第43話 商人の軍隊
我々近衛竜騎士団が布陣を完成する頃には王立軍もやって来て国境に一番近い砦にエウリュアーレ殿下が入城した。
それに伴って我々は一番近い宿場町に拠点を移動させる。国境沿いとは言え別に壁を作ってるわけでも何でも無いのでここで戦うには大規模な陣地築城を強いられるのだ。
故に近くの宿場町に拠点を移し、防衛戦を楽にする。
「密偵の話では」
ローデリアがそう口を開いた。
「密偵の話では敵は傭兵を中心とし、各商人達の私兵で固められているとの事です。
数はおおよそ15万」
ローデリアの報告にまだ誰も驚いた様子はない。
「主武装はマスケット銃」
しかし、続けられる言葉に動揺が走った。なるほどね、金に物を言わせたのだろう。流石商人共だ。
「練度は?」
「不明ですが、行軍をしながら同時並行で教練もしているのと、大部分の傭兵団はマスケット銃を信用していないらしく装備を拒んでいます。
このマスケットは品質がバラバラで我等王国製のマスケットよりも断然性能が低い様です」
なるほどねー
「実際のマスケット銃保有部隊はどのくらい?」
「約1割の1万5千程かと」
成程なー
「殿下は?」
「ご存知です。
この後の作戦会議でこの事を全部隊の隊長に言うそうです」
成程なー優先的にこっちに情報回されるのは良い。
「さて、どうするかな我等が殿下様は」
椅子でバランスを取りながら夕方にある各部隊長会議に想いを馳せる、なんてことはせずその会議で出される食事を考える。
「ローサは各部隊に今の情報流して来てー
んでーローデリアは会議の準備。ユーリ達はいつも通りでー」
殿下は食事にも煩い人なので殿下のところの飯はめっちゃ美味い。
夕食会兼ねての作戦会議は本当に楽しみだ。
指示も出したので部下達の士気を確認しがてら陣内視察。ユーリとサルーンも後ろに付いてくる。兵士は勿論騎士達の士気は非常に高い。
功績を上げたら騎士になれるし、騎士も私の弟子になれる権利を得るのだから。まぁ、徐々に騎士の立場は死んでいくだろうがそれに関しては私の管轄じゃ無いし多分私が生きてるうちには達成しないだろう。
2時間ほどかけて陣内視察を終えると作戦会議に行く頃合いになった。参謀陣や各部隊長を引き連れて殿下のいる大天幕に。
そして、そのまま殿下の脇にある椅子に向かえばドラクロア騎士団長が既に居た。
「あれ、ドラクロア団長じゃないですかー
今回は第二が出るのでー?」
「そうさねサブーリン。
アンタばかり活躍してるからこっちも戦果を上げないとね」
ドラクロア団長が肩をすくめてみせる。
「なるほどー
でも、敵も銃装備してるらしいので闇雲に突っ込むと返り討ちあいますよー
ドラクロアだんちょーは死なないっすけど、他の人は死ぬのでー」
「そこが問題なんだよ。
どうするかね?」
ドラクロア団長も腕を組み目の前に置かれている巨大な砂盤を見る。この周辺の地形を模して作られているのだ。
「まー無難に郊外に退避してー殿下達を囮に回り込んでみます?」
砂盤は非常にでかいので中に入って駒を動かす必要があり、それ専属の兵卒もいる。が、まだ準備が整ってないので手近にある物を使い私が自ら地形に置いて指図する。
「ここで決戦をするのか?」
ドラクロア団長もこの砦を模した兵棋を見ながら周辺地域を指図する。
「決戦というか、我々近衛騎士団が近隣の村や山に潜んで商人どもにこの砦を包囲させるんですよ。
んでー完全包囲をして攻城戦を開始した段階では我々が商人共の本陣をぶん殴りに行くって寸法です。
敵は突然出て来た我々に対処出来ずにやられる、かもしれないですねー」
どうでっしゃろ?と尋ねるとドラクロア団長は良い顔をせず、周りにいた王立軍の士官達も眉を顰めている。
「卑怯では無いか?」
「でも、銃兵が1万5千見込みでいる状態で正面切ったら負けますよー?
だったら攻城戦をする為に最前列に銃兵置かして、背面より奇襲する方が賢いです。
それに、我々の策を見破れず戦争を仕掛ける商人どもが悪いってことでーどうです?」
喧嘩でも決闘でもあるまいに。正々堂々はこの規模の戦争には不要だ。
「サブーリン!」
そして、そんな話をしていたら大声で名前を呼ばれる。誰かと思ったら殿下だった。全員慌てて起立。
私も気を付け。
「君は素晴らしい戦略眼を持っている!
まさに私もそれを考えていた!」
殿下がニッコニコで抱きついて来たので抱きしめ返す。
「それはありがとうございます殿下。
それでこの戦法をするにあたり敵をどのように誘引するのですか?誰がどうやって砦まで引っ張って来ますか?」
「う、うむ。それはこの話し合いで詰めよう。
最も危険だが、最も誉がある」
ふむ、まぁ良いか。
殿下を離して席に座る。殿下が座るのに合わせて料理が運ばれて来た。軽い食事である。酒もある。
この作戦会議は認識の統一と団結会的な側面があるのだ。我々は何処に配置されるか?私が一番槍筆頭で大戦果を上げすぎたので今回は自重せよと言われるだろう。
城に入り正門の守備とかか?ライフルはまだまだ王立軍でも行き渡っていない。殿下の側近部隊は装備していたり、銃兵大隊に僅か一個小隊の狙撃小隊を編成してそいつらに渡してるのが関の山らしい。
高くて加工が難しい。鉄の筒に均一かつ均等に線条を施すのは簡単に見えてかなり難しいらしい。
詳しくは知らんけど。なので我々のように銃兵大隊全員がライフルって言うのは特例らしい。
「何処がいちばんの栄誉だい?」
ドラクロア団長が私に聞いてくる。
「まぁ、野伏組でしょうね。何せ決定打を確実に放てるわけですから」
「やっぱりそうかい。
サブーリンは何処になりそうだい?」
「ライフルを持っているので城門周辺の配置かなーと思ってます。
まとまった数のライフルを運用しているのは我々近衛竜騎士団だけですので」
「うん。
まぁ、第三と第四が来てくれたら追撃と弓兵は充分だろう」
第三近衛騎士団はハルバードを持ったオッサンが率いてる。会話はしたことが無い。第四は私の古巣、ミュルッケン団長が率いている。
それぞれの特色に合った役割を振られているのだ。
因みに第一と第二は良くも悪くも特色は無いオールマイティーな騎士団で主力になり得る存在だ。
剣と盾、弓と馬を操れる。基本的な能力は非常に高いが何処に特化しているわけでも無いので騎馬突撃は第三に、弓術は第四に、徒での闘いは何処にも負けない。
そう言う区分けだ。
因みに、私の所は全てが半端。銃兵とはそう言う存在だ。火砲と騎兵によって全般が更に中途半端になった。しかし、どの部隊にもない中遠距離での交戦が可能になった。
射程は大事だ。間合いこそ全てだ。
殿下は何やらベラベラ喋っている。興味は無い。何処で何をするかが重要だ。
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