第14話 魔物と森と騎兵隊

 よく考えなくても、森の中で騎兵の立ち位置は無い。当たり前だ。整備されて居ない木々の間を馬は全速力で走らない。馬が良くても人間が良くない。

 鹿のように左右に飛ぶように走るしかない。


「と、言うわけでー森で私たちの仕事はありません。伝令頑張っていきましょー」


 森の前で殿下の有難い話を聞き、解散となったので私は小隊を集めて告げる。小隊軍曹も仕方ないと頷いて居る。

 と、言っても私の立場から司令部付き伝令予備という事で正式な伝令達の邪魔もしないただただいるだけの部隊になっている。私としてはそれは楽なので問題ない。


「しかし、大森林には初めて来たけど薄暗いし何かどこも同じ様な景色で迷いそうだねぇ」


 馬の背から見渡せる範囲はどこまで行っても似た様な景色だ。

 時折木々の合間から子供の様な人影がこちらを見ていたり何やら角が大変なことになっている鹿がいたりするだけだ。あの子供はなんだろうか?

 よく見れば頭に赤黒い頭巾を被っていた。赤ずきんか?


「軍曹」

「はい小隊長」

「木々の合間からこちらを覗いている子供の様な影はなんだろうか?

 赤黒い頭巾を被り一定の距離を取ってずっとついてくるのが気になる」

「なんですって!?何処です!」


 軍曹が血相を欠いて周囲を見回すとラッパ手と怒鳴った。


「危険信号を吹け!」


 ラッパ手がラッパを咥えた瞬間だった。ラッパ手の視覚外から矢が飛んで来る。私はそれを剣で弾いてやり、ラッパ手はそれに気が付かないままラッパを吹いた。

 4小節程の曲を2回吹くとあちこちで同じ音色が響き渡り号令が飛び交う。それを合図にあちこちから矢が降ってきた。


「おぉ、矢が飛んできた。ハッハッハッ」


 狙いも数も甘い。まぁ、木々が邪魔しているので敵も矢を多く射てないのだろう。


「敵はレッドキャップ!」


 レッドキャップ、聞いたことあるぞ。赤い頭巾を被った人間しか狙わない魔物達でかなり賢い、らしい。


「レッドキャップはそこまで強いのか?」

「はい。

 ゴブリンやサテュロス等の小柄である程度の知能が高い連中からなる組織です。魔物の生態がよくわからないのですが、正規軍で相手にしないと少数精鋭の冒険者では相手になりません」


 ほーん。


「それは怖いねぇ〜」


 怖いねぇーと言ったが私には指示が来ないので取り敢えず、その場で待機。

 ものの5分ほどで矢を凌ぎながら長方形の陣を作り上げる。私は馬で横歩きやバックなどさせて遊んでいた。


「どうだい、私が育てた軍は?」


 遊んでいるとエウリュアーレ殿下が兜を被りやってきた。


「え?あ、はぁ、まぁ凄いのではないですか?

 それで、防御しても相手が来なければ意味ないのでは?」


 防衛陣を作り上げたあたりで矢は降ってこなくなった。


「ならば斥候をだそうじゃないか。

 君、暇なら見てきたまえ」


 エウリュアーレ殿下は私を試す様に笑いかける。ふむ。


「了解です。

 小隊は全員我に続いて索敵行を実施する。

 我に続け」


 道を開けろと兵士に告げて抱かせると、森へ。私が駆けると小隊も続く。


「隊列を組まねばやられます!!」

「騎兵とは何ぞや!」

「はぁ!?」

「騎兵とは何ぞや!!」


 隣に来た小隊軍曹に尋ねる。


「騎兵とは突破力だよ、軍曹。

 槍を貸してくれ。私には見えているんだ」

「私のを!」


 隣に追い縋って来たローサから槍を借りると木の影に向けて突き刺す。すると隠れていたゴブリンに刺さった。


「ほら?

 次はあそこだ」


 反対の木に突き立てると今度はヤギの下半身を持ったおっさん。サテュロスが刺さっていた。


「ハッハッハッ。

 敵はあちこちに潜んでいる様だな」


 長方形の陣を大きく旋回する様に2周。私達は20近いレッドキャップ達を仕留めた。


「こんな場所では隊列なんぞ組めないよ、軍曹。

 敵は威力偵察だろう?」


 終盤では逃げ出そうとしていた者もいた。つまりはそう言う事だ。何体かは絶対逃げている。走っても追いつけない距離に人影みたいなのが見えたし。


「ハッハッハッ、殿下に報告しようか」


 レッドキャップだの何だと言っても所詮は小勢。相手にすらならんな。


「殿下ー敵斥候は撤退しましたー

 さっさと行きましょう」


 殿下の前にゴブリンやサテュロスの死体を投げてみる。


「損害は?」

「無いですよーこんな子勢相手に」


 ねぇ?と軍曹達に笑うと首を振った。


「レッドキャップ達は少数精鋭です。

 大部隊の司令部を狙って攻撃を仕掛けてくるのが奴らの常套手段です」

「へー?

 でも、普通に雑魚かったよ?」

「こんな森を騎馬が全力で駆けてくるとは敵も味方も想像してない筈です。

 怖く無いので?」


 えー?


「隊列を組んだら無理だけど単騎なら行けたでしょ?」

「我々でなければ付いていけません」


 軍曹が断言する。


「ふむ。

 存外、君達は練度が低いのか。いや、しょうがないか。所詮は徴募の集まり。ふーむ」


 考え直す必要があるかも。

 騎士の様に、はやめるか。


「ま、良いかぁ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る