第33話 そこそこブチギレるタイプの近衛竜騎士団長

 夜に殿下の陣営に着いたのでユーリとサルーンを引き連れて殿下の天幕に向かう。他の奴らは休養を与えた。


「殿下かー

 戻りましたー」


 天幕を潜ると全裸の殿下が全裸の美人のおっぱいを吸っていた。

 おっぱいおっぱい。


「うぉ!?」

「きゃっ!」


 取り敢えず、殿下の前に傅いて報告。


「昨日五万の帝国軍が攻め入ったので15人と決闘して追い払いました。

 現在ゴライアス将軍の兵を一週間国境観察という事で置いてきました。我が騎士団は明日の朝まで休養を命じております」

「そ、そうか。

 それはご苦労。下がって良し」

「では、失礼します」


 立ち上がって女を見る。糸目の金髪女だ。ユーリがアイツ等女同士で何やってんだ?とサルーンに尋ね、サルーンはそういう趣味なのだろうとバッサリ。

 私も二人の後に続いて天幕を出る。


「じゃー詳しい話は明日聞きましょー

 今日は我々も帰って寝ましょー」


 帰って寝る。翌朝、起きてから殿下の天幕に各部隊長を引き連れて参陣。殿下の天幕には今回の戦で参戦してる各陣営のお偉いさんが集まっていた。


「どーもーサブーリンです。

 改めてー報告しますぅー」


 全体を見渡すと昨晩の糸目女は聖騎士の鎧を纏って殿下の近くに座っていた。何や、聖騎士か。


「帝国軍5万は、国境沿いにて我々近衛竜騎士団が交渉の結果撤退。現在、警戒のためにゴライアス将軍麾下5千の兵が国境沿いに展開しています。

 一週間何もなければ帰って来いと言ってあるので何もなければ一週間後に帰ってきます。

 何か質問は?」


 尋ねると昨晩の糸目女が手を上げた。


「はーい、そこの殿下の情婦」

「違います!

 私は聖騎士団のマリアと申します」

「はーマリアさん。

 近衛竜騎士団団長のサーシャスカ・サブーリンですーよろしくー」

「よろしくお願いします。

 それで、質問ですがどのような交渉をしたのですか?」


 全員がそうだそうだと頷いた。


「取り敢えずー

 帝国軍に対して名乗りをあげて、そこから決闘で15連勝してー現在殿下の軍が物凄い勢いでこっち来てるぞーって言ったら大人しく帰っていきましたー」

「じゅ、15連勝!?」

「嘘をつくな!」

「無理だろう!」


 ひどい言われよう。


「嘘では無い」

「そうだ!

 サーシャがそんな嘘をつくか!」


 サルーンとユーリがブチギレながら立ち上がる。


「なっ!?

 ダークエルフだぞ!」

「何故このような場所に!」

「穢らわしい!」


 穢らわしいって言った貴族の顔面に鞘に入れた死の刃を投げ付ける。


「この子はサルーン。

 その決闘で一番最初に私に挑んできた勇敢な戦士だ。そして、私の二番弟子である。

 昔の古臭いほら話如きで私の愛弟子を馬鹿にするのは師である私を馬鹿にすると同義。

 近衛竜騎士団団長のサーシャスカ・サブーリンの名に於いて貴様等の侮辱に決闘を申し込む用意もある。

 王国にいて私の武勇を知らぬ程蒙昧してはいないだろう?」


 そのダガーを使っても良いぞ?と告げると誰も前に出てこなかった。


「殿下の御前ですよ」


 マリアが告げる。手にしたロングポールのメイスを地面に叩きつけ威圧。勿論そんなものには何の効果はない。

 殿下の威を借りているだけだ。


「関係無い。

 私は近衛騎士団長としてこの場にいる。そして、近衛騎士団長たる私への侮辱はひいては陛下への侮辱にあたる。

 私の決定は女王陛下の決定と同義、そう書かれている。

 サルーンは陛下の命と財産を守るにふさわしき高潔な戦士であることは剣を交えた私が一番よくわかっている。

 たかだか肌の色如きで差別する様な者こそ陛下の下に名を連ねる者に相応しくない。

 異議あらならばその鎚で申し上げろ、情婦」

「我が師よ!

