第12話 近衛騎士は小隊長。
さてはて、エウリュアーレ殿下の直轄領に視察という事でどんなもんだい?と思っていたらフル装備の大部隊が行軍隊形を作って前進していた。
「視察に行くのにこんなに大軍必要なので?」
「うん?
君は私の直轄領が何処か知らないのかい?」
「しりませぬ」
「大森林だよ」
大森林、魔物が蔓延るダンジョンの一つで他国だと高ランク帯の冒険者が偶に来るらしい。
「そんな所に行く理由は間引きですか?」
「いかにも。
そして、軍の士気を高め練度を向上させ、恐怖心を無くすのに一番誰も損しない方法なのよ」
成程。
「君にも一個小隊の騎兵隊を預けよう。
活躍の場を用意するから是非とも近衛の力を見せてくれ」
「いや、私そう言う教育受けてないですよ。
マジで下っ端と一緒です」
「下っ端でも良い。
信頼の置ける小隊軍曹を付けてあるから何でも聞いて頂戴」
殿下はそう言うとすぐ横に歩いていた騎兵を見遣った。騎兵を率いていた騎士が寄ってきて剣を引き抜き敬礼をする。
「馬上より失礼致します、サブーリン隊長」
どうやら小隊軍曹らしかった。軍曹は自己紹介をして正体に関する事ならなんでも申し付けてくれと言った。
「成程、了解です殿下」
殿下はウムと何が楽しいのやらニコニコしていた。
それから数日の大行軍を経て何処ぞの駐屯地に辿り着く。野営は終わりだ。
「此処で2日休む。
その後は3日の行軍をして目的地に辿り着く予定だ」
殿下がそう説明する。他の部隊長達も聞いていた。どうやら完全に説明がないのは私だけでは無いらしい。
「いつもこんな適当なので?」
「ええ、元帥の方針でいつ如何なる時でも即動出来る用意をして旅程も元帥がお決めになられます」
軍曹に尋ねると何でも答えてくれる。
「成程。
じゃあ、2日の休養は軍曹の裁量でいい感じにやってよ。はいお金」
金貨を2枚ほど渡すと目を丸くされた。この2枚は並みの騎士の二ヶ月分の給料だ。二日ぐらいなら余程の場所は行かなければ大した事にはならんはずだ。知らんけど。
「じゃ、そう言うことで別れ」
面倒臭い事は知ってる奴に投げるのが一番だ。
「小隊長殿はどうなされるのですか?」
「私はエウリュアーレ殿下の周りをウロウロして学ばねばならない。
責任は取ってやる。良心と法に反せぬ事なら何でもやると良い。それにいきなりやってきた娘ほどの小娘に媚び諂うのも飽きてきたでしょ?
その金で酒や女を買って明後日からの行軍に英気を養うと良い」
そこまで言うと軍曹はハァと気の抜けた返事をする。それから下がると1人の若い女兵士がやって来た。ロングソードは差していないので騎士階級ではない。しかし、我が小隊は皆騎馬だ。農民出なのだろう。
「軍曹殿の御命令で、小隊長殿の御付きをさせて頂きます!ローサと言います!」
「んー?
別に必要ない。君も軍曹達と共に2日を楽しむと良い」
「いえ!自分は下戸かつ下っ端なので寧ろ小隊軍曹殿の好意であります!それに、その、私は小隊長殿の様に騎士に憧れておりまして……」
成程なー
「まぁ、君が良いなら良いよ。
馬に乗って此処に来なさい」
「はい!」
暫くすると滅茶苦茶立派な軍馬に乗った兵士がやってくる。武器は槍だった。馬用の長い奴。少し太く、穂先にはナイフの様な太い刃が付いていた。日本の槍に似ている。
「それ、どうにかならない?」
長過ぎて邪魔になりそう。
「あ、はい」
ローサはそうだったと言う顔で槍の真ん中をクルクルと回し始める。すると槍は二分割されて短槍2本程になり、馬の鞍にぶら下げれる様になった。
なるほどなぁ。
「んじゃ殿下のところに行きましょー」
殿下は何処におる?と聞けば駐屯地の一番偉い人の部屋だと言われた。近衛騎士のサブーリンだと言うと直ぐに案内される。
部屋に入ると何やら平騎士の格好をしていた。
「丁度良いところに来たわね。
これから街に出るわよ」
「はぁ、どうぞー」
勝手にしたらええやろ。今日は何もなさそうだから部屋に帰って寝るか。
「貴女も行くのよ」
「えー?まぁ、御命令ならば」
仕方ない。
「命令ではないわ。
私個人でのお誘いよ」
「……貴女個人でもそれはエウリュアーレ殿下である訳で。
私にノーと言う権限はありませんよ。それで、その様な格好をして何処に行くので?」
「貴女の分もあるわ」
着替えろと言われたので着替える。
国軍の士官服だった。つまりは殿下と一緒。そのまま馬に乗らずに駐屯地の外に出る。色町が近くにある。
「街中の治安は悪いですね。
ゴロツキや傭兵崩れみたいなのが我が物顔で歩いてます」
私の言葉にローサは驚いた顔をこちらに向けるし、殿下は笑った。
「大森林に来たことは?」
「ありませんが?」
「あれらが他国の冒険者だ」
冒険者を初めて見たが最早ゴロツキだ。
そして、卑下た目で私や殿下を見る。
「よぉ、姉ちゃん!
俺達と飲まねぇか?」
そんな連中を眺めていたら何を勘違いしたのかゴロツキ達が話しかけて来た。
「誰に話しかけている!
此方におられるのは畏れ多くも「遠慮させて貰う!先約があるのでな!」
腰の剣に手を掛けて追い払おうとしたら殿下ぎ私を羽交締めにして去って行く。
「お忍び!お忍びだから!!」
「お忍ばなくても良いのでは?」
「馬鹿者!
この雰囲気が良いのよ!」
何故か怒られた。
仕方ないので黙ってついて行くか。
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