第44話 全力全開に敗走軍
さてはて、囮役は何故か私の部隊が引き受ける羽目になった。事に関しては誰もやりたがらなかったのだ。
名誉はあるが余りにも損害がデカいのでは?とか逃げながら戦うとか普通にそのまま兵が敗走するぞ、と言うのが王立軍全員の見解らしい。そうなると我先にとドラクロア団長が前に出てくるのでそこはさすがに押さえた。ドラクロア団長は良くても彼女の部下が可哀想だ。
「まー一番槍の誉ですねー
あと、陣地作っちゃったのが不味ったねー」
ハッハッハッと笑いながら我々の宿営陣地に戻る。
全隊長を集めてうちの参謀陣を見る。
「この作戦は如何に我々が負けた様に砦まで惹きつけるかが問題になります」
ローデリアが前に出て砂盤を動かす。
この陣地から砦まで約10km。
「我々は前衛集団を撃破し、敵の主力に一定ダメージを与えて撤退を開始します。
此処で、その、不本意ですが、一定数の死傷者が出た段階で攻勢から撤退に方針転換しなければなりません。しかし、それを敵に決して気取られてはいけません」
釣り野伏せ、と似たようなものだ。あれは味方が隠れている地域まで引誘する。今回は敵に一気呵成で攻め込めば砦も落とせると思わせねばならん。
肝は私だろう。些か武勇が上がり過ぎた。それ故に私が倒れれば敵はなにする物ぞとなるのは明白だ。
「しかし、何だね」
クリスティーナを見やる。この場にいる全員が思っているのだ。
「何でしょう?」
「今回ばかりは全滅しても可笑しく無いからクリスティーナは砦ね」
私の言葉にクリスティーナと弟子2人以外は全くと言う顔で大きく頷いた。
「嫌ですわ!
私は国王陛下から貴女の戦いを見届ける事で貴女の妻となるのです!」
そーいや、そうだった。
困ったなぁ。
「んー……どーすっぺ?」
ローデリアを見る。ローデリアは困った様に腕を組む。
「我々と共に居れば敵は積極的には攻撃して来ないはずです」
そう言うのは私の騎士団に配属されている聖騎士だ。
「ほう?」
「我々はご存知の通り聖騎士、聖堂教会から派遣されている騎士です。役割はご存知の通り怪我人の治療です。我々はこの世界のあらゆる場所、あらゆる組織に派遣されています。
そして、戦場において我々聖騎士はどちらの軍にも戦力として組みせずに、怪我人や病人の治療に専念します。我々が武力を行使するのは我々の庇護下に置かれた怪我人や病人、避難民等を守る時。
団長の奥方様は我々と共に行動なされば宜しいかと」
それで行くかー
「じゃあそれで。
あと、全員に遺書を確実に書かせてねー内容は書く事なければ両親や育ててくれた人にありがとうっての書けって言っといてー
書いたら爪や髪切って封筒に入れて名前書いて聖騎士に渡すよーに」
騎士団長命令でーと付け加えると伝令は今までに無いほどに緊張した顔で去って行く。
「遺書を書けなんて命令、初めて聞きました」
ローデリアがやはり緊張した面持ちで告げる。私だって初めて命令した。
「んー……まぁーねー
今日の夜、話そうか」
今までの戦いとこの戦いははっきり言って自分の名誉にはならない。前を向いて死ぬ戦いでは無い。
わざと負けたふりをしろと言うのだ。約束が違うと兵達が反乱を起こすかもしれない。しかし、まぁ、軍隊とは甘い汁ばかり吸うのは不可能なのだ。
全てを話す必要はないが、無理無謀を押し付けて本当に敗走されても困る。
難しい塩梅だな。まぁ、話してみるか。
お膳立てだよ。
夕方になり全員が集合したと言うので前にでる。
「さてさーて、今回の戦争は今までの戦いでも中々に大変なのでーす」
演台代わりに砲弾を入れて来た箱の上に立つ。
「簡単に言うとー我々はあまりに強過ぎ、余りにも勝ち過ぎたのでーたまには王立軍や他の近衛騎士団に手柄を譲ってやらなばならないと言う訳ですねー
贅沢な悩みですねー」
困ったもんですと大袈裟に肩をすくめ、それからニヤリと笑う。
「しかし、この戦いは我々にしか出来ない。我々だからこそ出来る、非常に高度かつ繊細な行動が要求されている」
ローデリアを呼び、非常に簡単な説明をする。
「この戦いはまず我々が敵の前衛集団を撃破します。敵の数は我々と同等か少し多いのでまぁ、勝利は余裕です」
余裕らしい。
「そして、その後に敵の本隊に当たります。
此処に関しては我々が当たっても勝つ事は非常に難しいです。真正面にぶつかると団長以外は死ぬのは確実です。
なので、本隊にぶつかったら我々は理路整然と撤退し、敵本隊を引きつけながら砦に撤退します」
ローデリアの言葉に全員が騒ついた。だろーねー
「なのでーこの中にいる何人かは死ぬでしょーなので遺書を書いて貰いましたー
まー全員で無事に帰れるのが一番ですがーそれに関しては私も保証はー出来ないのでー」
がんばりましょーと告げると全員がおぉ!と剣を掲げた。
何故か士気が上がった。
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