第26話 情け容赦ない近衛団長と人の心が欠如した殿下

 翌朝、重砲隊と呼ばれるクソでかい大砲の建造が始まった。この大砲はデカ過ぎて現場で組み立てて撃つというとんでも仕様の大砲らしい。


「これ、何時出来るの?」

「さ、さぁ?」

「すげー!城作るのか!?」

「違いますよ。これが大砲なんです」


 何時もの3人を連れて作業を見に来た。今日はうちの騎士団は休息の日にした。昨日の大戦果故に我々は暫く休みだといってある。もちろん、射撃をしても良い。

 練度向上に努めなさいとも教えているのだから。


「あのでかい丸い奴なんだ?」


 ユーリが馬車で運ばれてきたクソでかい丸い玉を指差した。


「あれが弾なんじゃなーい?

 フックついてるからあのクレーンで持ち上げて、中に入れるんじゃ無い?」


 最早土木工事だろ。

 何か親方みたいな奴があーだこーだと指示を出している。何してんだろ?


「どうだい、この攻城臼砲は?」


 そして、そんな馬鹿でかい大砲を眺めていると殿下が超ドヤ顔を見せながらやってきた。


「念の為に持って来させたんだ。

 これを使えばあの程度の城壁や門は破壊出来るだろう」

「はぁ、まぁ、何でも良いですぅ。

 さっさと終わるなら良い事なのでー」


 何て話してたら突然怒鳴られる。


「邪魔だテメェ等!!退きやがれ!!」


 何だコイツ?


「不敬罪」


 ビシッと指を指すとユーリとローサが斬り掛ろうとして殿下が二人に飛びついた。


「止めなさい!

 この人はこの大砲を作った鍛冶屋の親方!この人が居ないと大砲撃てないの!」

「はぁ?」


 殿下は下がれ下がれと2人を私の横に引っ張ってくる。


「お前、このお方を何方と心得る。

 王立軍元帥のエウリュアーレ殿下であるぞ」

「な、何だオメェは……」

「近衛竜騎士団団長のサーシャスカ・サブリーンだ」

「サーシャスカ・サブーリン……悪魔殺しの近衛騎士!?」


 親方がそう叫ぶと周りの作業員が手を止めてこちらを見た。


「あれが噂の……」

「無慈悲のサブーリンだ」

「近衛騎士サブーリンだぞ」

「め、滅多なことを言うと斬り殺されるぞ!」


 なにやら在らぬ噂が流れてくる。まぁ良いや。


「王族への不敬は死刑だ」


 次は無いぞと睨んでおく。

 近衛から来てる誰かがスパイだからね。媚び売っていかないと死んでまう。


「それで、この大砲は何時完成するので?」

「み、3日後には完成します、へぇ」


 3日。これ作るの3日も掛かるのか。


「じゃあ、4日後に作戦再開?」

「いえ、修正に2日程使うので一週間ほど後です」


 ダメじゃね?殿下を見る。


「一週間のうちに降伏勧告を行うのさ。

 で、投降してきた者は捕らえる」

「成程。

 投降しなかったら?」

「攻撃再開さ」


 そんな話をしている伝令が走ってやって来る。


「元帥!敵側から降伏勧告です!」


 何て?その場にいた全員が首を傾げる。

 伝令が持ってきた文を殿下が読み上げる。簡単に言うと、謀叛をした貴族は帝国側に帰属しあと1ヶ月もすれば帝国側から増援も来るからさっさと領地の外に出ろ。それか降伏しろ。そんな手紙だった。


「だ、団長、これ大変な事になりませんか!?」


 ローデシアが血相を欠いて私を見る。ふつーに帝国と戦争じゃん?


「姉上に伝えよ!

 帝国側に寝返った、と!軍を更に5万要請せよ!」

「私からも帝国と戦争なるので近衛の出動もお願いしますーって伝令だしてー

 自分達は国境側に向かいまーす。出て行く城の使者とか捕まえて情報漏らさないようにしまーす」


 ローサに準備するよう言ってから殿下を見る。この戦争早く終わらせるには非人道的な事をやるしか無い。確か歴史の授業とか今までの戦争だと疫病とか火矢とかでやってたよね。


「殿下、この城砦に兵糧の備蓄ってどのくらいあるんですかぁ?」

「分からんが、2ヶ月程だと思うよ」

「じゃー兵糧攻めは無理ですねー

 火矢と病死した馬や牛、死体放り投げ込んで疫病と火事を流行らせましょーか。

 水源はありますぅー?」

「毒を流すか?」


 殿下がニヤリと笑っていた。


「いえー堰き止めれば良いと思ったんですがー

 まぁ、殿下がやりたければどーぞ」

「うん。全部やろう。敵の嫌がる事は全てやろう」

「じゃあ、それは殿下にお任せしますー

 私は国境に通じる道を封鎖してきますぅ。

 食料と弾薬お願いしますねぇー」

「分かった。

 此方からも精鋭五千の兵を分かる。サブーリン団長の指揮下に加えよう。

 国境沿いを頼むよ」

「了解でーす」


 こうしてお気楽な攻城戦が一気にヤベー展開になった。


「撤収準備開始しました!

 3時間で終わります!」

「おっそー1時間半でやってー」

「い、1時間半!?」

「うん、よろしくー

 国境沿いの街に今日中に行くよー」


 ローサは分かりましたと走って行った。

 街までは此処から一日で着く距離だ。今出ればギリギリ夕暮れくらいに着く。


「む、無茶です!」


 ローデリアが性急すぎますと叫ぶ。

 

「無茶だろうがやるんだよぉ。

 近衛騎士だろぉ?舐めんなよー」


 ユーリにも準備して来なさいと告げてから殿下を見る。


「さ、流石の王立軍も今日中には出れないよ?」

「ええ、大丈夫でーす。

 王立軍は一週間迄に着いてくれれば良いのでーごゆるりとー」

「そ、そうか。

 因みにゴライアスは知ってるかい?」


 ゴライアス?誰だそれ?


「知りませぬー」

「うちの将軍の1人でね」

「はー有名なので?」

「もともと傭兵でね。

 君と戦場を共にした事もあると聞いたけど……」


 知らないなー


「まぁ、誰でも良いですぅ。

 それじゃあ準備出来次第出発しますねぇ」

「あ、うん。

 よろしく」


 こうして急転直下の大移動。

 戦争じゃん。国家間の。

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