第17話 凄く有名な凄くヤバい奴
さてはて、困ったことになった。
具体的に何がヤバいかって言うと、普通に魔族がやって来た。
「あー……それで、吸血鬼族の方が私に何か?」
「ゴート・デーモンと一騎打ちをして無傷で生き残った人間がいると聞いて、ツェペシュ様の代わりに見に来たの」
本当に貴女が?と目の前に座る女吸血鬼が私を見る。彼女の名前はヘルシング。フルネームはエイブラハム・ユカリ・ヘルシングと言うらしい。吸血鬼族は、父の名前・自分の名前・家名なので彼女の名前はユカリと言うらしい。が、普通に彼女は大貴族クラスの地位であり何なら我々人間よりも遥かに強いので普通にヘルシング卿と呼ぶしかない。インテグラル・ファルブルケ・ウィンゲーツ・ヘルシングではないらしい。インテグラル様と違って眼鏡でも褐色でもない。黒髪ロングで死体のように肌が白く眼が真っ赤だ。
「吸血鬼族が珍しい?」
ヘルシング卿は私を見るとクスリと笑う。
「ええ、まぁ、はい。
何なら初めて見ました」
「そう。貴女の初めては私であることを、貴女は光栄に思う事ね」
「はぁ、ありがとう御座います」
吸血鬼族は非常にプライドが高い。プライドが高すぎて直ぐに外交問題になる。国同士で接するより個人間同士で接している方がよっぽど平和なのだ。故に、この部屋には私以外にも普通に陛下と殿下に其々の連れて来た共周りとかがいるがヘルシング卿は私としか会話せず周りもただただ座っているだけだ。
ヘルシング卿のお供の吸血鬼も会話どころか言葉を発する気すら見せずに私とヘルシング卿の話を傾注している。
「感涙に咽びく所よ?
まぁ、良いわ。貴女の使った剣を見せなさい」
「剣は折れたのでこれで戦いました」
ハイと差し出すのは火かき棒と死の刃を差し出す。
「はぁ?何これ?」
「凄いでしょう?」
何の素材か知らんがかなり頑丈。形ほんと好き。滅茶苦茶良い。
「一目惚れでしたよ。
面白いでしょう?」
なんならこれもう一本あるし。
「え、何で2本もあるわけ?」
「ヤギ頭倒したら女王陛下が何でもやるって言うのでならもう一本ってかんじでしてー」
「馬鹿なの?
ヤギ頭の悪魔を倒したならかなりの名誉なのよ?こんなおもちゃなんかじゃ無くて宝剣とか魔剣とか頼みなさいよ」
「えー?
そう言うのはあんまり興味ないんでぇ、ええ」
折れなくて安いなら尚更ね。
「その短剣は?」
「殿下が謀反した時に殺す様にと渡された物です」
ねぇ?と陛下を見るとこちらを滅茶苦茶睨んでいた。なんか、いつも睨んでるよねこの人。
「普通、そう言うのって黙ってると思うわよ?本人もいるし」
ヘルシング卿は殿下を見た。
「あ、なんかこれ叛逆じゃない?とか考えるのだるいのでぇー私に通告なく不審な動きしたら殺しますねぇって言ってあるので大丈夫ですよぉ」
ハッハッハッと笑うと殿下がその通りですと苦笑していた。
「それで貴女はその女を殺せるの?」
「まぁ、ヤギ頭のデーモンよりは弱いと思うので、まぁ、はい」
行けるやろ。知らんけど。
「……そうね。
そこの女が貴女に勝てるとは思えないわ」
「まぁ、軍を使われたら面倒臭いかもですねぇ〜」
銃弾の雨霰は流石に避けれん。
「凄い自信ね。
一通り調べたけど、王立軍の将軍クラスは近衛に比肩するとのことよ?」
「ならば何故近衛に召集されないので?」
そんなに強いなら近衛が召集して近衛騎士にでも入れるだろう。
「蹴り続けてるそうよ。詳しくは知らないし興味ないから調べてないけど」
ふーん。
「私も興味無いので分からないですねぇー
まぁ、何にせよ殿下が謀反を起こさなきゃ良い話なので、えぇ、はい」
私関係ありませんのでーと言う顔をしていると後ろから殺気が飛んで来た。思わず振り返りながら火かき棒を投げつつ、陛下の前に飛ぶ。
私の投げた火かき棒は殺気を飛ばした相手の顔面に深々と突き刺さり即死。
「謀叛だ!!」
大声で出会え!と叫びつつ死の刃を殿下にスローイン。
死の刃は殿下の喉元に刺さる直前にヘルシング卿の杖に止められた。
「凄いわね、貴女」
ヘルシング卿は杖に突き刺さった死の刃を引き抜きながら私を見た。何だろ?邪魔するのやめてもらって良いですか?
