姉様の感想
最近入った新米の近衛騎士が僅か一年足らずで近衛騎士団長になった。名をサーシャスカ・サブーリンと言う。
やる気の無さそうな態度と言動であるがその雰囲気は各近衛騎士団長にも勝るとも劣らない者だった。
実際に戦わせてみると大した怪我を負うどころか息切れすらせずに飄々とあのドラクロアと1時間近く撃ち合っていたのだ。
話してみると実に思慮深く、ペンドラゴンの密偵からも経歴実力共に嘘なしであると出た。あのペンドラゴンが手放しで褒め称えるのは珍しかった。
そしてペンドラゴンの推薦もあってサブーリンを我が妹たるエウリュアーレの情報収集をさせる為に派遣すると何故かゴートデーモンを倒して来た。
また、銃という武器についてもエウリュアーレには劣るがどの近衛騎士団長よりも理解していた。勿論、現状のリスクとリターンを考えるに近衛騎士団には不要と言い切ったあたり聡明さもある。
故に、銃と砲で武装した近衛騎士団を作り与えると今度は帝国軍5万をたった一人で追い返してしまった。
その報告を聞いた時は嘘をつくなと笑ってしまったほどだ。そして、そう言うと本人は怒ったり自慢する事もなく、いつも通りの解答をした。
「はぁ、まぁ、そう思いますよねぇ」
と笑っていた。
そして、証拠と言う事で帝国軍の一番最初に決闘をして一撃で破り面白い技を使うとかで弟子にしたダークエルフを紹介して来たのだ。
「お前はダークエルフがどの様な人種か知っているのか?」
「ええ、差別されてる可哀想な人達って聞きましてぇ。
帝国軍側も受け取りを拒否したので弟子にしました」
平然と言ってのけるサブーリンに当たり前だが周囲の貴族達は騒ぎ出す。
騒ぎ出すが、サブーリンはいつも通り少しだるそうな顔をしていた。
ダークエルフはこの世界を滅ぼそうとしたが故に肌が黒くなった。故に憎悪の対象になっている。
「んー、でもサルーンは近衛騎士程度なら一騎討ちで余裕で倒せますよ?
彼女が本気になればこの場にいる貴族の方々全員殺せてますし」
相変わらずとんでも無いことを口走る。
「私を殺す事もか?」
尋ねるとサブーリンはにっこり笑って即答する。
「勿論です。
サルーンの技を是非とも皆さんに体感して貰いたい」
「私に死ねと?」
聞くとサブーリンは違いますと笑った。
「彼女の剣がすごいんですよ。
団長達も見て下さい。ビックリしますよ。勿論ありませんが、サルーンが暴れ出したら私が斬り殺します。
勿論、そんな事はありませんが」
へへへとサブーリンが笑うので許可を出す。
サルーンと言うらしいダークエルフは深々と頭を下げてサブーリンが持っていた二振りの曲刀を受け取る。その剣を抜くと刀身は真っ黒で金色の紋様が描かれていた。
そして、サルーンはそれを体の前後で回し始める。全員がそんなサルーンを見つめている。
回転が速くなりその刀身が見えなくなって瞬間、サルーンが消えたのだ。その直後、全団長が抜身で私の前に出て、サブーリンが空かさず止めると叫んだ。
すると、サルーンがスッと現れたでは無いか。
「魔剣だな」
「はい」
サブーリンは凄いですよねーと笑う。団長達は皆一様にサルーンを警戒していた。
「しかし、ダークエルフだぞサブーリン」
「関係ありません。
彼女は実に強い。もう少しすればドラクロア副団長にも一勝くらいは出来ると思います」
サブーリンは自信満々につげる。当のドラクロアはサルーンを見、サブーリンを見てからニヤリと笑った。
「楽しみだ」
ドラクロアが良しと言うのであれば良かろう。
「まぁ、サブーリンの責任でダークエルフを弟子にしたのらば良い。
サルーンと言ったな?」
「はい陛下」
「励め」
告げるとサルーンは驚いた顔を私に向け、それからサブーリンを見た。サブーリンは笑うだけだ。
「陛下の期待に添えられる様研鑽を重ねて行きます!」
サルーンは深々と頭を下げた。
それからサルーンに本当にサブーリンが帝国軍を追い返したのか?と聞くとなんでも決闘で15連勝をして完全に帝国軍の士気をへし折ったそうだ。
一応、脇に控えるエウリュアーレに確認する。
「ゴライアスからも同様の報告があがってあるので間違い無いかと」
とんでも無い騎士だな。
「うむ、お前には褒美をやらねばいかんな。
また、あの火かき棒が欲しいなどと言ったら許さんぞ。
何が欲しい」
くだらない物だと私の方が品位を疑われるのだ。そう言う話をそれとなく他の奴から言う様告げたが、果たして効果はあるのだろうか?
良くも悪くもマイペースな奴なのだから。
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