第16話 本格的にやべー奴。

 ヤギ頭の悪魔を倒し、死体を引き摺って帰ること5日。大森林前の駐屯地に帰る途中でも何度かゴブリンやオークの襲撃に遭った。

 連中の狙いは悪魔の死体っぽかったが、死体にたどり着いた奴は私が全部斬り殺してやった。盗人猛々しい。

 帰還も中々に大変だったが無事辿り着いてみれば良い経験になった。


「さて、何とか帰ってきたが感想は?」

「えー?

 私的には、ちょっと強い奴と戦って後はずっと馬乗ってただけなので、尻が痛いなぁって」


 殿下に感想を求められるので尻が痛いと答えると近くにいた全員がざわついた。それよか死の刃が強過ぎる。そら使用禁止にするわ。ゲームだと特定エリアの特定ボス(大体不死身)を殺す為の武器だもん。

 そこ以外だと攻撃力とか付与されてるスキルはただのダガーと変わらんって奴。


「や、ヤギ頭の悪魔と戦った感想は?」

「えー……と、うん。

 そこそこ強かった。剣折れちゃったし。副団長より強かったんじゃない?」


 膂力なら悪魔の方が上だろうね。


「そんな存在に君は勝った訳だが?」

「死の刃さえあれば近衛なら誰でも勝てますよ」


 避けてただけだし。


「実に心強いな、本当に」

「はい殿下。

 それに私は陛下から命も直々に受けておりますし、それが済むまでは死ぬに死ねませんよ」


 ハッハッハッと笑いながら陛下の顔色を見ておく。殿下は苦笑した。


「帰ったら姉様に報告に?」

「ええ、私の上司は女王陛下なので」


 ほうれんそうは大事。


「なら私も同行しよう。

 悪魔の死体と杖を持って行けば君の功績も嘘だとは思われないだろう」

「あ、え?

 これ、報告あるんですかぁ?」

「いや、寧ろこれメインになるくらいの報告なんだけど?」


 なんか面倒臭いなぁ……


「いえ、別に私の活躍とかどーでも良いので銃士隊とー殿下のこと報告しますぅ」

「え、なんて?」

「銃を使えばクソでかい蜘蛛と蛇を殺せるのと、殿下の育てた軍隊は恐ろしいまでに任務に忠実だ、と」

「あ、うーん……私も行くよ」


 お先にどうぞ、と。

 それから1週間ほどして王都に戻り、私はその足で玉座の前に連れて来られる。


「フツーに帰って寝たい」

「え、それふつーに言っちゃう?」


 隣に立っている殿下が私を見た。


「えー?ああ、まぁ、そっすねぇ……独り言なんで」


 そんな話をしていたら陛下がお見えするぞと言われるのでその場に傅いた。殿下は普通に立っている。


「報告の場なので殿下も傅いた方が良いかとー」

「殿下は妹君であらせられるぞ!」


 傍にいた軍側の貴族が叫ぶ。


「それはつまり、国王陛下とエウリュアーレ殿下は対等である、と?」


 首を殿下の方から貴族の方に向ける。


「それとも、殿下が陛下と事があると?」

「な、何が言いたい!近衛騎士風情が!」

「お分かりになりませんか?

 なら、言葉を選ばずに言うと殿下を頭に軍とそれに賛同している貴族達でクーデターを起こしているのか?と聞いているのです。

 殿下は陛下の戴冠時に国民がふさわしく無いと感じたら陛下を殺して国を国民に返すと仰ったそうですね?」


 殿下を見る。殿下は頷いた。


「故に国政を頑張ってくれと言う意味だよ」

「まぁ、私も殿下の性格ならそう言う意味かなぁ?と思いつつもありますが、まぁ、言葉というのは受け取る側が如何様にもできる」


 私が言うと殿下は笑いながら首を振る。


「私にはステン姉様の首を獲るなんて考えてないよ。

 君が姉様に傅かないのを謀反の兆候だと捉えるなら私はその疑いを覆すべく傅こう」


 殿下が笑顔で告げた。胡散臭い笑みに見える。


「そこまで言うのならば傅かずとも良い」


 陛下の声が聞こえたので頭を深く下げておく。


「面をあげよ」


 陛下の言葉に私は顔を上げる。陛下はいつも通りに椅子に座らずに立っている。


「サブーリン、報告せよ」

「はい陛下。

 今回は殿下の育てた軍隊を拝見しましたが、非常に統率が取れており多少の被害でも瓦解せずに積極的に指揮に入っています。

 今回、でっかい蜘蛛と蛇に襲われましたが、少ない損害でその二匹を倒してしまいました。

 戦闘時間も僅か15分ほどです。銃は魔物に対しても有効であると断言しても良いかと」

「成程。

 戦闘あいだお前は何をしていた?」

「空から降って来たちょっとしたモンスターを相手に戦っていました」


 答えるとすかさず殿下がその事で報告が、と前に出た。そして、持ってこいと告げると扉が開きヤギ頭の悪魔の死体と杖が運び込まれる。

 謁見の間には悲鳴やざわめきが上がった。陛下も流石に顔が青ざめていた。


「何だそれは?」

「や、ヤギ頭の悪魔ですよ、陛下……」


 そう答えたのはドラクロア副団長。


「知っているのか?」

「ええ、もちろんです。

 私が三つの命を全て使って漸く撃退出来る魔族に近い魔物ですよ」

「魔族に近い魔物だと?」


 魔族、とは所謂高い知能を持ちある程度の文明を築く存在らしい。例えば吸血鬼族とかサキュバス族とか。

 因みにゴブリンとオーク等も魔族に近い魔物に区分されてる、らしい。全部殿下が教えてくれた。


「それも倒したのか?」

「これを倒したのはサブーリンです。

 15分ほどの戦闘で」


 殿下の言葉に謁見の間が騒ついた。


「本当か、サブーリン?」

「ええーっと、まぁ、はぁ、そうっすねぇ。

 でもまぁ、副団長も死の刃あれば倒せると思いますよぉ?」

「「「そんなわけあるか!!」」」


 殿下とドラクロア副団長に知らない爺さんに怒鳴られた。


「ええ?余裕だと思うんだけどなぁ?」

「その根拠は?」


 陛下が口元を扇子で隠して私を見た。


「攻撃いなしまくってー隙見て、こう、死の刃をえい、と」

「ちなみに、そいつとやり合ってたのは火かき棒ですよ」


 殿下の言葉にふざけるな、と騎士達が叫び、騎士団長達が呆れ果てた顔をする。


「褒美をやる。

 何が欲しい?」

「えー?

 特には……別に殿下が戦えと命令したし、殿下を殺されるのも流石に不味いかなぁ?って思ったので戦っただけですしぃ」

「何でも良いからほしいものを言え」


 陛下は呆れ果てた様に言って来た。


「えー?あ、じゃあこの火かき棒もう一本欲しいっすねぇ。

 二刀流、かっこよく無いっすかぁ?」

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