第28話 名乗り口上の長さが時間稼ぎのコツ
さて、私達がやって来て一週間。無事に何も無く、王立軍がやって来た。
「俺の事はしっているだろ?」
多分ゴロツキみたいな名前の王立軍の将軍が開口一番そんなことを言い出した。
「あー何でしたっけ?
ゴロツキーみたいな」
「ゴライアス将軍ですよ!」
ゴリゴリマッチョのゴリラ野郎かと思ったが俺様系のワイルドイケメンだったゴライアス。
ローデリアが教えてくれる。
「ゴライアス将軍は王国でも随一の剣の腕を持っている方です」
「成程ぉ……
知らぬ存ぜぬなので初めましてぇーって事ですねぇ」
答えるとゴライアスは私を睨む。
「初めましてでは無い。
一応お前とはブルーダムでも肩を並べてるしザリアスの包囲戦だとお前の親父さんがお前を連れて挨拶にも来たぞ」
「はぁ、全く覚えてないですぅ。
まぁ、後はよろしくお願いしますねぇー」
そう答えたら眉間に皺が寄り、こめかみに血管が浮いた。ブチギレてらっしゃる。
「この戦争が終わったら、ちょっくら腕試しに試合でもどうだ、サブーリン」
「嫌でーす。
そんな事より王立軍はどんな陣形取りますかー?」
「方陣だ。
三列の銃兵を四角形に配置して中に砲兵隊を置く」
それを街道を挟む様に配置するそうだ。そして、予備隊はその後ろに置いておくそうな。
「成程」
騎兵はゴライアスが直接指揮を取るそうだ。
「戦争になったら、我が騎士団も半分づつこよ方陣に入ってどんな物か体験しとこうかなー
近衛騎士は王立軍の戦術を演習とかでしかみてないのでー」
ローデリアに告げるとそうですねと頷いた。
「ローサ、残ってる全員に言って。
開戦したら方陣の中央にて砲兵の動きや方陣の実力を体験して来いって」
「分かりました!
団長は何処に居ますか?」
「取り敢えずー団長が前でても色々と気を使うだろうからー
当初はゴライアス将軍と一緒に後ろにいるねー
右の方陣にローデリア。左の方陣にローサ行ってーんで、ユーリは私のところねー」
指示を出すとローサは伝令に向かった。
それから更に二週間が過ぎ、国境間際に居た偵察隊が血相を欠いて戻って来る。その後ろには帝国旗を掲げた馬車がやって来ていた。
「報告します!
帝国旗を掲げた使者が来ています!」
「うん、敵の数とかは?」
「や、約5万」
こっちの10倍だった。
「どうする将軍?」
ゴライアスを見ると流石に目を見開いていた。
「増援の要請だ!」
「取り敢えず、使者と話すかー」
やって来る馬車は丁度我々の陣地に入って来た。
「王立軍の指揮官殿にお会いしたい」
口髭を生やした神経質そうな男が降りて来るとそう告げた。
「ゴライアス将軍お呼びだよー」
「俺達はお前の指揮下に居るんだよ」
「冗談だってー
近衛竜騎士団団長のサーシャスカ・サブーリンだよーよろしくー」
使者に挨拶すると使者は帝国側のなんたらかんたらと凄い長い役職を名乗り名前を告げた。
「偉いのか?」
ユーリがゴライアスに聞くとゴライアスは副大臣位の偉さだと答えた。へー
「取り敢えず、君等は私等と戦争しようとしてる?」
「此方をご覧下さい」
何やら書簡を差し出してきた。それを受け取り、ゴライアスに渡す。
「読んどいてー
で、副大臣様の意見はー?戦争する?しない?」
「……そちらの書状をお読み下さい」
その一点張り。
「サブーリン団長。
帝国軍はあの離反組を救援に来たとしか書いてない。侵攻の意図はないそうだ」
「んー取り敢えず、話し合い出来ないっぽいからコイツの首切って送り返すー?」
「ソイツは良いなぁ!
帝国軍も後には引けなくなるからな!」
私が立ち上がると使者は椅子から転げ落ちて天幕から駆け出した。私達はそれを笑って送り出す。
「おいおいおい!
アンタ正気か!!相手はこっちの10倍だぞ!!」
使者の馬車が帰った後にゴライアスが詰め寄って来る。
「まー何とかなるでしょー
ちょっと偵察行って来るかなーゴライアス将軍はーまー戦陣引いてよ。
ローサ、お供ねー」
「はい!」
「ローデリアは陣の中に入ってねー」
「分かりました」
ユーリとローサを連れて敵の陣へ。
着くと普通に軍が前進しようとしている。
「おーとー?
本当に来ようとしてるねー」
ローサに帰って時間ない事を告げる様走らせる。私は街のど真ん中でやって来る軍を待ち受ける。
「何すんだ?」
「んー?
足止め的な?」
暫く待つと一番先頭に居る兵士達の顔がしっかりと見えて来る。
そして、国境を越える直前で軍隊は止まった。私はユーリを降ろして剣を引き抜く。
「ヤァヤァ!
遠からん者は音に聞け!近くば寄って目にも見よ!
我こそはサブーリン家次期党首にして畏れ多くも近衛竜騎士団団長のサーシャスカ・サブーリン!
5を数えぬ齢より!剣を握りて前線に立ち!
齢16にして女王陛下に名を知られる!」
全体を見回し一息。
「北に叛逆する部族あれば!女王陛下の御為に!我が一撃を持って鎮圧し!南に暴れる魔獣があれば!女王陛下の安らぎに!我が剣を持って征伐する!
そして!我は今!王国を犯さんとやって来た国敵を前に!我が生命を持ってこれを討たん!
我こそはと思わん者は一歩前に出よ!我が剣によって此処を守らん!」
鋒を敵に向けると敵軍はざわめいていた。久しぶりに大声出した。暫く待つと、敵の後方から馬が数騎駆けて来た。
そして、その馬達は国境沿いに止まると此方を見た。
「我々は義によって駆け付けた!
道を開けよ!」
「五万の大軍で我が祖国を犯さんとする貴様等に何の義がある!
義を見せるというならば!正々堂々と掛かってこい。
勇なき者は去れ!私こそが義によって立っている!
我こそはブルーダム平原にて10人抜きをし!ゴートデーモンを打ち破った!我が首に不足無し!」
一息ついて馬を左右に歩かせる。
「それとも何か?
帝国人は高々17の娘相手に劣る武人しか居ないのか?
ならば先に進むと良い!
我等近衛騎士と王立軍、総勢2万がお相手しよう」
「たった2万で5万の我々に何が出来る!」
敵の騎士が叫ぶ。
「貴様の様に一騎討ちにすら出れぬ軟弱な将軍の率いる軍なぞ半分以下で十分と言っているのだ!」
そう叫ぶと1人の騎士が前に出た。革の鎧に身を包んだ騎士だ。
「我が名はサルーン!
貴公の名は我が帝国にも轟いている!いざ尋常に!」
漸く1人釣れた。
意外に敵は手堅いな。
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