き付けている間に侵攻して欲しいと使者を出した。
近いうち帝国軍が我々の動きに合わせて国境を超えるだろう。
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