 私は気にしていない!」


 サルーンがそんな事を宣うので振り返って肩を掴む。


「気にしなくてはだめだ。

 これはからは。君は今はただのダークエルフのサルーンではない。サーシャスカ・サブーリンの弟子のサルーンなのだ。

 君はユーリの妹弟子のサルーンなのだ。そして、近衛竜騎士団員を一騎打ちで破れるサルーンなのだ。

 ここで君が侮辱を受け入れるのは私やユーリ、君に負けた近衛騎士への侮辱を認めた事になるのだ。

 我が団員で君を誰一人としてダークエルフと呼ぶ者が居ないのは君をダークエルフのサルーンではなく、私の弟子のサルーンとして認めているからだ。

 分かったか?」


 サルーンはボロボロと涙を流していた。


「っ!ありがとう、御座います」


 サルーンは深々と頭を下げる。


「気にすんなー

 師の役目って奴よ」


 ユーリに外に送って行く様告げる。


「それで、私への侮辱は私は喜んで買う。

 我が剣でその侮辱を潅ぐ」


 周囲を睨み付けるとサルーンを侮辱した家族が発言を撤回すると小さな声で告げる。

 それに続き発言した連中も私もと続いた。なので投げ付けた死の刃を回収する。


「それで?」


 マリアを見るとマリアは殿下を見た。殿下はいつも通り薄笑いをしながら冷や汗を浮かべていた。


「私は、殿下の情婦ではありません」


 マリアが静かに告げる。


「フッ」


 思わず鼻で笑ってしまう。

 お前、昨日殿下におっぱい吸われて嬉しそうだったやんけ。


「何か?」

「いや、それで君はどうする?

 私に喧嘩を売るのか、売らないのか」


 マリアは何やらハッと鼻で笑う。


「私は聖騎士です。

 無用な争いはしません」

「ならば黙って座っていろ。それか赤ん坊に乳でも吸わせていれば良い」


 殿下を一瞥すると殿下はサッと顔を逸らす。

 まったく。


「それで、この一週間で何か変化は?

 聖騎士団が来たと言うことは攻め入る算段でも付いたので?」

「実は君等の為に用意したんだけど、その必要は無かったみたいだね」

「そもそも5千の銃兵と砲兵相手では5万の敵には損害を与える事は出来ても撃破は出来ませんよ。

 全員が私レベルの人間なら行けますけど」


 言葉の裏にお前の判断間違ってね?と言う思いを込める。


「それは殿下の采配に誤りがあったと?」


 殿下派の貴族が口を挟む。


「そうですね。

 幾ら私が優秀であったとはいえハイリスク、ハイリターンにも程がある。戦争とは言え、殿下は些か地図ばかりにしか目がいってないのでは?」

「無礼だぞ!」

「無礼はどちらか!

 我々は畏れ多くも女王陛下に代わってこの場にいる!女王陛下の財産には国民は勿論兵士達も含まれる!

 私は陛下の思いに応えてこの場にいる!私の団員もそうだ!今国境沿いにいるゴライアス将軍もそうだ。

 殿下は、この争いを一刻も早く収めようと言う努力に些か欠けているのでは?

 私は非道な道も示した。その理由は殿下を楽しませる為ではない。国境から来る帝国への注力をする為だ。

 私は貴女の駒ではない。陛下の駒なのです。

 そこを履き違いなき様くれぐれもお願いします。

 それで、この後はどの様に考えておられるので?」

「取り敢えず、臼砲で城門を砲撃して崩す。場内には死体を投げ込んだり、川を堰き止めたりしているからだいぶ弱っているはずだ。

 門を壊して軍を入れれば忽ち敵は敗れるだろう」


 成程。


「じゃーそれやってさっさと帰りましょーよ。

 乳吸ってる間にも人間は死んでるのでー」

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