咄嗟の妨害によって殿下を殺さなかったので仕方ない残る火かき棒で殿下の頭をかち割る為に居合めいて抜いた。
「え、ちょっ!?」
ヘルシング卿が私の火かき棒が殿下の頭に直撃する直前に杖で防がれる。
「やめなさい!」
「何事だ!」
「陛下を守れ!」
「殿下!」
部屋に入って来たのは他の騎士団長や殿下の所の騎士達だ。
「殿下の謀叛だ!
陛下を外に!ヘルシング卿、その杖をお引き下さい」
私の言葉に騎士団長が剣を抜いて陛下の騎士達に向ける。それにほんの僅かに遅れる様に他の団長達も剣を抜く。それに呼応して軍側も剣を抜いた。
陛下はミュルッケン団長が外に連れ出す。
「やめなさい!
謀叛じゃ無いわよ。私のチャームを掛けたのよ」
ヘルシング卿は杖をペンと弾く。割とガチで力入れてたけど大木を押してるような感じだし、普通に弾かれた。
「ごめんなさいね、王様も呼んできなさい。
ツェペシュ様が貴女の実力をその目で見て来いっていうから利用させて貰ったの。剣をしまいなさい」
んー……
「申し訳ありませんが、原因が貴女で殿下に叛乱の意思がないと分かっても剣は仕舞えません」
「何故?」
「何故?
私は貴女の配下ではありません。殿下の配下でも」
「じゃあどうすれば貴女は剣を仕舞うわけ?」
笑ってしまう。
「私は陛下の騎士です。
私に命令出来るのは、この国の王たる女王陛下のみ。貴女でも貴女の王たるツェペシュ様でもありませんので」
脇に倒れる殿下の配下から火かき棒を回収し、床に落ちる死の刃も拾い上げる。
「さて、私は陛下が剣を納めよと言うまで戦うしかありません。
私は貴女に勝てるかは分かりませんが、まぁ、この場にいる殿下の軍勢を我々近衛が制圧する時間は稼げるかと。
さぁ、準備を」
両手に火かき棒を抜いて殿下とヘルシング卿を見る。
「貴女達の王を呼び戻しなさい!」
ヘルシング卿が叫び、1人の近衛騎士が飛び出ていった。
「は、話し合おう!私の本意でも何でもない!」
「ええ、知ってます。しかし、現実は殿下の配下が私に対して殺気を飛ばして来た。殿下の、配下が。宣戦布告です」
「剣を納めよ!」
どうするか、と考えていたら部屋に陛下の怒声が轟く。見れば息を切らした陛下が入口にもたれ掛かりながら此方を睨んでいた。
「剣を納めよ、サブーリン!」
「……仰せのままに」
剣をしまい、陛下の前に傅く。
「ヘルシング卿、申し訳ないが、今日のところはこの辺りで解散して貰いたい」
「え、ええ、そうね」
「そして、もう2度とこの様な児戯をお止め下さると我々としては有り難いのですが?」
「そ、そうね。
悪戯が過ぎました。
追って文章での謝罪も致します」
「そうしていただけるならば幸いです」
この後ばっこし怒られた。
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